4-24 覚悟と心構え
――15時
サフィニアは庭のベンチに座って、一人静かに本を読んでいた。そこへお茶とお菓子が乗ったトレーを持ったヘスティアがやって来た。
「サフィニア様のお好きな紅茶を入れてまいりました。スコーンもあるので、どうぞお召し上がりください」
「ありがとう、ヘスティア。それではガゼボで一緒にいただきましょう? 」
サフィニアは本を閉じた。
「はい」
笑顔でヘスティアは返事をすると、トレーをもってガゼボに移動した。サフィニアとヘスティアは互いに向き合って紅茶を飲もうとした矢先。
「サフィニア様。こちらにいらしたのですね」
ポルトスが庭に現れた。
「まぁ、いらっしゃいませ。ポルトス様」
サフィニアは立ち上がると、会釈した。ヘスティアもサフィニアにならって会釈する。
「サフィニア様。実は大切なお話があるのですが……少々お時間よろしいでしょうか?」
ポルトスの顔をじっと見つめると、深刻な思いつめた表情をしている。
これは何か重要な話に違いないと察したサフィニアは頷いた。
「はい、大丈夫です。お話、聞かせてください」
そこへ気を利かせたヘスティアがポルトスに尋ねる。
「あの、私は席を外した方がいいですか?」
「いや、ヘスティア嬢にもぜひ話を聞いてもらいたい。これはサフィニア様に関わる重要な話なので」
「……はい、分かりました」
3人は円卓を囲むように座ると、早速ポルトスは切り出した。
「これからサフィニア様には社交界に出ていただきます。そしてヘスティア嬢はサフィニア様の侍女として、付き添いをしていただくことになります」
「社交界ですか……?」
今まで公の場に出たのはリーネ侯爵令嬢の誕生パーティーのみ。突然の話にサフィニアは目を見開いた。
「はい。公爵様のご命令です。サフィニア様の立場を考慮した上での判断です。礼儀作法やダンスと言った貴族令嬢の嗜みを、より一層磨きをかけられるように手配させていただきます。……サフィニア様の良き結婚相手を見つけるために」
「「!!」」
その言葉に、サフィニアとヘスティアは目を見開く。
「そんな! サフィニア様が今から結婚相手を見つけるなんて早すぎませんか!?」
ヘスティアは悲痛な声を上げ、サフィニアは悲し気に目を伏せる。
「……つまり私に早くここから出て行ってもらいたいから……ですよね?」
「そ、それは……」
察しが良いサフィニアにポルトスは言葉を失ってしまった。
「私は自分から名前を名乗ったことはありません。……この離宮で、滅多に出掛けることも無く静かに暮らしています。でも……それさえ許されないと言うことですよね?」
サフィニアの脳裏に怒りに満ちたセイラの顔が浮かぶ。
するとヘスティアがそっと手を握った。
「サフィニア様……あまりにもお気の毒です」
「大丈夫よ、ヘスティア」
サフィニアは頷くと、次にポルトスに視線を移した。
「公爵様が社交界に出ろというなら言う通りにします。エストマン公爵家の名前に恥じないように、習い事や礼儀作法のレッスンを頑張ります。……そうすれば私のような者でも、お嫁にしてくれる人が見つかるのですよね?」
「!」
10歳とは思えない大人びた発言にポルトスは目を見開いた。
(何ということだ……自分の置かれている状況を理解し、受け入れようとされているなんて……)
だが、ポルトスは思った。
サフィニアが大人びているのは、そうならざるを得なかったからだ。誰にも甘えることを許されず、自立しなければ生きていけない環境だったからなのだ。
(何と、おいたわしい……こうなったら私が全身全霊をかけて、サフィニア様を大切にしてくださる方と縁が結べるように尽力しよう)
ポルトスは心に決めると、会釈した。
「それでは、早速準備を進めさせていただきます」
「はい。よろしくお願いします、ポルトス様」
サフィニアは笑顔で返事をした――




