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リリック〜魔法使いアイアンの冒険伝〜  作者: 風来坊 章
第2章 王都ダブリンスと追憶の章
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第100話 【合同】G級冒険者集結 前編

 その頃、賢者ヤスコは父からの連絡を終え、ショーンとハンに振り向く。


「アイアンがまずい状況です。ガイ兄様を操っていた大主教の正体は国家元首、聖王ジェームズ」


「ファッッ!? マジ!?」


「なんと!? まずいのう、ハイランドの国家元首が人類側の裏切り者とは。いつから裏切っていた」


 最年長冒険者ハンは100年前、魔王軍と戦った当事者ではあったが、自国以外の情勢に関与していなかったため、聖王ジェームズがかつての魔王軍協力者であったことを知らない。


「おそらくアイアンの話を元にすると最初から。お父様が倒し損ねた邪神の配下。改心した振りをして、ずっと世界征服の機会を伺っていたと推測します」


「師父に逆らうとは……なんと愚かな。死よりも恐ろしい目に遭わされるぞい」


「ええ、ハン様。裏切り者は死んでも許しませんから、お父様。文字通り“地獄の果てまで追い込み“ますからね」


 二人の話を聞くショーンは、死んでも許さず地獄の果てまで追い込みをかけるという話に、そこまで執念深いのかと身震いした。


 だがそれは文字通りの意味で、勇者は相手が仮に死んで魂が地獄に堕ちたとしても、堕ちた先の地獄の果てまで、追いこみに行って、最終決着をつけるという意味合いである。


「……うむうこの件、ワシも本国の皇帝に報告せねば。いや、その前にアイアンなる新人冒険者を助けねばなるまいな」


「ええ、すぐにでも」


 すると上空からドラゴン化したトリノが、冒険者Aチームを乗せて降下する。


「ド、ドラゴン!?」


「ニンゲン共! 我を魔導士アイアンの元まで案内しろ!」


 トリノの頭の上に乗るエレナが、ショーン達を見下ろす。


「ええ、あたし達もアイアンを助けに行くわ!! それと組合長、ベルンファーストの街も襲われていたそうよ!!」


「ま、まじか!?」


 トリノの背から、巨体を漆黒の龍鎧に身を包み、巨大なハルバートを持つ戦士も姿を見せる。


「ショーン組合長、街は無事だ! これよりわたしも増援に入る」


「バーベンフルトさん!?」

「おおバーベンフルト! 久しいのう」


 G級冒険者バーベンフルトも、ダブリンスの戦闘に駆けつけた。


「ハン老師、ご無沙汰です! 組合長、ベルンファーストの街は現在元魔王軍達とファーティーマが防備を固めているので安心されよ! 事情は今し方、弟子から」


 東方シーナジアの冒険者達も、バーベンフルトを興味深く見つめる。


「すげえガタイしてるな、あれが西方最強の金級」

「ええ、噂に聞くバーベンフルト」

「全身龍鱗装備かよ、すげーな」


ーーなるほど、彼がアイアンの組合の実質的なリーダー、G級冒険者。学院の先生方ほどではないにしろ、なかなかの武の気配をさせていますね。わたくしのいい手駒となりそうです。


 使える男がやってきたと、ヤスコは微笑む。


「ご機嫌よう、バーベンフルト様。わたくし、このたびウィンドボナ組合所属になりました。ヤスコと申します」


「君が勇者様のご令嬢か! 話は弟子から聞いている! アイアンの元へ急ごう! 彼は我々冒険者に無くてはならない逸材だ!!」


ーー状況判断が早い、やはり使えますね。


 そしてショーンはというと。


「うぅ、まじかよ。大主教の大貴族だけじゃなく、マジで聖王と敵対とか。ヘタすりゃ反逆罪で身分剥奪されちまって、俺の転生貴族ライフ終わりだ。なんか理由つけてベルンファーストまでバックれ……」


