第12話:灯霧の揺らぎと願いの残響
ドーラです。
だいぶ涼しくなってきましたね。やっと過ごしやすい日々に安堵してます。
あぁハイボールがうまい(^^♪
灯霧の庭での激戦を終えた律とあいは、一度拠点へと戻り、静かな時間を過ごしていた。霧の流れも穏やかになり、庭の空気には微かな安堵が漂っている。
「ふぅ……やっと落ち着いたね」
あいが霧の泉に腰を下ろし、律はその隣で折り紙を折っていた。星の形を丁寧に整えるその手つきに、以前よりも迷いがない。
「律の折り方、ずいぶん綺麗になったな」
ユウが背後から声をかける。あいは振り返り、少し照れたように微笑んだ。
「記憶修復の精度も上がってきた。お前たちはよく頑張ってるよ」
律は折り紙を掲げながら言った。
「澪の記憶に触れたことで、僕自身も変わった気がする。願いを形にするって、こんなにも重いんだなって」
ユウは頷きながら、霧の流れを指先でなぞった。
「願いは、心の奥にあるものだからな。形にするには、覚悟がいる。……でも、君たちはその一歩を踏み出した」
その夜、律は現実世界へと戻った。目を覚ますと、窓の外には秋の風が吹いていた。久しぶりに翔太と美咲と会う約束を思い出し、駅前のカフェへと向かう。
「律、顔色いいじゃん。何かいいことあった?」
翔太が笑いながら言い、美咲は静かに紅茶を口に運ぶ。
「……少しだけ、澪の記憶に触れられた気がして」
律はそう言いながら、カバンから古びたしおりを取り出す。澪が手作りしてくれたもので、端には小さな花の模様が描かれていた。
「澪が言ってたんだ。『願いは、誰かに伝えると強くなる』って」
美咲がそっと言葉を添える。
「澪、よく律のこと見てたよね。あの子、律のこと……すごく大事にしてた」
律は頷きながら、澪との記憶を辿る。
――春の午後、校舎裏の桜の木の下。風に舞う花びらの中、澪がそっと律の制服の袖を引いた。
『律、ちょっとだけ……こっち来て』
ふたりきりの空間。澪は少し照れながら、小さな箱を差し出した。
『これ、作ってみたの。律の好きそうな色で……』
中には、手作りのブレスレット。青と銀の糸が編み込まれていて、律の名前のイニシャルが小さく刻まれていた。
『……誕生日、覚えてたから。渡すの、今日がいいかなって』
律は驚きながらも、胸が熱くなるのを感じた。
『ありがとう、澪。すごく嬉しい』
澪は顔を赤くしながら、そっと言った。
『……律が笑ってくれると、私も嬉しいから』
その言葉は、今も律の胸に残っている。
「……澪の声、少しだけ思い出せた気がする」
翔太が肩を叩き、美咲が微笑む。
「それだけでも、澪はきっと喜んでるよ」
その夜、律は再び灯霧の庭へと戻った。ユウとあいが霧の泉のそばで話していた。
「ユウさん、少し話があるんです」
律が真剣な表情で切り出す。
「この前、顔に影が掛かった男が現れて戦闘になったんです……まったく歯が立たなくて。気を失ったけど結局そのまま放っておかれて…何かわかりますか? 澪の記憶に現れる影とは違うような気がして」
ユウはしばらく黙っていたが、やがて静かに語り始めた。
「……あれは、灯霧に囚われた者だ。かつて、強い願いを持っていたが、それが叶わず、灯霧に閉じ込められた。名前も記録も残っていない。今では“願いの残響”を追い求める存在になってしまった」
あいが不安げに問う。
「願いの残響……それって、人の願いに反応するってこと?」
ユウは頷く。
「そうだ。強い願いに引き寄せられ、その願いを奪おうとする。自分の願いを叶えるために、他者の願いを喰らうようになった。……危険な存在だ」
律は拳を握りしめた。
「澪の願いが、そんな存在に狙われるなんて……絶対に守らなきゃ」
ユウは静かに言った。
「君たちが進む先には、もっと深い灯霧の揺らぎが待っている。だが、君たちなら乗り越えられる。……願いを信じる力があるから」
あいは律の手をそっと握り、微笑んだ。
「一緒に、澪の願いを守ろう。灯霧の奥にある、本当の記憶にたどり着くために」
霧が静かに揺れ、月の光がふたりの背を照らしていた。は静かに言った。
「君たちが進む先には、もっと深い灯霧の揺らぎが待っている。だが、君たちなら乗り越えられる。……願いを信じる力があるから」
あいは律の手をそっと握り、微笑んだ。
「一緒に、澪の願いを守ろう。灯霧の奥にある、本当の記憶にたどり着くために」
霧が静かに揺れ、月の光がふたりの背を照らしていた。
ちなみに演劇の方では謎の男はちょい役にしました。
でも謎の男・・・小説ではどうしようかな(不敵な笑み)