第74話 恐怖の助っ人 前編
ショーンは、アイアンたちに通信を繋げる。
「すまねえ、俺だ、ショーンだ。俺の力でそっちの状況見たが、お前らやべえぞ! 今から俺もそっちに行く!」
アイアンとリチャード達は顔を見合わせ、うなずいた。
「よう、ショーン。来てくれるのはいいが、殺人容疑かかってるリチャードのおっさんには、弁護士が必要だ。お前が適任だがどうするよ?」
「ああ、アイアン。リチャード、あんたは俺に冒険者依頼をかけてくれ。それで俺が動ける名分ってのが立つ」
「わかった。冒険者のあんたに依頼を頼みてえ。弁護人を引き受けてくれ。それと……俺をハメた連中がわかった。大主教と上級貴族共だ。背後には魔王軍が絡んでる」
その情報も、ショーンは予知で見ていた。
そして兄と名乗るマサトに相談した時のことを、ショーンは思い出す。
ーー30分前
水晶を起動させて、状況が逼迫していると早口でマサトに告げる。
「話はわかった。けどすまねえ、オイラ達にそっちを支援する準備、完全に整ってねえ。異世界間の移動ってのは、それだけ制限を受けるってわけだ。オイラ達が許されたのは、家族に関してと最小限の護衛の条件付きで、親父が許可取ってくれたからだ」
「じゃあ、俺は自分で対処しなきゃいけねえってことっすか? 勇者を、あの人を呼ぶわけにはいかねえんすか? 助けてくれねえんすか?」
懇願するショーンに、マサトの目付きが鋭くなる。
「あのな、アキラ君よお?」
「ウッ」
「いくらうちらが実子と言ってもよお、オイラ達が気軽に呼びつけられるほど、勇者は安かねえんだよ」
だからその勇者というのが、意味がわからないのと、凄まじいほどの圧力を受けて、ショーンは泣きそうな表情になる。
「……すまねえ、そういうルールだとか、親父がどういうことしてるのかも、おめえはわかんねえんだっけか。それに事態は逼迫してそうだから、説明しようにもそっちには時間がねえか」
「あ、ああ。どうすりゃいいんすか? このままじゃ大勢の人が死ぬんすよ! 俺、そんなの見たくねえ!」
「……まず最初におめえがやることは、自分の領地の守りを固めることだ。できれば身内の冒険者組合の奴らで固めて、何が起きてもいいように備える。これが一点」
「あ、ああ」
「二つ目は、編成の問題だ。おめえから聞いた話じゃ、格闘家と警官が苦戦してたのは物理攻撃を無効化する相手。アイアンって子が対処できねえ状態になったのは、街の人間を助けながら魔王軍の幹部達とやらざるを得なくなったことだ」
ショーンは予知した内容に頷く。
「ということは、対応する人数が圧倒的に足りてねえということ。できれば腕が立って必要なら遊撃で動けて、それぞれ魔法と敵の数に対処できる奴らを送るといい。バランスが取れた編成ってのが必要だな」
「増員ってことすか」
「そうだな、遊撃はおめえの組合にやらせなくてもいい。それこそ傭兵だとかがいいな。もし万が一、そいつらやられたら、アキラの組合の痛手になるだろ?」
ショーンは身内と他所は分けろという非情な話を、平然とするマサトに底知れぬ怖さを感じる。
「それと三つ目。あくまでもを偶然装って、うちのもんでも5本の指に入るくれえ、荒事向きのやつを用意する」
「へ? 応援を送ってくれるんスか?」
「ああ、オイラの弟分のガイって言って、性格は実直で一騎当千だ。こいつも、おめえのお兄ちゃんだと思って、頼っていいからな」
一騎当千の応援が来る。
ショーンは、勇者の子であり兄と名乗るマサトの目を見て、それが嘘でも大袈裟でもないのをなんとなくだが理解した。
「えーとガイさんすか」
「あくまで建前は偶然だぜ? そうだな、なんかの次元装置の不具合を理由にしておくから、そっちに行ったら、おめえと会って意気投合してって流れにしといてくれね?」
