第1話 魔法使いアイアン
背の高い帽子を目深に被り、首に白薔薇の刺繍が入った黒のスカーフを巻く浅黒い肌の吟遊詩人が、町の広場で魔王アトムと聖女伝説を歌い上げる。
ーー今より百年の昔。
かつて世界で猛威を振るい、
暴虐と破壊の限りを尽くした魔王がいた。
その名をアトム。
アトムはモンスターの魔王軍を率いて、
精霊達とその眷属、人類に戦いを挑んだ。
激しい戦いだった。
これにより東のレムリア大陸が滅亡し、
ユージア東域シーナジアも危機に扮し、
ここユージア西領域ナーロピアンも、
魔王の支配地域になろうとした時。
魔王に立ち向かった伝説の聖女が現れる。
彼女が率いた伝説の騎士団と魔導士団。
これが後の聖王騎士団と聖女教会。
そして勇者。
勇者は剣と魔法で魔王アトムと魔王軍を撃退。
聖女はハイランド王都があったロンデンで、
水晶秘術を使用して命懸けでアトムを封印する。
二度と魔王が現れないようにと、
彼女は身を挺してこの世界を守った。
魔王軍残党は勇者と騎士達によって討ち取られ、
偉大な妖精王オベローンが復活する。
こうして世界は平和になったのだ。
歌い上げた吟遊詩人に、広場に集まった人々は聖女様万歳と投げ銭しながら拍手を贈る。
精霊が住まう世界アルスター。
世界を構成するのは滅亡したレムリア大陸を除き、広大なユージア大陸、精霊種の地ローレンシア、南極に位置する雪と氷のアンタルティカ。
このうちのユージア大陸には、大きく分けてナーロピアン、メディアニート、シーナジアといった3つの領域からなる。
そのナーロピアン領域から北西に海を隔て、アイランド、ハイランド、ミッドランドの三つの島々で構成されたのが、ハイランド聖王国。
第一次産業は、乳牛で生産されたチーズ、羊毛生産、乳牛などの畜産業、ウイスキー、伝統の漁業。
農業も行われているが、大半の小麦は大陸からの輸入に頼っている。
第二次産業は世界有数の造船業と、この島国が起源と呼ばれるロングソード、ロングボウ、チェーンメイルをコートにしたホウバークが生産され輸出される。
また羊毛を利用した織物業のほか、ドルイドとも呼ばれるエルフたちが作った木工品などが輸出品として人気がある。
現在の首都はアイランド島の王都ダブリンス。
100年前の王都は、ミッドランド島のロンデンだったが、現在は魔王アトムを封印する禁足地として、立ち入りが禁止された。
このハイランドの国王は聖王とも呼ばれ、これは聖女の兄ジェームズが、ハイランド国王に即位した際、ハイランド聖王国と国名を改めたことによる。
この聖王の存在は、国外のナーロピアン諸国へ確固たる影響力を持ち、聖女と呼ばれた偉大な英雄が、世界の脅威でもあり破壊の限りを尽くした魔王アトムを討ち取って、封印した伝説があるためだ。
聖王がいる王都ダブリンスから、街道を北に100マイルほど行くと、この国最大の交易都市の一つベルンファーストに辿り着く。
ベルンファーストは、マクドネル伯爵家の領地であり、ナーロピアンでも有数の天然の良港を持つ港湾都市とされ、世界最大規模の造船施設と、海を挟んだ大陸最大の先進国の一つ、ラティウム共和国と交易が盛んである。
またラティウムのみならず、この港町には世界中の商人達が集う。
個人間及び商社同士の契約と保護も、条例で法整備されているため、商取引でのトラブルが少ないことと、この街の領主が半ば私兵化する冒険者組合の存在も大きい。
このベルンファーストの冒険者ギルドを運営しているのが若き領主、サー・ショーン・スレイン・ゴールドマン・マクドネル。
彼の手腕により、この港町は世界交易の最盛期を迎えようとしていた。
