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アモルファスな男

〈旅立てば春の冷雨も旅の(とも) 涙次〉



【ⅰ】


 カンテラ一味は、身中に金尾と云ふ【魔】出身の男を飼ひ、更にルシフェルなき魔界の様子に肉迫する事となつた。

 金尾は、カンテラ・じろさんに「傍観者null」なる者の氣質、【魔】たちにせよ彼のキャラクターを摑むのは容易でない事(要するに信用が置けない)、彼がそれ程信奉されず魔王の玉坐に坐つてゐる事、などを有り(てい)に語つて聞かせた。

「まあ、一筋繩では行かない、つて事か」とじろさん。カ「だうやらそのやうだね」

 因みに、金尾の新しい名刺には、「カンテラ一燈齋事務所 會經係 金尾重悟(かねを・ぢゆうご)」と印刷されてゐた。



【ⅱ】


 テオは久し振りに、谷澤景六としての仕事をしてゐた。執筆してゐた小説は『アモルファスな男』と云ふタイトル。金尾は、夜をどろどろとした不定形な泥として過ごす。そして、晝の世界では、きちんとしたなりのビジネスマンである。その姿に、猫でありながら人間の世に生きてゐる自分の、云ふなれば「アモルファス」(自己の韜晦者としての)な在り方を投影してゐる、純文學作品- 彼は芥川賞をまだ諦めてはゐない。谷澤景六こゝにあり、と云ふ作品を書き上げるつもりだつた。木嶋さんも、久々、この筆業に「乘つて」ゐる。彼女は、なかなかに引き出し得ないテオ=タニケイの作家魂を、改めてそこに見てゐた。



【ⅲ】


「いゝなあ、カンテラさんは」と、牧野。彼も子供が慾しかつたのだが、例のアパート屋根破壊の件があつて、尊子とはこゝ暫く、(ねや)を共にしてゐなかつた。彼はその分の愛情、代償としての愛情を、君繪に注いだ。まるで、自分の子のやうに。「嬢ちやん良い子だねんねしな」彼の調子つぱずれな子守唄が、カンテラ事務所に谺した。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈子が慾しい男がひとり子が慾しい女と共に何をかせむか 平手みき〉



【ⅳ】


 nullは、取り敢へずは、今までに一味を苦しめた功績を買ひ、さまざまな【魔】を蘇生させた(そして、もぐら國王の掘つた「思念上」のトンネルをコンクリートで塗り固めてしまつた。これにより、魔界⇔人間界の行き來が自由になつた)。「鉄箱のジョー」の異名を取る、ジョーイ・ザ・クルセイダーも、その蘇生組の中の一人であつた。

 ジョーイがまた、「フーゾク荒し」をしてゐるので、その中に自分の繩張りを多數持つ、雪川組組長・雪川正述はお冠であつた。だが、人間なら拳銃(チャカ)で黙らせる事も出來やうが、相手が【魔】とあつては、流石の強面(こはもて)ぶりも威光が及ばない。仕方なしに、カンテラに縋る、彼だつた。


「分かりました。組長、ご安心を。私たちがだうにかしませう」と、カンテラ。雪「いや面目ない、先生方のお手を煩はせるのは、儂の本心ではないのだが...」いつも大金を用意して來る雪川は、まあ一味としては上客で、断る謂はれはない。


 カ「さて、と。ジョーイ・ザ・クルセイダーもしつこいな」じ「こゝは一つ、新人の金尾くんを使つてみないか? カンさん」カ「それもいゝね」



【ⅴ】


 フーゾクの客である振りをして、「鉄箱のジョー」の掌中にわざと落ちたじろさん、だが彼はすばやく「變はり身の術」を用いた。實際にジョーイの鉄箱に入つたのは、金尾だつたのである。


「ふはゝ、助平爺イが、此井なくばカンテラ一味の脅威も半減、null様に俺は側近として取り立てられ、永遠の命を手に入れるのだ!!」ジョーイが吠える。しかし、鉄箱が縮むにつれ、金尾は泥濘の本性を露はにした。鉄箱がいくら縮んでも、金尾が「泥」スタイルを取つてゐるのでは、効きはしない。


 さうかうしてゐる内に、じろさん、ぬつとジョーイに顔を突き付けた。ジョーイ「お、お前は!」じ「莫迦め。俺の體術を舐めるな」そこでカンテラ、すかさず「しええええええいつ!!」ジョーイを斬り捨てた。鉄箱は消え失せ、その中から、「泥」の金尾が出てきた。「如何だつてでせうか、試驗の結果は?」カ「いや上出來、さ」



【ⅵ】


 nullは、魔界の机上に開いたノートの、ジョーイ・ザ・クルセイダーの項に、✕を付けた。二度ヘマをした者は、もう二度と蘇生させぬ、と彼は心に決めたゐた。「どいつもこいつも、無能だなあ。いつちよ俺が直に... いや、やめとこ。俺は自分が損をする事だけは、絶對にしない」飽くまでも、自分を犠牲にして迄、魔界の繁榮などには、氣を配らぬnull。

「次は...」さて、彼の次なる手、とは? カンテラ、これにて二勝めである。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈晩春となつて殊更寒き日々あなた如何と熱燗を差す 平手みき〉



 お仕舞ひ。君繪はすくすく育つてゐる。色んなキャラに囲まれた彼女は、幸せに過ごす、一味のプリンセスなのである。


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