なんでそんなまどろっこしい、マッチングアプリや出会い系サイトみたいなことするのかと、ショーンは思うがこれに頷いた。
「で、このガイには理由をよく説明しておくし、おめえの言うことに従うように言っておくから。あとは、ガイがそっちで喧嘩になったんなら、うちが全力で動ける大義名分が立つ」
「あ、ああ、そうなんすか」
ショーンはなぜそれが大義名分が立つのか、よくわからなかった。
これのカラクリは、腕が立つ弟分を偶然という体で送り込み、現地魔王軍や邪神一派、そして天狗の属する妖界に対する、喧嘩という名の戦争の口実作り。
このようなやり方は、彼の実父である勇者が前世で得意とした手法である。
「ああ。4点目は、今の話だとおめえの国の中枢は悪党共が仕切ってる。アトランティスだかなんだか知らねえが、それはオイラが報告して、親父が調べるけどよ。その陰謀を阻止するってなると、自分の国を敵に回すことになるかもしんねえぞ」
「え? 俺が国の敵に……」
「オイラが助けるって言った以上、ぜってえ助けてやるが、おめえにその覚悟があるかって話だ。どうだい? ダメならダメで別の方法もあるが」
ナーロピアンに強い影響力を持つ聖女教会と、国の中枢を取り仕切る王璽尚書の公爵達を敵に回すことイコール、ハイランド聖王国の敵となる。
その覚悟があるかという問いに、ショーンは沈黙してしまう。
「でも……俺がなんかやらねえと大勢人が死んじまう。何もできずに見過ごすなんて、俺にできねえよ」
「よし、よく言ったぜ、それでこそオイラの弟だ。だったらおめえの根性の見せ時だぞ。おめえが見た未来じゃ、街中火の海だったか。じゃあそうなる前に、多くの人を避難させなきゃなんねえ。そっちに転移装置みてえのがあれば、火災から多くの人を別の場所に避難できるんだが……」
転移装置について、ショーンは大鏡の転移を思いつくが、これを大体的に使用すれば、教会の教義に反して、聖女教会と全面的に敵対することとなる可能性を考えた。
「あるにはあるけど、人一人通るのがやっとだし、そんな数はねえっす。それとこの世界の宗教で使用が禁じられてて……」
「じゃあ、それこそガイにやらせりゃいい。あいつはこの世界の人間じゃねえし。それかルールで禁じられてねえ外国人にやらせるとかさ」
するとショーンは兄の助言で閃いた。
「あ、それなら可能だわ。ナンジンの組合長に内緒で金で頼めばいいし」
「その組合長は信用できんのか?」
「あ、うん多分」
微妙そうな返事に、マサトはニコリと笑う。
「じゃあおめえがそいつと交渉する時、同席するよ。構わねえよな?」
ーー構わねえよなって、この兄ちゃんも勇者と同じで、はいかわかりましたしか言えねえ圧力で言ってくるし……ええい、しょうがねえや!
「うん、いいけど……」
こうして、ショーンはマサトが映る水晶玉をそばに置いて、ユーションを大鏡の通信で呼び出した。
「カネダ、決まったか方針は。ん? なんだその水晶? 映ってるのは誰だ?」
ショーンの机に顔だけ映りこむ、鳶色の角刈りに、着物を着る男を、中華やシーナジアにある衣装ではないとユーションは警戒した。
「あ、いや、前の世界の生き別れの兄ちゃんだ。どうやら俺のことずっと探してて、見つけたみたいで。こことは別の世界にいるらしい。それとそっちのG級冒険者と、トップチームを送る準備ができた」
ユーションは、水晶に映し出された男をじっと見るが、うっすら笑みを浮かべるマサトから、画面越しに強烈な覇気を感じる。
ーー何者だこいつ。水晶に顔だけ映ってるけど、只者じゃねえ気配を感じるが、日本人か? 軍人でもなさそうだし、若手の政治家にも見えるが何者だ?