経済力と武力が備わっているからこそ、この港街で多国間の商取引が成り立つのだ。
こうしてこの街にある冒険者ギルドを目指し、国内のみならず多くの若者達が海を渡って大陸からやってくる。
冒険者ギルドとは、世界各地に存在する冒険者達の組合のことを言い、組合長も冒険者または元冒険者の場合が多い。
冒険者の主な仕事はモンスター討伐、要人護衛、秘境探索、遺跡発掘、資源発掘、賞金首捕縛などといった大きな仕事から、薬草採取や素材調達、ひいては街の清掃活動や農作物収穫など多岐にわたる。
こういった様々な依頼を受け入れて、冒険者達に斡旋して対価を支払うのが、冒険者組合の役割。
元は世界を救いに来たという、伝説の勇者が、世界の王族達に掛け合い、各地に設立させた職業安定所が起源である。
この冒険者稼業で生計を立てている者は、いわゆるプロの冒険者。
プロの冒険者の中には、腕の立つ戦士や魔法使いも多く、各国間の紛争で斥候役や威力偵察役の傭兵のように扱われることもあったり、外交調停役もする場合もあり、各地の冒険者組合に登録される。
このプロの冒険者にはランクが存在する。
世界の組合共通の冒険者ランクは以下の通り。
C級(カッパー銅)冒険者
B級(ブリリアント水晶)冒険者
A級(アダマンタイト鋼)冒険者
S級(シルバー精霊銀)冒険者
G級(ゴールド魔法純金)冒険者
銅級とも呼ばれるC級冒険者は、駆け出しからベテランまで幅広い冒険者のことをいい、よほどのことがない限りB級に昇格する。
B級冒険者は冒険者達の主力で層が厚く、世間一般的にプロの冒険者と呼ばれる者達のをとを指すが、素行不良もしくは、B級に上がっても一定の成績を残せなかった場合は、組合長からC級に降格されてしまう。
A級やS級にもなると、冒険者の花形とも呼ばれ、世界各国や地方で顔が効く有名人が多く、中には一国の軍団と同等の武力を持つ者もいるという。
G級冒険者ともなると、一国に一人いるかどうかの逸材で、単独で他国要人とも渉外もこなせるほどの偉人かつ偉業を成し遂げた伝説の冒険者とも呼ばれる。
そしてこのベルンファーストの冒険者組合には、G級冒険者にして、数々の偉業を成し遂げたという、伝説のハンス・バーベンフルト。
別名ドラゴン殺しのハンスが所属しているという。
この他にも花形冒険者達が多数在籍し、冒険者依頼も良質なものが多いため、ナーロピアン領域最良の冒険者組合とも呼ばれる。
こうしたことで、このベルンファーストに人が集まり、経済活動が盛んとなり、冒険者へ斡旋する依頼料も高騰。
これを冒険者達が街に還元することで、経済的に豊かになるという、伯爵にして組合長ショーンの思い通りになりつつあった。
が、しかし……。
ベルンファーストのドネアル広場で、旅人相手に曲を演奏する吟遊詩人を、町人に偽装した盗賊達が取り囲む。
「おい、吟遊詩人。見ねえツラだな」
「広場で演奏するにはよお、しょば代がいるんだ」
「おう、泣く子も黙るギャリング盗賊団によ」
「俺達ゃ盗賊ギルドがバックについてるから、言う通りにしたほうがいいぜ、詩人さんよお」
浜の真砂は尽きるとも世に盗人の種は尽きまじ。
石川五右衛門の辞世の句の通り、浜辺がなくなるほど港湾整備した結果、世界有数の港町に発展したベルンファーストの街に盗賊達が紛れ込む。
近年領主を悩ませてる、領民及び旅行者への街頭犯罪である。
このベルンファーストが、経済的に豊かであると知った盗賊ギルドから目をつけられた結果、ここ最近は特に治安が低下していた。
盗賊ギルドとは大陸の覇権国家の一つ、メディアニート領域、エラーム皇国の首都にして、世界最大の都市イスタミルで一大勢力を築く盗賊達の組合。
