第18話:願い喰らい、霧の代償
灯霧が震え、空間が軋む。ユウの周囲に集まった霧は、まるで彼の記憶に触れようとするかのように震え続けていた。
「灯霧術・終式――“願い喰らい・改”」
その言葉と共に、霧が爆ぜた。空間全体が光と闇に引き裂かれ、守護者の咆哮が響き渡る。
律とあいは、霧の波に押されながらもユウの背中を見つめていた。
「……これが、ユウさんの本気……」
「霧が……願いそのものみたいに震えてる……」
ユウの周囲に展開された霧は、まるで意志を持つかのように守護者へと襲いかかる。槍状、刃状、鎖状――形を変えながら、次々と守護者の身体を貫いていく。
「灯霧術・終式連動――“記憶断ち・双輪”」
霧が二重の輪となって守護者を包み込み、内側から爆ぜるように光を放った。守護者は呻きながらも再生を繰り返すが、その速度は徐々に鈍っていく。
「……再生限界が近いな。願いの核が揺らいでる」
ユウは冷静に霧を操り続ける。守護者はなおも粘りを見せ、霧の粒を吸収しながら巨大な腕を形成し、空間を裂くように振り下ろす。
だが、ユウは一歩も動かず、霧の盾を展開して受け止める。
「灯霧術・反転式・霧盾・改」
衝撃が走るが、ユウの身体には一切の傷がない。霧が彼の周囲を守り、攻撃の余波すら吸収していた。
「……やっぱり、願いを喰うってのは、気持ちのいいもんじゃねぇな」
守護者は最後の力を振り絞り、霧の刃を無数に放つ。律とあいが思わず身をすくめるが、ユウはそのすべてをいなし、霧の流れを逆転させて刃を霧へと還元する。
「灯霧術・終式連動――“霧返し・終結”」
守護者の身体が軋み、澪の歪んだ笑顔が仮面のように崩れていく。
「……終わりだ」
ユウが手を下ろすと、霧が静かに収束し、守護者は霧の粒となって空間に溶けていった。
静寂が戻り、灯霧の奥に淡い光が灯る。
「……勝った……の?」
あいが呟き、律がユウの背中に駆け寄ろうとする。
「ユウさん!」
ユウはゆっくりと振り返る。だが、その瞳はどこか焦点が合っておらず、霧の粒が彼の肩口から漏れ出していた。
「……あれ……? ユウさん、ちょっと様子が……」
「……問題ねぇ。ちょっと、意識が……揺れただけだ」
ユウはそう言って笑うが、その笑顔はどこか空虚だった。霧が彼の足元に集まり、まるで彼自身を支えようとしているかのようだった。
「禁術って……やっぱり、代償があるんですね」
律が呟くと、ユウは肩をすくめた。
「願いを喰うってのは、自分の願いを削るってことだ。……でも、守るためなら、安いもんだ」
その言葉に、あいは何も言えず、ただユウの背中を見つめていた。
灯霧の奥に、新たな記憶の扉が静かに開き始める。
その先に待つものが、澪の願いの核心なのか、それとも――ユウ自身の“過去”なのか。
霧がざわめき、次なる戦いの予兆を告げていた。