「そうか、わかった。契約を交わすとしよう」
「あと、一応各組合で決めてる通り、一度の転移は5人まで。それとそっちでも使ってる、魔法の大鏡をあるだけ持って来て欲しい、金も払う」
「魔法の大鏡? あるだけ持っていけばいいんだな。他には?」
すると補聴器にも似た翻訳機をマサトが使用する。
「我認識你. 了解您的業務和. 我也知道你們公司……大世界的大亨.請照顧我的弟弟」
ーーこの野郎、前の俺を知ってるかこいつ!?
中国語で正体が看破されたユーションは、内心動揺したが、顔には出さずじっと鏡に映る水晶玉の男を凝視した。
「你是誰?」
「我的名字是正人. 我不配稱自己為你這樣的大老闆.我的任侠之路還只走了一半」
ーー任侠だと!? 口上を述べやがったがこいつ黒道!? 俺と同業者か!? 俺に一定の敬意は払っているようだが。
場の緊張感が一気に高まり、ショーンの表情が引きつり、ユーションとマサトは目を合わせ続けると、先にマサトがふっと微笑む。
彼は実父の勇者から、ユーションが前世で何者かを聞いており、このやりとりで少しでもおかしな素振りや、言葉を違えたら、叩き潰す算段を考えていた。
「我向你致敬. 大老闆。請讓我的兄弟成為一個男人!」
ーーこの野郎、マサトという名前以外、自分が誰なのか言わねえか。マサト、確かに日本人の名前的な響き。俺の面子を立てつつ、物腰は紳士的だ。おそらく日本的な黒道か?
ユーションは前世の記憶を辿り、日本に中国の黒社会に相当する組織がないか考えるが、深い日本の知識が乏しい彼には思いつかない。
ーーそもそも日本人に任侠を理解できる奴がいるのか? わからんがこの男は弟を男にして欲しいか。いいだろう、乗ってやるぞ。
「沒問題! 我要把這個傢伙培養成一個男人!」
「感謝您對像我這樣的年輕人的回應! 大老闆」
「你看起來是一個真誠的人,這很好。再找機會出來碰面吧. 正人君」
「今天能跟你說話我很開心.我已經與你建立了「義理」這個人情我以後一定會還的.大老闆」
弟への本音を引き出したマサトは、ユーションに深々と頭を下げる。
ーー義理? 俺より若造のようだが道理をわきまえているか。日本人の言う義理など知らんが、俺に敬意を払い、自分の弟のために頭を下げた以上は、無碍にできんな。
そして中国語で話している二人に、ショーンはわけがわからないと首を捻る。
「話は終わったぜ。まあ、信頼して大丈夫だろ。あちらさんはおめえを高く買ってる。じゃあまた何かあったらオイラを呼んで欲しい」
「あ、ああ……そのえーと」
「兄ちゃんって呼んでくれねえか? 渡世以外に弟ができたのは初めてなんだ。またなんでも聞いてこいよ、あとガイをよろしく」
「渡世? あ、ああ、マサト兄ちゃん」
マサトの顔が笑みを浮かべて水晶から消えて、ユーションとショーンはお互い沈黙する。
「確かに顔は少し似てるか? 笑ったあたりが。君は、彼が何者か聞いてるか?」
「い、いや全然。今日あったばかりだし……それより、合同でクエスト出そうユーション。こっちがそっちのトップ冒険者呼ぶんだから……そうだな、50万ダラーでどうだ?」
提示された契約金に、ユーションは笑いながら首を振る。
「安いな、うちの最強の冒険者送るんだ。最低100万はもらわんと」
ーー高ッッ!