構成員数が、世界中に10万人はいると推測される、世界的な犯罪者集団のことを言う。
ベルンファースト領主も、冒険者組合長自ら依頼を出す形で、街の治安を脅かす盗賊討伐を考えるも、世界的な犯罪組織を相手にすることとなるため、国王と貴族院の承諾なしに治安対策に乗り出せずに今日に至る。
だがしかし、盗賊達にこの辺りで見ない顔だと言われた吟遊詩人は曲を奏で続けた。
「てめえいい度胸じゃねえか」
「ああ、ぶっ殺しちまおう」
「演奏代は俺らが貰ってくぜ」
盗賊達が懐からナイフを取り出した時だった。
旅人や市民達がその場を足早に立ち去ろうとする中、身長170センチに僅かに満たない小麦色の肌をした顔立ちが整う少年が現れる。
黒のフードパーカーに酷似したジッパー付きローブに、ダボッとしたデニム生地のような黒ズボン。
フードから見える頭部は、一見して野球帽のようにも見える、高耐衝撃性プロテクターキャップを装備。
少年の全身黒の服装にアクセントがあるとしたら、黄色味がかかった頑丈そうなブーツ。
ティンバーランドのブーツにも似たこのブーツ、つま先から靴底を特殊合金オリハルコンを包むように魔獣の皮で覆っている。
気配を感じた盗賊達が振り返ると、その少年が、ズボンのポケットに手を突っ込みながら凄まじい睨みを利かせる。
「な、なんだこのガキ」
「ま、待てよ。この目付きカタギじゃねえ」
「ケツモチか? この詩人の」
「てめえ一体のどこの誰だこの野郎」
一瞬盗賊達が同業者かと思うくらい、少年の目付きが鋭く、暴力に身を置く者独特のオーラを発していた。
少年はポケットから左手を出すと、盗賊達が一斉に身構えたが、吟遊詩人の投げ銭箱に、この世界とは別の金貨を指で弾いて投げ入れる。
「おう、ビートくれや」
声変わりしたばかりのような少年が、吟遊詩人にビートを要求するのを見た盗賊達は、何を言ってんだこいつと思う。
「オーケー! チェケラッ!」
すると吟遊詩人が少年に応じて、魔法のリュートの弦を激しく弾くと、少年が右のポケットからマイクを取り出した。
吟遊詩人はギター音楽をベースに、シンセサイザーの音色、そしてレコードを逆回転したようなスクラッチのイントロを奏で始める。
「Yo久しぶりに、降り立つ世界♪ 懐かしの、ハイランド! 俺の愛する、アイランド! 最高にブチ上がる、俺のマインド♪ 思い出す、あの子との出会い、Thank you for your kindness.あの子と過ごした日々の記憶♪ 美しい思い出に浸る俺の前に、ワルそうなwackが気分を害する。挨拶もできねえで、てめえ一体、どこの誰だと? 頭ワルそうなことを、自己紹介すらもできてねえ♪ shit」
吟遊詩人が鎮魂歌のようなレゲエ調の曲を奏で、少年が独特のリズムに合わせて語りかけるような歌を歌い始めた。
「あぁ!?」
言葉の節々に、この世界の言語でない単語混じりの、独特なリズムの歌を聴いた盗賊達は、なんとなくだが自分たちを馬鹿にする歌詞だと気付く。
「なんだ小僧! 俺達に喧嘩売ってんのか!!」
「ものを尋ねる時はそっちが、先に名乗るがスジってもんだろ? 頭が、痛くなってくるぜMan♪ 挨拶を知らねえかのかfuckin,guys!! 叩き込んでやろうか、挨拶って単語を! 俺の名前を刻むぜ言霊♪」
この世界にいまだかつてなかった曲調と、少年が歌うヒップホップミュージックのVreseでディスられた盗賊達が、敵意剥き出してナイフを持ってにじりよる。
「俺の名前はIron♪ 鉄の拳と、鋼の意志を持つ、badass! What's up……調子はどうよ? 俺がアイアン様だ! Fuck you!!」
「なんだこのガキ!」
