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タイトル未定2025/05/17 15:55

挿絵(By みてみん)


 ◆元気なのはカエルだけ


 梅雨と聞くと、憂鬱な気分になってしまう。

 生家は農家で、家の中は暗かった。外は降り続く雨。畳やムシロは湿気て、歩くと足にべとべとした感じがまとわりついた。

 学校に行くと、さらに気分は落ち込んだ。

 ワックスの匂いがやたらと鼻につく。クラスメイトも先生も不機嫌だった。


 中庭に池があった。

 ホテイアオイが浮いていて、カエルがちょこんと乗っていた。梅雨は産卵期に当たり、にぎやかな合唱が聴こえてくる。鼠色に煙る景色の中で、ひとりいい気なものだった。


 ◆水道水のトラウマ


 もうひとつ、筆者を滅入らせたものがあった。それは学校の水道水だった。

 水道の取水地は学校の上にあり、近くの谷川から水を引いていた。

 生家でも奥の谷から水を取ってはいた。そこにはワサビが繁茂するほど、きれいな水が流れていた。


 ところが、学校の上方には大きな集落があった。生活排水は谷川に集まる。ふだんから匂いには閉口していたところへ加えて、谷川は連日の雨で増水するので、消毒も追い付かないのだろう。いろいろな有機物を含んだ水道水に、思わず顔を背けた。


 卒業して都会に出て、あちこちの水道水を口にした。生家の美味(おい)しい水で育った者にとっては、似たり寄ったりだった。したがって、母校の水道水をことさらこき下ろしてはいけない。ただ、あれがトラウマになっていたことは確かだ。


 ◆ダテに生きてません


 通学路は舗装されていなかった。ぬかるんでいる上、デコボコの山道に、よく水たまりができていた。

 長靴を履いていると、好んで水たまりを歩く子供もいた。転んでずぶぬれになり、通学班の班長だった筆者は責任を問われないか心配した。


 学校に着くと、話を聞きつけた校長から事情聴取された。

「よっしゃ、分かった。谷に落ちたところを助けた、ということにしよう」

 校長のひねり出した結論だった。


 校長が朝礼でこの話をし、通学班、集団登校の効用を説いた。共犯者になった思いがした。

 これも確か、梅雨のある日の出来事だった。


 ◆自然に学ぶ


 梅雨のシーズンには梅の実が成長する。

 梅の実は酸っぱく、刺激的だった。何度か(かじ)ったことがある。ところが、学校で

「梅の実を食べてはいけない。食中毒を起こすぞ」

 と、それこそ口酸っぱく言われた。

 以来、口にすることはなかった。


 梅の実にはアミグダリンが含まれている。大量に摂取すると中毒症状を起こす。場合によっては重大な結果を招きかねないので、学校の教えを守ったことは正解だった。


 生きとし生けるものには、自分を守るための不思議な力が備わっている。

 もし、アミグダリンがなかったら、梅の実は成熟を待たずに、食べられてしまう。とっくに絶滅していた。

 成長するに伴いアミグダリンは減少する。無毒化し、果肉も多いので、動物の好物となる。種を糞として排出してもらえば、どこかで芽を出すことができる。人間に持ち帰られ、梅干しに加工されると、大変身。生成されたクエン酸やポリフェノールが食中毒の主犯・黄色ブドウ球菌の繁殖さえ抑えるのだ。

 なんという自然の摂理、先人の知恵だろう。梅雨についても、その恩恵を改めて沈思黙考してみる必要がありそうだ。

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