ショーンは思ったが、よその組合のG級冒険者と、トップクランが戦闘含んだ活動をするとなると、報酬額が通常よりもはるかに高額になるだろうことはショーンも理解していたが、それでも破格と言える。
「間とって70万」
「ダメだ。90万ダラーなら考えてもいい」
「じゃあ滞在費抜かして80万で。宿と食事はうちで用意するが、あとでその料金はそっち払い。ついでに魔王軍幹部倒した冒険者に、100万の追加ボーナスならどうだ?」
ーーほう? そっちの冒険者によほど自信があるようだが、あいにくうちの兄貴は最強の男だ。ならば魔王軍とやらを倒して180万いただくとしよう。
ユーションは思い、うなずいた。
「あと兄ちゃんから、助っ人でガイって人も来るようだ。その人は俺の組合の客人なんでよろしく頼む」
「よし、兄貴に話してくる、少し待っててくれ」
するとショーンの自室をアリスがノックする。
「お兄様、S級冒険者リーアム、トーマスが到着しました。バーベンフルト様とファーティーマは、別件で席を外しているようです。グスタフも来てますが、まだ武器を新調できてないとのこと」
「じゃあリーアムとトーマスは俺の護衛につけるから、護衛クエスト出してくれ。報酬はあとで設定するから。それとガイという客人が来るはずだから、来たら俺の部屋に案内してほしい」
「かしこまりました。他の冒険者は?」
「何かあった時のために待機だ。これから俺は、現地のアイアン達に連絡を取る」
そしてショーンは、自分が見た予知の話をアイアン達に話し始める。
「アイアン、特にお前やべえぞ。お前をどうにかするために、魔王軍幹部総出で待ち受けてる。それにその、ウィスティーズの正体も魔王軍。お前らが動いたら、多分街に火をつけるかもしれねえ。女魔王みたいな吸血鬼が指揮取ってやがる。奴らお前と王国を敵対させる気だ」
「間違いねえか?」
「ああ、俺の力、未来予知を使って見た」
「それが本当ならクソッ、うぜえこと考えやがって」
鏡に映るアイアンは顔をしかめ、ショーンはリチャードの方を向く。
「リチャード、あんたが相手にするアルフレッドとかいうやつは魔王軍幹部。物理攻撃を一切受け付けねえ、アンデッドのバケモンだ。多分、侍従長殺害犯人はそいつだろう」
「アルフレッド……クソッ! 人間やめちまったわけか!」
「ようアミーゴ、じゃあどうすんだ? お前の話だと、ここはやべえ状況になる」
口を挟むゴメスに、ショーンは覚悟を決めて鏡に映る全員を見る。
「お前らに応援を呼んだ。うちのS級冒険者と、ナンジン冒険者組合から応援が来る。バーベンフルトさんと同格のG級冒険者チームが」
「オーケー、心強いと言いてえがアミーゴ。それでなんとかなんのか? 相手は火山噴火や都市殲滅考えてやがったワル共だぜ?」
「ああ、これとは別に応援が来る。ガイって人で、どうやら勇者様の関係者らしい。俺のお兄ちゃんって言う人曰く」
するとアイアンが目を剥いて驚く。
「ガイって……その人を知ってるぞ!」
「え? 誰かわかんの? アイアン」
「ああ、一度見たことある。学院のクラスメイトだったドワーフの実の兄貴だ。異世界ヤクザの大物で、超武闘派だっていうぜ」
ショーンは思わず吹き出し、勇者の正体を知るリチャードは苦笑し、ゴメスはヤクザという単語が出てきて興味を示す。
ーー超武闘派ヤクザって、なんでそんなおっかねえ人が……そういえばマサトの兄ちゃんが、その人を弟分って言ってたけど。まさか兄ちゃんの正体って、ヤのつく極道なお方なのか? それに俺の実の親父、勇者ってまさか……。
「ヤクザ知ってるぞ!」
ゴメスの声にショーンがビクッと肩を振るわす。