ナイフを持って詰め寄る盗賊の一人に、少年が左手で指鉄砲の形を作って、ピストルのように構えた。
「へ?」
「おい♪ 挨拶がねえぞシカトかpiece of shit! ワルそうな頭に、叩き込むぜモラルの弾丸! 俺の言霊をぶっ放すぜ! お前らに、くれてやる“水鉄砲“」
指先から放たれた圧縮空気で超加速した水の弾丸が盗賊の一人に命中する。
すると、まるで銃で撃たれたように吹き飛んだあと、脳震盪を起こして仰向けに倒れて失神する。
「頭冷やせやクソ野郎」
それを見た他の盗賊達が、一斉にアイアンにナイフで襲いかかる。
「この野郎!」
「やっちまえ!!」
次々にナイフで襲いかかる盗賊達の頭に、アイアンと名乗った少年が、ダンスをしながら曲撃ちの水鉄砲を繰り出し、瞬く間に4人いた盗賊達を戦闘不能にした。
「思い出す、ここを離れて苦しんだ記憶♪ 彼女と交わした最後の約束♪ 思い出すよ、だから俺は耐えられたんだ気持ちを強く♪ 自分を変えるために学んだ努力♪ 学びの先で上がった知力♪ 耐える心を学んだ精神力♪ 中で世話になった人たちにBig up! ありがとう、感謝の言霊♪」
「ひ、魔法使い!! てめえ俺たちを誰だと思ってんだ!! ピューーーイ!!」
離れて見ていた盗賊の一人が指笛を吹くと、広場に盗賊達が次々集まってくる。
「どけ、てめえら!!」
頭に鉄兜を被った盗賊達を率いる頭目、ギャリングも姿を現す。
身長190センチはありそうな、筋骨隆々の肉体に革鎧を着込み、木材加工用の斧を両手に持ついかにも盗賊といったように見えるが、彼は元々大陸のゲルマニア聖王騎士連合国所属の騎士だった。
だが素行の悪さから身分を剥奪されて、盗賊稼業を生業として今日に至る。
そんな彼でも、魔法使いアイアンの鋭い眼光と威圧感、さらには圧倒的に戦いながら、しかも歌うという、わけのわからない奇妙な戦い方に困惑する。
ーーこのガキ、なんて目付きだ。しかもよくわかんねえ言葉の歌とか歌いながら、こっちにまったくビビってねえし、カリスマ性もありやがる。しかも肌の色……エラーム人? アレか、噂に聞くギルド親衛隊か?
盗賊ギルド親衛隊とは、世界各国の盗賊達にエラーム皇国イスタミルの首領の命令を伝える他、ギルドに敵対する人間を抹殺するといわれる、盗賊のエリートをいう。
「おい、アイアンだったな? あんたもしかしてギルド本部の親衛隊か? 俺の名はギャリング! この辺ではちっとは名の知れた盗賊だ!!」
するとアイアンは、肩をすくめてうっすら笑みを浮かべた。
「だったらなんだよ?」
「やっぱそうか。この街の領主野郎、俺の盗賊団に10000ダラーの賞金かけやがったんだ。だが親衛隊が来てくれたら心強い、やっちまおうぜ領主野郎を!!」
盗賊ギャリングの申し出に、アイアンがとびっきりの悪そうな笑みを浮かべる。
「Yo、それなら話は早いぜ♪ お前やっちまって、10000ダラーGETだ♪ myアイランドにお前なんざいらねえ♪ ギタギタにしてやるぜ」
「な!?」
その場にいる盗賊達10人に、アイアンが指鉄砲を向けた。
「オラかかってこいや盗賊♪ 少しは根性を見せてみろ♪ このアイアン様に、抗ってみせろや♪ 盗賊のwack共!」
マイクで歌いながら、左手の指鉄砲から魔法の水弾を盗賊達の頭に撃ち込んでゆく。
「一斉にかからねえとやべえ! お前らやっちまえ!!」
盗賊達が4人がかりでアイアンにナイフで飛び掛かるも、正面から来た盗賊に水弾を撃ち込み、右手の鋼鉄のマイクを振り回して盗賊二人を昏倒させる。
さらにアイアンは、一切振り返らずに、ノールックの背面撃ちで背後の盗賊の頭を水鉄砲で撃ち抜き、昏倒させた。
「言霊、ぶっ放すぜマシンガン! お前らのドタマに“機関水銃”」
