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第八章:本棚の中の世界

 中央通りを抜けた先、小さな建物がひっそりと佇んでいた。

 外から見ると、特に目立つこともなく、人の出入りも少ない。だが、扉の上には確かにこう書かれていた。


 《公立文庫館》


 ナゴミは扉を押して中へ入る。

 中は静かで、紙と古木の匂いが満ちていた。


 カウンターにいる老司書に軽く会釈をし、本棚の間をゆっくり歩く。


 「……広くはないけど、十分だな。」


◇ ◇ ◇


 最初に手に取ったのは、地理の本だった。


 《ティルフォーン世界図録:第四版》


 開いたページには、手書き風の地図が描かれていた。

 そこには、聞いたこともない名前の大陸がいくつも記されていた。


■ この世界の大陸

ルーグレイン大陸:最も人口が多く、王国と都市国家が混在。ナゴミが今いる場所もここに属する。


ナールデス半島:氷に閉ざされた地。獣人と氷の精霊が住むと言われている。


ゼラノア環礁帯:海と島で構成された群島国家群。空を泳ぐ魚が名物とされる。


フォル・ダエル:霧に包まれ、古代文明の遺跡が点在。未開の地が多い。


サルバ・エルナ:地中に拡がる広大な地下世界。光の届かぬ種族が暮らすという。


 「……異世界っぽいけど、どこか、独特だな。」


 ナゴミは静かにページを閉じ、次に隣の棚へ向かった。


◇ ◇ ◇


 種族についてまとめられた本を開くと、絵と説明が交互に並んでいた。


■ 主な種族

ヒューマン(人間):特筆すべき点はないが、数と応用力で台頭。


エルフ:森に住む長命の種族。魔法に長けているが、排他的。


ドワーフ(矮人):鍛冶と工芸の民。地下に住む者が多い。


デモニス(魔族):力と呪術を操る、角と暗色の皮膚を持つ存在。


スケルナイト:常に骨の外殻に覆われた民族。死を信仰する宗教的存在。


トゥール族:声を持たない水棲人。意思疎通は共鳴音で行う。


グリースローン:背中に眼を持ち、夢と現実の境界を越えて話す存在。


 ナゴミは思わず眉をひそめる。


 「……スケルナイトにグリースローン……これは、アニメで見たことないな。」


 静かに閉じて、次の棚に目を移す。


◇ ◇ ◇


 魔法の基礎に関する本は少なかったが、一冊、興味を引くタイトルがあった。


 《幻影と錯覚:意識を操る術》


 小さな本だが、内容は実用的で簡潔だった。


■ 魔法分類(抜粋)

【火系】 攻撃と熱の支配。使用には媒体と意志の集中が必要。


【水系】 治癒と浄化。感情の変化で精度が上下する。


【風系】 動きと運搬、警戒用にも使われる。


【幻術系】 見せる魔法。実体はなく、知覚に干渉する。


“視線誘導と錯覚生成を組み合わせた『幻火』は、炎のように見えるが熱はない”


 ナゴミは、その説明を心に刻んだ。


 (これなら、僕にも使えるかもしれない……)


◇ ◇ ◇


 数時間が経ち、ナゴミは本を戻して立ち上がった。

 静かな満足感と、ほんの少しの疲れ。


 図書館を出た時には、夕日が街を染めていた。


◇ ◇ ◇


 「……さて、何か食べないと。」


 ナゴミは商店街の裏通りを歩きながら、値札とにらめっこをしていた。

 三枚の銀貨。そのうち一枚も超えたくなかった。


 「……これかな。」


 彼はパンとスープのセットを出す小さな屋台で腰を下ろした。

 素朴な味、でも温かい。


 「うん、悪くない。」


◇ ◇ ◇


 食後、彼は安宿を探して街を歩き続けた。

 数軒目でようやく見つけた一件、看板には《三つ葉亭》とあった。


 中は古びていたが、静かで、客も少ない。


 「一泊、銀貨一枚でどうです?」


 「……お願いします。」


 木の鍵を受け取り、部屋に入った。

 狭いが、布団は清潔だった。


 ナゴミは窓を開けて、遠くの空を見上げた。


 (この世界、まだ知らないことばかりだな……)


 少しだけ、明日が楽しみになってきた。


――つづく。

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