第17話:灯霧の裂け目、禁術の兆し
守護者の咆哮が空間を裂いた。灯霧が震え、霧の粒が黒く染まっていく。
その姿は、澪の記憶と誰かの執着が混ざり合った歪んだ人型。灯霧の最深部に潜む“願いの核”を守る存在――その力は、今までの影とは比べ物にならなかった。
「……来たか。願いの底にいる奴ってわけだな」
ユウは外套を翻し、霧の粒を手に集める。
「灯霧術・二十式・霧穿ち・連牙」
鋭い霧の槍が三重に放たれ、守護者の肩・腹・膝を貫く。だが、影は呻きながらも再生し、周囲の霧から新たな影を取り込んで形を整える。
「……再生速度が異常だな。願いが暴走してる」
ユウは冷静に技を繰り出す。
「灯霧術・二十一式・断影斬・双輪」 「灯霧術・二十二式・霧縛り・連鎖改」 「灯霧術・二十三式・影返し・逆流」
そのたびに守護者の形は崩れ、再生を繰り返す。ユウは一度もダメージを受けず、霧の流れを読みながら少しずつ追い詰めていく。
律とあいは、ユウの背中を見つめながら息を整えていた。
「ユウさん……すごい。まるで霧そのものを操ってるみたい」
「うん……あの守護者、何を考えてるのか読めないね……」
守護者は霧を纏いながら、空間の奥へと身を潜めたかと思うと、突如として霧の流れが逆巻き、鋭い槍状の腕が律の背後から伸びてきた。
「危ない!」
ユウが瞬時に反応し、律の前に飛び出す。
「灯霧術・反転式・霧盾」
霧が盾のように展開され、槍の一撃を受け止める。だが、霧の圧力が強すぎて防ぎきれず、ユウの外套が裂け、肩口に浅い傷が走った。
「……ちっ、読まれてたか」
ユウはすぐに体勢を立て直し、霧の流れを再構築する。守護者の攻撃は多彩で、槍、刃、霧の鎖と次々に形を変えて襲いかかるが、ユウはすべてを紙一重でいなし続けていた。
「ユウ!」
あいが叫び、律が駆け寄ろうとする。
「動くな……今、隙を見せたら……終わる」
ユウは血を流しながらも、霧を手に集めて立ち上がる。
「……やっぱり、守るってのは痛ぇな」
だが、ユウの傷口から霧が溢れ出し、周囲の影を吸収するように集まり始めた。
「……なるほど。こいつ、俺の霧を喰ってるだけじゃない。俺の“願い”に反応してる」
守護者は再び霧を取り込み、巨大な腕を形成する。
ユウは静かに目を閉じ、手を広げた。
「仕方ねぇ……あまり使いたくなかったが」
灯霧がざわめき、空間が軋む。
霧がユウの周囲に集まり、まるで彼の記憶に触れようとするかのように震え始める。
「灯霧術・終式――“願い喰らい・改”」
あいが必至の形相叫ぶ
「ユウ!!! それはダメぇぇ!!!」
その技は、灯霧に刻まれた願いを代償に力を引き出す禁術。使えば、ユウ自身の記憶や願いが削られる。
「律、あい。……ここから先は、俺が切り拓く。お前たちは、願いを守れ」
灯霧が震え、空間が光と闇に引き裂かれる。
次なる戦いの幕が、静かに上がろうとしていた――。