アイアンの左人差し指に魔力がチャージされ、バレーボール大の水球が現れた瞬間、圧縮された水鉄砲がマシンガンのように乱射され、盗賊達が次々に吹っ飛ばされる。
だが、鉄兜を被るギャリングは水鉄砲の衝撃を根性で耐えた。
「この野郎! ぶっ殺してやる!!」
ギャリングが両手の斧を振り回すも、アイアンは素早い動きで翻弄しつつ、右手のマイクを口元に近づける。
「Yeah、お前は盗賊♪ お尋ね者が、賞金首♪ お前は、俺のターゲット! 俺がハンテッド! 狩られるのはお前だぜ盗賊!」
「てめえ! 死ね!!」
ギャリングは、右手に持つ斧を投げつける。
だが逆にアイアンは、回転して飛んでくる斧を、水の魔法をまとわせて衝撃を吸収し、左手で楽々とキャッチする。
「げっ!」
アイアンは斧の刃を五指で摘むと、その場で軽く放り投げ、柄を左手でキャッチする。
「ば、バケモンだ!!」
これは敵わないと、ギャリングが振り返って走って逃げようとした。
だがアイアンはマイクをズボンのポケットにしまいながら、身体能力を活かし、右手に斧を持ちかえ瞬時に間合いを詰める。
「ウラァ!!」
アイアンは斧を振りかぶり、刃の部分とは逆の斧頭の部分で、ギャリングの背後から右脇腹目掛けて打撃を加えた。
「グェ!」
革鎧越しでも肋骨が砕かれ、肝臓に鈍い衝撃が走ったギャリングは、うつ伏せに広場の石畳へ倒れ込むと同時に、アイアンは右手にした斧を放り投げる。
「こうすりゃ当てやすいぜベイベー」
アイアンは倒れたギャリングの背中に乗り、兜と鎧の隙間の延髄に左手の人差し指を入れた。
「ま、待て!」
「BANG!」
超高圧水鉄砲を、至近距離で延髄に受けた盗賊ギャリングは泡を吹いて失神。
頸椎を損傷して戦闘不能になった。
お尋ね者の盗賊達を、瞬く間に倒したアイアンに広場中拍手喝采で歓声が上がる。
アイアンは立ち上がり、ズボンのポケットに入れたマイクを再び手にすると、妖精が姿を現す。
身長15センチに満たない、青いドレス着た透き通った蝶のような羽が背中に生え、金髪のポニーテールで青い目をした美しい少女のような妖精。
彼女はアイアンを祝福するように拍手しながら、頭上を飛び回る。
「Yo、俺は妖精に導かれし、二つ名は魔法使いA.K.A鋼鉄のアイアン様だ♪ Yeah、俺の魔法で踊ろうぜベイベー♪ みんなの拍手マジで最高だ♪ 懐かしの、ハイランド♪ 俺の愛する、myアイランド♪ 最高にブチ上がるぜ、俺のマインド♪ 帰ってきたぜ俺のアルスター」
広場で歓声が上がる中、いつに間にか曲を奏でていた吟遊詩人と、飛び回っていた妖精の姿が消え、騒ぎを聞きつけた領主の私兵達や冒険者達が集まる。
冒険者組合と騎士達が総出で倒す予定だった手配中の盗賊団が、たった一人の少年に倒されてしまったことに絶句する。
「手配中の盗賊達が……」
「おい、何者だ!」
「こいつ一人がやったのか?」
「ショーン様、こいつ只者じゃないですよ」
ショーンと呼ばれた若きベルンファーストの領主が、アイアンの前に立つ。
ショーンの年齢は24歳、身長175センチの体を仕立てのいい赤のブレザーに包み、金髪の長髪に明るい茶色の瞳をしたS級冒険者にして冒険者ギルド運営者。
アイアンの戦いは見ていなかったが、ショーンはアイアンを見て笑う。
「はは、すげえぞこいつ。逸材だ。俺の組合にスカウトするっきゃねえ」
これが二人の出会い。
この出会いにより、多くの冒険者達の運命がアイアンを中心に交わりだす。
主人公の彼はプロローグでべそかいて泣きを入れてましたが、強くなって帰ってきました。
そしてこの第1章の狂言回しにして組合長のショーンの一人称をお送りします。