「ジャパンのシンジケートで超クールな刺青してるって! それに超武闘派って、どれくれーやべー武闘派なんだ!?」
「ああ、ゴメス。やべーなんてもんじゃねえ。揉め事とか大好きらしくて、文字通り火の玉になって敵対相手へ殴り込みかけるんだってよ」
「火の玉とかやべーな」
「しかも卑怯な野郎とか、汚いことする野郎とか大っ嫌いで、ぶっ殺したクソヤローを灰になるまで燃やし尽くして、コンクリ詰にして埋めちまうらしいぜ」
「す、すげえ! It's cool!!」
アイアンの話に、ゴメスのテンションが上がり、ショーンがあまりの恐ろしさで白目を剥いた。
「ぐぬぬ、我を差し置いて盛り上がりおって。魔王軍など我が焼き尽くしてくれるわ」
トリノがボソリと呟くが、アイアンは鼻を鳴らしてトリノの頭に手を置く。
「よう、お前は切り札だ。俺のいうことに従うんなら、勝手に動くんじゃねえぞ」
「……わかっておるわい魔導師よ」
同時刻、ベルンファースト冒険者組合があるマクドネル邸上空に、磁気異常が引き起こされ、瞬間的に雷雲が形成され、空が真っ黒になる。
雷がマクドネル邸の中庭に落ちた瞬間、全長3メートル以上になる人型の炎の精霊が出現し、その姿が徐々に収束し、漆黒の紋付き袴姿の年若いドワーフ男性が現れた。
その風体はこの世界では異様さが際立ち、短く刈った黒髪をパンチが効いたパーマにして、レイバンに似た、翻訳機能付きティアドロップタイプのサングラスをかけている。
長く伸びたヒゲを三つ編みにし、武器の類は身につけていない。
身長はドワーフにしては背が高い155センチ。
体型は分厚い筋肉に包まれており、軽く100キロは越していて、分厚い胸板に極太のオリハルコン製の喜平ネックレスをしていた。
袖口から見える腕には、ルーン文字で描かれた魔法効果のある刺青が施されており、全身から湧き出るのは炎の魔力と、酒の匂い、隠しきれないほどの暴力のオーラ。
「ここに兄貴の身内がいると聞いた。どっちに行けばいいか……多分あっちだ」
独り言ちながら、ドワーフの男は中庭を抜けて邸宅のロビーまで歩を進める。
「嫌じゃ嫌じゃ! ワシも組合長のクエストに行くんじゃ!!」
「そうは言っても、あなたの新しい武器、まだ完成してないでしょう、アル中ドワーフ」
「ああ、来ても組合長の邪魔になる」
「誰が邪魔でアル中じゃ!!」
一方そのロビーでは、同じくドワーフのグスタフが、同じS級冒険者のエルフドルイドのリーアムと、元傭兵のトーマスにたしなめられていた。
その横を、暴力のオーラをまとった紋付き袴のドワーフが通り過ぎた。
圧倒的な力の波動に、思わず3人が振り返る。
歩き方からして、肩を揺らすように大股歩きで、周囲を威圧するような暴力的に見えたため、ロビーに集められた冒険者達が、まるで海が裂けたようにサッと避ける。
ドワーフは受付の前までやってきて、受付嬢アリスをサングラス越しにじっと見る。
「あ、あのどのようなご用件で?」
「兄貴の要件で来た」
「え? あ、あの具体的には?」
「兄貴の要件で来たと言ってる」
口調は静かだが、地響きのような声と有無を言わさない圧力。
そして目には見えないが、底知れぬ覇気を感じ取ったアリスは、怖くなって視線を下に向け、上目遣いで見ると極太のネックレスが胸から覗かせる。
「……えーと、お名前を聞かせて……」
「おい小僧!!」
すると、紋付き袴姿のドワーフを見たグスタフが、がなり声を上げた。
「ドワーフのくせになんじゃそのナリは!! よくわからん格好して! 今、組合は忙しいから、あっちに行っとけ小僧!!」
一瞬グスタフに振り返った紋付き袴姿のドワーフは、これを無視してアリスに向く。
「俺の名はガイ。兄貴の命令でやって来た」
