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重度のブラコンの妹が実は義妹だった件を本人に伝えるべきだろうか?

作者: 頼瑠 ユウ

最近はなかなか書けなかった日々が続いたので、リハビリを兼ねて書き留めていたネタ帳から雑に拾って、勢いで書いてみました


「おーす、綾斗(あやと)


彩葉(いろは)もおはよー」


 季節は春。


 高校生になってもう一か月。


 大抵のクラスメイトの面々は、居心地の良いグループに落ち着き始めた頃。


 藤宮綾斗ふじみやあやと藤宮彩葉ふじみやいろはの双子の兄妹も仲の良い友達が出来ていた。


「おはよう」


「おはようございます」


 自分達の席の近くに集まっていた友人達に藤宮兄妹は挨拶を返して、隣同士の席につく。


「藤宮ブラザーズは今日も一緒に登校かー。良いよなーリア充は」


 前の席に座っていた友人は椅子の向きを変えて、綾斗に妬みを含んだ笑みを向けた。


「そりゃ、兄妹なんだから一緒に登校するのは普通だろうよ」


「頭も運動神経も良いお淑やかでアイドルみたいに可愛い妹が居る奴なんて許せねぇ。しかも、A組の斎条(さいじょう)とも幼馴染なんだろー? そんな奴はリア充以外に他ならないだろ!」