「あなたもご同行を」


 ヤスコはショーンに振り向く。


「ふぁっ!? 俺も!?」


 微笑むヤスコが握り拳をガッツポーズして、来ないと殺すとでもいいたげなプレッシャーを放つ。


「え?」


「うっ、わかったよ。あと街の避難はあらかた終わった。騎士達は残りの住人の捜索が終わったら俺の領地に」


「はい、マクドネル侯。何から何まで感謝いたします。我らの団長と副団長をどうか」


 ボーントリノの足伝いから背中に乗るショーンに、伝令のS級冒険者トーマスが駆け寄る。


「組合長、残りの生存者達を救出してる。ただ……リーアムの娘が街外れの屋敷にいて……攻撃に巻き込まれて重篤に陥ってる」


「え!? うちのリーアムに娘なんていたの!?」


「ああ、それと移籍してきたセシールの伯母にあたるらしい」


 ショーンは、ドラゴンの背に乗ったバーベンフルトを不安気に見上げる。


「……信じようリーアムを。彼も最年長冒険者のベテランだ組合長」


「ああ、バーベンフルトさん。ハンさん、東方の冒険者達も来てくれ、手を貸して欲しい。トーマスはリーアム達についててくれ」


「わかった!」


 成り行きを見守っていたヤスコは、ドラゴン化したトリノの上を飛ぶ。


「マヌケな顔をしてないで、増員を乗せたらわたくしについてきなさい、ウーパールーパー」


「ウーパールーパー? なんだそれは?」


「あなたのような顔したトカゲですが、アホロートルとも言います」


「なんだとっ!? この脆弱なシロヒトリガめ!」


 トリノの頭の上に乗るエレナ達Aチームは、二人が罵り合う間、街の一部が白熱化していることに気付く。


「あれ見て! ここから離れたところですごい燃えてる!」


「ええ、ハロルド。おそらくそこにアイアンがいるわ。クリスタも行こう」


「……ええ。聖女様、どうか皆に救いがあらんことを」

 

 冒険者達を乗せたトリノは、焼け落ちた大聖堂方向へ飛び立つ。



 その頃エルフのドルイド、リーアムは全身火傷で息を引き取る寸前の実娘ウナを、ハーフエルフのセシールと共に看取ろうとしていた。


「ウナ……」


「……生きてたみたいだね、ろくでなし男とセシール。あたしはもうダメよ……娼館守るためにこのザマさ。中の子達は精霊の魔法で守れたけど」


 娼館が炎に包まれるのを、幼い頃に父親から習った魔法で防いだ代償で、彼女は力を消費して炎に焼かれたのだ。


「セシールだっけ? ごめんね、ドナのこともう教えてあげられない。あんたのお母さんの話は、この男から聞いてちょうだい。それに……」


 死を迎えようとする彼女は、残る力全てを振り絞り、意中の男を想う。


「彼を、リチャードを助けなきゃ。昔、信仰してた妖精王様の声がして……邪悪にとらわれた彼を助けたいって。だから……あんたが昔儀式でやってた秘術で……」


 彼女は、大昔エルフの森で行われていた人間の生命エネルギーを使用した破邪の精霊魔法を、己の命を代償として使おうとする。


「よせドナ! いにしえの悪魔達を封じた精霊魔法、生贄を使用した破邪の秘術を使えば、お前はその代償で確実に死んでしまう」


「……どうせ森から離れて長生きができない体だったし。あたしが最後に愛した彼を、リチャードをあたしは……待ってて、あなたを邪悪の魔の手から助け出すわ」


 リチャードを助けるための秘術を使用したウナの体が光り輝く。


 すると今ままで憎んでいたはずの父リーアムが、俯いて涙を流していたことで、死の間際で彼女の憎しみが消えていく。


「……さようなら、リーンドールお父さん。ドナの子、セシールも……」


 彼女はその場で息を引き取り、光の粒子と化して消えて行く。


 生き別れた娘の死に、本名リーンドールことリーアムは唇を噛み締めて涙を流す。


「なぜだ妖精の王よ。これは私への罰なのですか? 森で生贄の儀式を終わらせた……私への」


「……祈っても、神や精霊は助けてくれません。それより冒険者リーアム、切り替えましょう。クエストに専念しましょう」


 焼け残った娼館から、騎士団と合同で娼婦達を二人が救出する中、セシールはショーンの身を案じた。


 