「あ、あ、ガ、ガイ様ですね、お話は伺ってます。ど、どうぞ、兄の自室なら踊り場の階段を上がって……」
「小僧!! ワシはお前より年長者じゃぞ!!」
だがアリスの話も聞かず、グスタフはズンズンと大股歩きで歩み寄り、ガイの長着に掴み掛かる。
「お前どこの出身じゃ小僧!!」
まずいと思ったトーマスとリーアムは、グスタフの背後から体を掴んで引き離そうとした。
「やめろグスタフ!」
「冒険者グスタフ、彼は兄の客人です。トラブルは起こさないでください」
周りからたしなめられて、一瞬グスタフがアリス達に振り向いた瞬間、掴み掛かられているにも関わらず、ガイは一切動じることなくアリスを振り向く。
「おい、案内しろ。時間が惜しい」
「お、お、き、貴様」
グスタフに長着を掴まれながらも、ガイは意に介さず引きずるように、階段方向へ一歩踏み出す。
「貴様! ワシを無視しおって若造のくせに!!」
「放しなさい酔っ払い親父!」
「グスタフいい加減にしろ!!」
グスタフを引き離そうとする、S級冒険者3人もまとめて引きずるように、ガイは平然と歩き出し、階段を上がった。
ーーどうしよう、客人にこんな無礼なことをしてたら、お母様やお兄様に叱られる。
アリスはガイを追い越すように、階段を駆け上がって、ショーンの自室をノックした。
「お兄様!! ガイと名乗るドワーフの客人様がお越しになりましたが、S級冒険者たちが!!」
「貴様あああああああ! ワシを無視しおって小僧!! ぶっ叩いてやろうか!!!」
ショーンがグスタフのがなり声を聞き、真っ青な顔をして振り返った。
「お、おい、ショーンやべえぞ」
「わかってるっての!! アイアン達、この場をおさめてくるから待っててくれ! アリス、すぐ応対する!!」
ドアを開いたショーンは、怯える妹の背後の廊下からS級冒険者を引きずるようにして歩いてくる、パンチパーマにサングラス姿のドワーフを見た。
ーーうわ……マジなヤクザだ……昔の昭和映画にいるような、暴力全開のめっちゃ怖えドワーフの人来た。しかもグスタフの奴ら、や、やべええええええええ
「や、やめろお前らあああああああ!! そのお方からとりあえず離れろおおおおお!! こ、殺されるぞおおおお」
「あぁ!? 何を言ってるんじゃ組合長!!」
「おい」
すると自分に掴み掛かるグスタフに、ガイは無表情で振り向く。
「お前離れろと言われてる。さっさと離せ」
「な! なにこの!?」
「お前うるさい、ドワーフのくせに」
ガイが呟いた瞬間、グスタフの顔面に裏拳が飛び、S級冒険者3人まとめて文字通り一瞬で吹っ飛ばされた。
「ふぁあああああああああ!!」
ショーンが絶叫し、怯えたアリスが廊下にへたり込んでしまう。
「う、うちのもんがご迷惑かけて申し訳ありませええええええん」
「おう」
よく通るが地響きのような声に、ショーンは怯えながら直立不動になり、腰の骨が折れそうなくらい頭を下げる。
「ちょっと小突いただけ、死んでない」
一撃を受けたグスタフは泡を吹いて廊下の奥で失神してしまう。
「お、おいグスタフ! しっかりしろ!!」
「組合長、グスタフが悪いとはいえ彼は一体」
ベルンファーストの冒険で随一のタフネスさを誇るグスタフが、一撃で気を失わされたのを見たS級冒険者達は、ガイに恐怖する。
「俺はどうすればいい?」
「あ、はい! こっちで作戦練ってますんで。お前達もこっちに来いリーアム、トーマス。アリスは部屋の前で待機しててくれ。まだ客人が来る」
ーー怖えよ……マジもんのイカちいヤクザだよ……本当に大丈夫かよ……。
助っ人にショーンは怯えながら、ガイとS級冒険者達を自室に招いた。
さらに予測不能な怖い助っ人が増える後編に続きます