「……そうか、俺はリア充だったのか」


「ラブコメの主人公かよ、クソが!?」


 兄とその友人のやり取りを見て、彩葉は上品にクスリと笑う。


「兄さんに良いお友達が出来て嬉しいです」


「俺もお友達の妹が彩葉ちゃんで嬉しいです!」


 友人が妹の手を取ろうとして、綾斗はペチンとソレを叩き落とす。


「気軽に妹に触るなって」


 割と低めの綾斗のトーンに、


「え、怖いんですけど!?」


「あはは、相変わらず妹大好きだねー綾斗お兄ちゃんは」


 二人の友人は片や割と本気でビビッて、片や腹を抱えた。


「もう、兄さんたら恥ずかしいですよ」


 うふふ、と彩葉が笑った頃に丁度予鈴が鳴りほどなくして、担任教師の入室と共に朝礼が始まった。





 この日も綾斗にとっては平凡なものだった。


 予定通りに授業を受け、休み時間は妹や友人と雑談。昼休みには幼馴染の斎条榛名さいじょうはるなと昼食をとり、帰りは妹と幼馴染と三人で帰る。


 中学生の時と大して変わらない日常。


 きっと明日も明後日もこんな日々が続いていくのだろうと思う。


 そんな事を無意識に思う兄に妹は『ちっちっちっ』と指を振って、窘めた。


「甘いぜ兄者よ。悠長にしていたら青春なんて一瞬で過ぎちまうぜ」


「いきなり人の心を読むのは止めてくれないかな? ってか、よく読めるな」


「あたぼーよ。お兄ちゃん大好き検定第一級の私にかかれば兄心なんざ丸裸も同然よ」


 綾斗のベッドを我が物顔で占領しつつ、スマホを弄る彩葉は勉強机に追いやった兄に向けて親指を立てる。


「なんだその検定。そもそも大好きなお兄ちゃんのベッドを占領してんなよ」


「妹のここ、空いてるぜ?」


 彩葉は少しずれてスペースを作り、ポンポンと招く。


「いや、ベッド自体を空けろ」


「なんだよ、お兄ちゃんのヘタレ。妹とベッドINも出来ないのかー! この漫画を見習えー!」


「言い方。どんな漫画読んでるだよ」


「様々な問題を乗り越えながら、兄妹の禁断の愛を描く少女漫画の皮を被ったエロ漫画」


「なんて?」


「いや、ちょっと前の奴がその辺の大人の本よりも過激なんだって、ホラ」


「やめろバカ。どういう神経で兄に見せてんだ」


「正直、羨ましいなって」


「……聞かなかった事にしておく」


「見て見てお兄ちゃん。このシーンね、間違ってお酒飲んで酔っ払った兄が妹を無理やりに――」


「マジで辞めてくんないかな!?」


「心配しないでお兄ちゃん。相思相愛のラブラブ展開だから!」


「そういう問題では無い!」


 わざとやっているであろう彩葉に綾斗は大きな溜息を溢した。


「しかし、あの大人しかった妹が良くもまぁ、ここまで歪んだもんだ。お兄ちゃんはお前の将来が心配だよ」


「そりゃ、小さい頃から両親が仕事人間で基本、家に居ないからお兄ちゃんに依存するのは仕方がないんじゃない? 他の家より裕福かもだけど、親としてはダメな方だと思うよ」