 王都時間22時33分


 突如現れたリュウに、興奮状態だったアイアンは一瞬で冷静になり、周囲の状況を見渡す。


ーーパンドラ、相棒(バディ)とうまく距離をとって待機してくれるみてえだな。それに……。


 パンドラのゴーレムが離れたところで待機し、廃墟となった大聖堂は極炎に包まれていた。


 地面が溶けて赤熱化し、猛毒の黒煙が漂う戦場で、アイアンはリュウの異質さに気付く。


ーー妙だぞ、こいつ。魔法防御してる俺はともかく普通くたばるだろこの状況。


 アイアンはなぜリュウが死に至らないか不思議に思い観察する。


ーーこいつ……よく見ると戦闘中は薄い膜みてえな体に鱗が形成されてる。これで毒と炎に耐性がある……まさか龍人? 


 龍人とは現在のボーントリノのように、龍が人型になった形態である。


 姿形はほぼ人間だが、膂力と魔力を含めて人智を超えたドラゴンそのものの人種を指す。


ーーそれに……今、俺、ブチ切れててクールじゃなかった。落ち着けよ、俺。メスゴリ先公が言ってたあれ、思考を三人称……メタ思考だ。


 アイアンは昂る気持ちを抑えつつ、今の状況を自分も含めて三人称の視点、メタ視点を作り出す。


 これは自己の思考を第三者に置き換えることで、自分という存在をふたつに分け、感情から距離を置いて自分を見つめることができる手法を言う。


 こうすることにより、かつて勢いで動いた自分を抑制し、彼の天性の戦闘IQを格段に上げることが可能となる。


ーージェームズをぶっ殺すのは本筋じゃねえ。サイコビッチの応援まで、こいつ弱らせてリチャードのおっさん達を救出。可能ならばそのあとは、ジェームズの身柄を抑える。それに……。


 アイアンは、自分の感情を昂っているのを自覚しつつ、己の感情的な弱さも自覚しながら一息つく。


ーーメンタル、我慢、心の強さだ。感情は生きるうえで大事だが、それが弱さになったらただの馬鹿。


 アイアンは、通称学院と呼ばれる教育機関の担任の教師から学んだことを思い出す。


ーー俺が今、この状況で何をすべきで目標をいかにして達成することがもっと大事だ。それが……強さにつながる! そして今の俺は、自分だけじゃなく俺の周りも強くする!


