あの青い空と丘を越えた先に
一話完結の物語が書きたくなったので書きました。
ぜひ短い時間ですが見て頂けると嬉しいです。
空は快晴。僕は町はずれの道を歩く。すでに道は整備され、道行く旅人や行商人たちとすれ違い、その都度挨拶をする。時にはこの先に町があるかを聞かれ、あることを伝える。揃って皆、僕の左手に持った物をに視線を送っていた。僕は手に持ったそれの花びらが散らないように丁寧にゆっくりと持つ。
あれから随分と時間が経ったように思うが、実際にはまだほんの数年しか経っていない。あの血塗られた魔物たちとの戦争は、小さく国に属さない町にとっては絶望的災害だった。他の町では町民が全員殺され、食われて魔物の糧になった場所もあると聴く。それを聞いていると、あいつらの判断は正しかったのだと、思うしかない。
僕は丘の道を上り、頂上へとたどり着く。そして、道の傍にある大きな木に歩み寄った。そこには一本の鞘に収まった長剣が突き刺さり、柄にはネックレスが下がっている。
「また来たよ。君に、君たちに会いにね」
僕は小さな花束を前に静かに置き、そのまま地面に座る。少しだけ優しい風が頬を撫でた気がした。
「普通なら男である僕がこうなるべきだったのに、君は頑固で強いんだからさ。魔物の群れを率いていた凶魔に一人で挑むなんて、自殺と同じだよ。でも君はその強さで勝っちゃったんだからさ。そのおかげで群れも消えて、町は助かったんだけどね。あーあ、最後まで僕は君に勝てなかったよ。他の皆には勝てるようになったのにね」
僕は携えた剣の柄を撫でる。その左胸には、彼女に見せびらかすようにしてわざわざ旅装束の上からつけたバッジがあった。それは近くの都街の騎士団である証だ。
「君に鍛えられて僕はあの戦争以降も生きてるし、こうやって騎士団に入団できた。君には教えられてばかりだったよ。初恋も、本当に全部のことを教えてくれた。ほら、初めてキスをした場所も、ここだった。何もかも強かった君にあこがれてたんだ」
僕は旅装束のポケットにある小さな箱に触れる。それは今日、人生で最高の勝負を仕掛ける切り札だ。
「――でも、もう僕は今日、君から卒業することにする。本当に意味で前に進むよ。忘れるとかじゃないけど、でももう君を理由に負い目を感じたり、何かを強迫的に考えがり、そういうことをするのを止める。だから、君に会いに来るのも最後にするよ。だから、このネックレスをやっと受け取ることにする」
僕は手を伸ばし、ネックレスに触れる。その時、一瞬風が強く吹いた。風に導かれて空を見上げると、そこには僕が愛した君がいた、気がした。悪戯な笑顔で、でもやる時は真面目に、一途だった君の姿が最期に見えた気がした。
「ありがとう、それじゃあ、行ってくるね」
僕はネックレスを首にかけ、そして丘を下る。下にも目印になるような木があり、その下には、僕が今日、人生を駆けて勝負を挑む彼女がいた。僕はポケットに入れた小さな小さな輪っかの切り札を少しだけ握り、その彼女に優しく微笑みかけてながら歩んでいった。
誰か一人でも良かったと思っていただければ幸いです。