 妹の呟くような答えに、綾斗は胸がチクリと痛んだ。


 幼い頃は寂しくなかったと言えば嘘になる。幼馴染や友人、親戚が支えになっていたが、妹の存在が何より大きかったと思い出す。


 当時から父は仕事で海外に行くことが多く、最近は母も大きなプロジェクトの責任者になったらしく、会社に泊ることも少なくない。今日も家には兄妹だけだった。


「それに外じゃ、ボロが出ない様に良い子を装ってるから大丈夫ですー。私の本性を知ってるのはお兄ちゃんだけだし。こんな娘だって知ったらあの親、私達を引き離すって」


 彩葉はドヤ顔で、


「そんなの、お兄ちゃんも嫌だもんね?」


「……まぁ……そうだけど」


「お兄ちゃんがデレたー! このシスコン!」


「いや、俺はシスコンでは……ない、ぞ」


「自覚のあるお兄ちゃん可愛いー!」


 そして、大げさにおどけて見せる。


「まぁー私のこのブラコンぶりはお兄ちゃんのせいでもあるんだけどね! 小学生時代にお姫様みたいに甘やかされたから、兄沼(あにぬま)から抜け出せなくなったのさ!」


「あれは確かに失敗だったかもな。反省はしてる」


「悔いる事は無いぜブラザー! 親の愛情を受けれなかった私を慰めると同時にブラザー自身も孤独感に耐えるのに必要だったのだ。共依存サイコー!」


「だとしても依存し過ぎるのも問題だけどな。そんなんじゃ、お前、いつまでも彼氏作れないぞ?」


「作る気なんて端から無いね! そもそも、いつまでも、幼馴染から進めないでいるお兄ちゃんには言われたくなーい!」


「な、ん……」


「ブーメランざまぁ!」


 言葉を詰まらせる綾斗に彩葉は高笑う。


「榛名ちゃんが好きな癖にビビッてだっさーい。そんなんじゃ他の男に取られちゃうぞ?」


 ぐぬっ、と言い返せない綾斗を彩葉はクスクスと小馬鹿にした。


「それが嫌なら、さっさと告れば良いのに。もし振られても私が慰めて、あ・げ・る♡ 最悪、妹と禁断の愛は確定してるんだから、当たって砕ければ良いのに」


「砕けて欲しいのかよ」


「そりゃ、お兄ちゃん大好きだからな! 幼馴染に寝取られる前に寝取ってやらぁ!! ほら、こっち来―い! そして優しくしてくださーい!」


「いやだよ」


「え……激しくしたいの? 私、初めてだよ?」


「うるせーな。ツッコむのも疲れたから、そろそろ自分の部屋に行けよ」


「ヤダー! もっと兄妹の時間を大事にしろー!」





 日曜日の夕方は、学生にとっては一番、憂鬱な時間帯だ。


 一週間待ち望んだ休日が終わる猶予を実感するからだろう。


 藤宮綾斗は帰宅と同時にそれを強く実感する。


 特に彼個人としては、先ほどあった『とあるイベント』の事もあり、倦怠感は割増だった。


 気怠い足取りで二階の自室に向かう。


 扉を開けると、そこにバスタオル一枚の藤宮彩葉がドライアーを髪にかけていた。


 ――なんで? と兄が問う前に、


「いやーん、お兄ちゃんのえっちー!!」


 一度、咳払いをして喉の調子を整えてから、近所迷惑にならない程度のボリュームで叫んだ。


「……――」


「――あれ、いつもの冴えわたるお兄ちゃんツッコみが来ない?」


 口を開きかけたが声が出ない綾斗に、彩葉は怪訝そうに眉を顰める。


「どうしたんだ兄者!『妹が俺の部屋でお風呂上りのドライアーをかけている』イベントが進行中だぞ! 職務放棄か!?」


「そう、だな……。今日はお兄ちゃんツッコみは有給にしといてくれ」


 綾斗はどこかくたびれた笑みを無理やりに作った。


「リビングに居るから、風邪引かない様に早く服着ろよ」


「え、嘘。ちょ、ちょっと待ってお兄ちゃん!」


 部屋を出ようとする綾斗を無理やりに引き留め、彩葉は急いで服を着て兄をベッドに座らせる。


「どうしたのお兄ちゃん。今日は榛名ちゃんとデートだったんでしょ? なんでそんな元気ないの、何かあった?」


 久しく見ない妹の本気で心配する顔に兄は、自身の不甲斐なさに自分の頬を強く叩いた。


「うわっ、びっくりした! 急にセルフSMに目覚めたのか!?」


「そんな歪んだ性癖なんか目覚めてないよ。――俺は猫耳スク水ニーソが好きなんだ!」


「うっわ。私、お兄ちゃん大好きの変態ブラコンだけど、そのカミングアウトには流石に引いた!」


 綾斗は笑みを見せたが、それが空元気だとブラコンの妹にはお見通しの様だった。


「……それで、ホントにどうしたの?」


「別に大した事は――」


 綾斗は誤魔化そうと考えたが、いつかは妹の耳にも入る事なので自白する事にする。


「――振られた」


「え?」


 呆けた彩葉に、綾斗は眉間にシワを寄せながら、


「今日、榛名に告白したんだ。そんで、振られた」


「え!? 嘘!? 榛名ちゃんお兄ちゃんが好きだったんだよ! なのになんで……」


「そうだったのか?」


「そうだよ! 小学生の時からずっと!」


 それを聞いて、綾斗は痛みを堪える様に顔を顰めた。