「小僧! 俺がこいつとやるから援護しろ!!」


「待て! やつには直接攻撃が効かねえ!! 俺の……」


 話を聞かず、リュウは一気にダークイフリートに間合いを詰めて崩拳を繰り出す。


「聞けよ!!」


 アイアンは指先に水魔法を作り出し、水塊を連続で発射する。


「ぬう、何者だ貴様!!」


「俺の名はリュウ!! 世界最強の冒険者だ! 勇者様にかわって俺がぶっ飛ばすぜ魔王軍!」


「貴様ああああああ! このワシの覇道を邪魔するか、薄汚いシーナジアの冒険者め!!」


 リュウの体から形容し難い青龍の力が発揮され、手足に青龍の凍てつく波動が宿る。


「水龍連武」


 まるで演舞のように、リュウは次々に打撃技を繰り出し、ダークイフリートの熱を奪っていく。


「このっ!」


 大剣に見立てた爆炎をあげる巨大なオベリスクも、リュウを両断するどころか触れることさえできず、虚しく空を切る。


「そんな馬鹿でけえ得物が当たるわけねえだろ!」


 リュウは飛び上がり、ダークイフリートのみぞおち部分にカウンターの後ろ回し蹴りを放つも、手応えを感じないことにイラついて舌打ちした。


「チッ、クソが。これじゃ、効いてるかどうなのかわからんぞ」


 アイアンは、指鉄砲で魔法を放ちながらリュウの攻撃を冷静に見つめ、物理的なダメージを与えてはいないものの着実に熱を奪っていることに気付く


「表面温度が下がってるようだがなるほどな。冷気の魔法と闘気を込めれば、熱奪ってダメージを与えられるか。思わぬ突破口が見えたぜ……ん?」


 すると、騒ぎを聞きつけた聖女教会の武装僧侶や司祭たちが、松明を手にして吹き飛んだ大聖堂の異変に気付き大挙して現れる。


「ば、化物だ」

「誰かが交戦してる!」

「み、みな隊列を崩すな!」

「はっ! バーン司祭!!」


 ダークイフリートを操るジェームズは、頭部から半身を出現させ、集まった武装僧侶達を見下ろす。


「ちょうどいい、バーン率いる僧侶達よ。この者共を始末しろ!! 大主教命令である」


「ジェームズ!!」


 アイアンをよそに、大主教アルバートの身分を持つジェームズが、僧侶達に呼びかける。


 だがしかし、ダークイフリートの巨体と禍々しさに僧侶達は恐怖で身震いし、パニックを引き起こす。


「大主教猊下が化物に……」

「ああ、悪魔に取り憑かれてる」

「おお、聖女様、猊下をお救いください」


 自身の姿を見て恐れをなす僧侶達に、ジェームズはダークイフリートからドス黒い炎を噴出し、ドス黒い有毒ガスの煙を撒き散らかす。


「うっ、ウゲェ」

「け、煙が」

「ひっひいいいい」


 毒ガスでバタバタと僧侶達が倒れ、ダークイフリートがドス黒い炎を燃え上がらせて激昂する。


「この不信心者共がああああああああ!! ワシがこの国の最高権威にして大教主であるぞ!! 貴様らもアトムと冒険者もろとも抹殺してやるわあああああ!!」


「クソッ! 洗浄流水!!」


 アイアンは僧侶達を守るために、皮膚や粘膜を洗浄するための天候変化の魔法を発動し、浄化作用のある雨で、毒ガスを浴びた僧侶達の体を洗い流す。


「俺は冒険者アイアンだ! 東方の冒険者リュウと見ての通り魔王軍の化物相手にしてる! 街に被害が出る前に退避しやがれ!!」


 アイアンの避難勧告に、パニックを起こした教会庁の武装僧侶達がすぐさま応じた。


「やはり魔王軍が王都に!?」

「冒険者達よ、すまぬうううううううう」

「みんな退避よ!」

「ここは冒険者に任せたわ!!」


 ジェームズは、怒りの表情を浮かべてアイアンに振り返る。


「アトム!! 貴様こそが魔王のくせにワシの僧侶達を騙しおったか!!」


「うるせえ、てめえこそ俺をイラつかせやがってクズのくせにShit おおかたてめえは、ワイドのジジイや邪神の意思と繋がって世界征服に乗り出したんだろ? 違うか?」


「だからなんだ!! 貴様らレムリアなどワシとバロル様の道具にすぎぬ! ワシこそが偉大なるアトランティスを継ぐ聖王であるぞ!!」


 アイアンとジェームズのやり取りを、翻訳機付きのサングラスをかけたリュウは、興味深そうに聞き入る。


「何が偉大なるアトランティスだ! 何が聖王だ! 何が教団だ! お前の野望のために犠牲になったのが、聖女と呼ばれるようになった彼女……シャーロットじゃねえか!! Fuck you!!!」


「黙れ魔王め!!」


 アイアンは怒りと共にリズムを肩でとり、水と風の魔力で爆炎を防護しながら息を吸い、歌を口ずさむ。


「ろくでなしの歌う罪、 世界が知ったら凍り付く真実! そして運命に弄ばれ、引き裂かれた二人の思い♪ あの日君と離れ離れになって凍りついた記憶! 君がいないことの虚しさ♪ 思いをを魔法(フロウ)に込めた言霊(リリック)、金剛氷晶!!」 


 アイアンが歌の周波数で分子の振動を鈍らせた瞬間、空気中の水分が凍結して摂氏マイナス12度以下で生じるダイヤモンドダスト現象が生じた。


 アイアンの魔力反応と炎の光でキラキラと光る氷晶が、鋭く尖り、無数の氷の刃が形成されてゆく。


「You motherfucker!!」


 風の魔力が発揮され、無数の氷の刃がダークイフリートと融合したアンデッドアルフレッドの霊体ごと切り刻んだ。


「ぐあああああああああ、貴様ああああああ!」


 複数の系統の魔法を織り交ぜながら、高等魔法を放つアイアンの力に、リュウは戦慄する。


ーーこんな高度な仙術見たことないぞ。小僧、やはり本物の魔王なのか? そうなら、なぜ伝説の魔王が……勇者様やガイの兄貴達側に……。


 無数の氷の刃でダークイフリートの熱を奪い、切り刻むアイアンは、さらにジェームズに語りかける。


「だいたいよお、てめえと何人かが世界の利権欲しさにジジイに吹き込んで始まったのが、100年前の戦争だったもんなあ?」


「ぐううううううう、アトムめ!!」


「それと今の俺はアトムじゃねえ!! 冒険者アイアンだ!! 聖王気取りのクズヤロー!!」


「黙れぇッッ!!」


 ダークイフリートがさらに炎の出力を高め、ドス黒い炎が紫色を帯びてアイアンが放った無数の氷の刃を溶かし尽くす。


ーーこいつが魔王かはどうでもいい! こいつは、アイアンは俺と同業、冒険者だ!


 迷いがなくなったリュウは、さらに青龍の力を五体に込め、闘気を練った。


「おい、リュウだったな! もうすぐこっちに仲間の応援が来る! これ以上犠牲者が出ねえうちにこいつ弱らせるぞ!」


「はっ、うるせえ。行くぜ新人、俺に合わせろ!」


 リュウがダークイフリートに間合いを詰めて、右半身の姿勢から、鍛え上げた指先に凍気を宿す氷の牙のような連撃を繰り出す。


「へっ、お前が俺に合わせろ!!」


 一方のアイアンは、電熱を帯びた無数の残像を繰り出しながら、オリハルコンのブーツに凍結の魔力を込めた。


「yeah ろくでなし同士踊ろうぜベイベー♪ ぶち込んでやるぜ凍結一蹴!」


 飛び上がったアイアンは、空中で一回転して、ダークイフリートの頭部目掛けて両断するような踵落としを繰り出す。


「凍結連脚!」


 着地すると同時に体を捻転した右足払い、空中に飛び上がってダークイフリートの脇腹目掛けた左の内回し蹴り。


「旋風凍脚!!」


 さらにアイアンは風の魔力で加速し、回転回し蹴りを繰り出す。


 アイアンの蹴り技に合わせて、リュウは凍気を帯びた青龍の牙を模した指先を、開指、手刀、貫手に変えながら連撃を放つ。


「ふん、流派は知らんが……無駄のような動きからの無駄のねえ蹴りだな小僧」


「それ褒めてんのかこの野郎!」


「ああ褒めてやったんだよ!」


 二人の連続攻撃に、ダークイフリートはもはやオベリスクも振るえず反応することすらもできず、ただただ困惑した。


ーーぐぬぬ、アトムめもそうだが、この薄汚いシーナジア人め!!


ーー聖王陛下、このアルフレッドが対処いたします。この精霊の主導権をわたくしめに。


ーーよかろう、地獄から甦った魔騎士アルフレッドよ! あの痴れ者共を抹殺せよ!!