「だったら、やっぱりお前の言う通りだったよ。ぐずぐずしてたら、他の男に取られてた」


 目を見開く彩葉に綾斗は苦笑する。


「あいつのクラスメイトに神崎かんざきっているだろ?」


「イケメンって人気の陽キャだよね……え、マジで?」


「マジで。高校生になって、直ぐに声をかけられたらしい。席も隣で話している内に好きになったんだと。それに、ちょっと前に告白されて付き合う事にしたってさ」


「そんな……先週だって、普通に一緒に居たのに……」


 信じられないという彩葉に綾斗は苦笑する。


「向こうはもう割り切ってるみたいだ。これからは友達としてよろしくね、だと」


「なにそれ……酷くない?」


「酷いって事はないだろ。別に付き合ってた訳でも、ちゃんと好きだと伝えてた訳でも無い。最初から最後までただの幼馴染みだったってだけだよ」


 綾斗は肩を竦めた。


 なんと声をかけて良いか分からない様子の彩葉に、兄は大袈裟におどけてみせた。


「でもまぁ、お兄ちゃんには妹が居るから寂しくないけどな!」


「――」


 一瞬、彩葉は呆けて、彼女も付き合う様に高笑う。


「ははは! それでこそ、シスコンお兄ちゃんだ!」


 そして、彩葉は綾斗の肩に頭を乗せ、しな垂れかかる。


「ねぇ、お兄ちゃん。この際、本気で付き合わない?」


「兄妹の禁断の愛って? どんだけあの漫画好きなんだ?」


「あたぼーよ。アレは世の中のブラコンの聖書だかんな!」


 彩葉は不敵に微笑む。


「でも、実際……血が繋がって無かったら私、お兄ちゃんと付き合いたいよ?」


「本気で言ってるのか?」


 彩葉は、綾斗の顔を覗き込み、


「ホ、ン、キ――で」


 艶っぽく呟いた。


 綾斗は自分が息を呑んだのを自覚して、内心で自嘲する。


「あぁ、そうだな。お前が義妹だったら俺も付き合いたいよ」


「――よっしゃぁ! 言質は取った! 後は奇跡が起きるのにワンチャンかけるだけだぁ!!」


 兄の言葉に妹は一瞬目を見開き、歓喜の叫びと共に拳を突き上げる。


「けど、残念ながらそんな奇跡は起きないよ。俺らは物心つく頃には兄妹してたろ」


「諦めるには早いぜブラザー! 私は今朝、十連でSSR二枚抜きを成し遂げた女だ! 運が回って来てるのさ!」


「うっそ、マジか!?」


「そして、完凸した。――無課金でなぁ!!」


「スゲーな。どうせなら宝くじ買ってたら良かったのに」


「それな!」


 彩葉が綾斗に人差し指をビシッと向ける。


 そのタイミングで、綾斗のスマホが鳴った。


「……父さんからだ。珍しいな」


 彩葉があからさまに嫌そうな顔をしているのを見ながら、綾斗は通話を入れる。


「もしもし、父さん?」


『綾斗か。久し振りだな』


 本当に久しく聞く父の声だが、特に何も思わない事に、自分もあまり両親への想いは無いのだと実感して、少し苦笑した。


『どうした?』


「いや何でも。それよりどうしたの、今は海外で仕事じゃなかったっけ?」


『あぁ、さっき日本に帰って来た所だ』


「じゃあ、家に帰ってくる?」


 彩葉の苦い顔に、綾斗もまた苦笑する。


『いや、仕事が立て込んでいてな。しばらくは帰れそうにない――すまないな』


「別に大丈夫だよ。……それで、なんか用があったんでしょ?」


 綾斗の問いに、父は答える。


『今の生活に不便は無いか?』


「そりゃ、大変だけど、生活費は十分貰ってるし彩葉も色々手伝ってくれてるから大丈夫だよ」 


『彩葉とは仲良くしているか?』


「? まぁ、そうだね」


『そうか。なら大丈夫か』


 父の意図が分からず、綾斗は怪訝に眉を顰めた。


『お前達ももう高校生だからな。母さんとも相談して、そろそろ伝えておくべきだと思ったんだ。単刀直入に言えば――』


 一拍、間を置き父は告げる。




『綾斗は私の、彩葉は妻の連れ子だ。お前達兄妹に血縁関係は無い』




「――――は?」


 絶句する綾斗に父は構わずに、


『お前達は赤子だったから記憶にないだろうが、事実だ。不意に聞かされ、混乱しているだろうが……年の割にしっかりしているお前たちならば、受け入れられるだろう』


「……いや、ちょっと、待っ――!?」


『では、仕事がある。またな』


「あ、おい! 父さん!?」


 言い残し、父は一方的に通話を切った。


 思いっ切り眉を顰めている綾斗の耳に彩葉は息を吹きかける。


「おわっ!?」


「あはは、初心なリアクション。お兄ちゃんったら、可愛いぃー♪」


 仰け反った勢いでベッドに倒れ込んだ綾斗に彩葉は笑いかける。


「それで、父さんなんて?」


「えーっと……」


 実の妹――だと思っていた彩葉の問いに、実の兄――だと思っていた綾斗は思う。





 重度のブラコンの妹が実は義妹だった件を本人に伝えるべきだろうか?


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