「? 気配が変わったか?」


 ダークイフリートを操る思念が切り替わったことにリュウは超感覚で感じ取る。


「死ぬがよい冒険者! 紅蓮突撃(クリムゾンラッシュ)!!」


 地面から噴き出したマグマをまとい、ダークイフリートがオベリスクを構えながら、体当たり攻撃を繰り出す。


「チッ!」


 アイアンとリュウは突進をかわすも、すぐさま振り返ったダークイフリートはオベリスクから、紅蓮の炎をまとう地獄の亡者をライフルのように次々に放つ。


「この野郎ジェームズじゃねえな!! 機関水砲!!」


紅蓮星墜(メテオストライク)


 連続で水塊を放つ魔法で迎撃するも、ガイの戦闘能力を読み取ったアルフレッドの力で、今度は上空から光り輝く小型隕石が降り注ぐ。


ーークソ、ジェームズに歌ってたのにリズムが! それにこいつ、ガイさんの技を盗みやがった!!


「ぬうりぃやぁぁ!」


 飛び上がったリュウが、次々と降り注ぐ小型隕石を拳で砕くが、破壊しきれなかった隕石がアイアン目掛けて落ちていく。


「死ね魔王!」


 その瞬間、冒険者アリーフと格闘家ゴメスを乗せた巨大な白ネズミが、突進で隕石群を粉々に砕いた。


「ジェファーソン無事か!」

「助けに来たで!!」


 だがダークイフリートから、猛毒の黒煙が立ち上り、白ネズミことチュウ太郎はその匂いを感知して高度を上げる。


「ヘーイ、ラッタ! 早く行けよ!!」

「アホ! あの煙吸ったら死ぬでワレ!」


 すると、チュウ太郎から冒険者アリーフが飛び降りた。


「見つけたぞ魔王軍!」

「われぇ話聞かんかいアホンダラァ!!」


 アリーフは降下しながら防毒効果のあるマジックスカーフを口元に巻き、黒煙を潜り抜けて真っ赤に輝く地表近くまで降りる。


「リュウ! 貴様も来ていたか!? 状況は!?」


「アリーフか! 来るぞ!!」


 旧知の二人は再会も束の間、ダークイフリートの放つ爆炎をまとうオベリスクの一撃を飛んでかわし、今の攻撃に隙を見出したアイアンは指鉄砲を構える。


「a yo隙ができたぜクズヤロー!! 辺り一体の水分を極限まで圧縮、圧縮、圧縮するぜカマーン!」


 歌の通り風の魔力を使用し、上空に立ち昇った水蒸気を指先に吸収し、まるで深海のような圧力をかけて水分を圧縮する。


「ろくでなしが歌う、彼女の記憶♪ もう二度と会えない寂しさ♪ それを超える力が俺に欲しいんだanswer! so答えは、歌に込めるよ君のために!!」


 その圧力、一平方センチあたり1トン。


 そして集めた水分は、100メガリットル分。


「君が大好きな♪ この世界を救うために! 二度と悪に負けない力! 涙の記憶と共に言霊、圧壊水砲!!」


 アイアンの指先に人間大の大きさの、光の水の渦が巻き起こるのをアリーフは目撃する。


「な!? なんだこの魔法力!?」


 アリーフが魔法力に驚愕する中、アイアンは指鉄砲の照準を、ダークイフリートの眉間に定めた。


「BANG」


 魔法が発動し、極限まで圧力を高めた水塊が、音速をはるかに超えた速度でダークイフリートの巨体を吹っ飛ばす。


「ぐああああああああああああああ!」


 大量の水分がダークイフリートの熱源と反応し、大量の水蒸気を発生させ、大爆発を引き起こす。


「ぬううううう、どういう魔法体系だ!」

「仙術で防御しろアリーフ!」


 G級冒険者二人は風の魔力で爆風を相殺しながら、高温の水蒸気と爆発を耐え、あたりが白煙で覆われた。


 そして高温の水蒸気で火傷しながらも、アイアンは指先にふっと息を吹き込む。


「お、おいリュウ! 彼は、あの冒険者の少年は何者か!?」


「ああ、アイアンってクソ生意気な新人だ。でかい口を叩くだけあって、戦闘力だけならおそらく俺たちと同格以上!」


「なんだと!? あ、あれが、噂のアイアンか!」


 猛毒の黒煙も消滅し、チュー太郎に乗ったゴメスがアイアン達のもとまで降りてきた。


「おお、自分がアイアン君やな。ガネ……ガナパティの大将からの応援や。わしはチュウ太郎、君の仲間や」


「ヘーイ、さすがだなジェファーソン。やったか?」


「……いやまだだぜ。さすがは噂で聞くイフリート、これくれえじゃやれねえか」


 霧が晴れると身に纏う炎が弱々しくなってはいたが、ダークイフリートが、大剣に見立てたオベリスクを手に立ち上がる。


「騎士である俺をここまでコケにするとは! 殺してやる……殺してやるぞおおおおおおお!!」


 地獄の亡者、アルフレッドの怨嗟渦巻く魂がイフリートの咆哮と共に響き渡り、教会庁領の僧侶達が逃げ惑う。


 すると邪悪な存在を弱体化させる、ティターニアの演奏が止まり、ゴーレムのスピーカーが起動した。


「アイアン! ティターニアが力を使いすぎたっぽくて、すごい消耗してて気を失っちゃった! どうしよう!?」


「……相棒(バディ)、無理しやがって。休ませてくれパンドラ! あの野郎は俺がなんとかする!! もう少しで応援も来るはずだから来たら誘導を!」


 アイアンがパンドラに指示を出していると、極炎が巻き起こり、周囲が高温にさらされる。


「あっちぃ、クソ! どうするジェファーソン?」


「Do it やるしかねえだろ」


 強がって見せるアイアンだったが、ウィスティーズのアンデッド軍団との連戦でかなり魔力を消費していた。


ーーチッ、早く来いビッチ。専用武器もねえままだと、このままじゃジリ貧だ。俺のマジな切り札、祝詞を利用した魔法は……テンションをぶち上げて歌と祈りが向こうに……八百万の神々の神域に届いて俺と意識をリンクしねえと使えねえ。こいつを弱体化できる祈りがまだ届き切ってねえ。


 すると何かを察したゴメスは上空を見上げた。


「おいおい新手か? 上から何か来るぜジェファーソン」


「あ?」


 ゴメスと上を見上げるアイアンに、光の合図がピカピカと光る。


 ドラゴンと化したトリノと共に応援に来た冒険者達と、先頭を飛ぶヤスコがアイアンにモールス信号を送る。


「来るのが遅えんだよ、ビッチ。パンドラ、上空に合図だ!」


 ゴーレムが上空に、魔法で形成した曳光弾を発射すると、真紅の巨大ドラゴンを照らし出す。


「魔導士よ! 援軍を連れてきた!!」


 ドラゴン化したトリノが呼びかけると、今度はアイアンのすぐ足元で、ギターにも似た弦楽器の音色がする。


兄弟(ブロウ)!?」


 いつのまにか謎の吟遊詩人が白熱化する地面に平然とあぐらをかいて、両手でリュートを短く弾く。


「よう、ガナパティから届け物だ」


 吟遊詩人は、足元に置いていた金の包装紙が巻かれた長さ約90センチの棒状の何かをアイアンに手渡し、お返しに一時的に借りた刀を吟遊詩人に返す。


「オーケー、ようやく手元に来やがった。俺の専用武器、魔法の杖(マジックワンド)がよお」


 アイアンが筒状の何かを手にすると、包み紙が焼けて焼失した。


「What!? ジェファーソン、それって……」


 それは一見して木製、長さ35インチ(約88・9センチ)の長めの野球バットだった。


 魔法の杖を手にしたアイアンは、右手でくるくる回す。


「おう、こいつがあれば俺はGOATだ。チュウ太郎、リュウとよくわかんねえ誰か! 応援も到着したし第2ラウンドだ! ぶっ飛ばしてやるぜ!!」

遅くなりましたが明けましておめでとうございます

ようやく更新できました

後編に続きます

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