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とある図書館の異世界探査記録  作者: Aria
1章 デイトレナ地方からアウルダム地方へ
9/19

デラント村の楽器店

「ここがデラント村…なんか村って言うよりはバザール?みたいな感じですね」

 少し前まではあんなに遠くにあったはずの目的地であった山が目の前にそびえたつデラント村についに到着した。村と言っていたため小さな集落みたいなのを想像していたが、その想像とは裏腹にたくさんの人で賑わっており、商人と思われる人があちこちで自分の商品を売り込んでいた。

「ここはねぇ、昔は小さな村だったんだけどねぇ~。今ではデイトレナ地方の人だけじゃなくてアウルダム地方の商人なんかもここで商売をするくらいに発展したんだよねぇ。これも、山の整備が整ったことによる変化だろうねぇ」

「そうだな、そのうちここもミュージャンみたいな町になる可能性はあるかもな。とりあえず私は少し買い出しをしてくるから。そうだな…ほれ、少し金をやるから少し休んできな」

 テオさんはお金だ入った袋から銅貨を10枚ほど手渡してきた。これはこの世界の通貨で「ピール」という銅貨らしい。つまりテオさんは10ピールくれたことになる。これはただの所感にはなるのだが、1ピールで日本円で言う150円とかの価値があると思っている。が、その150円で買える物の量がちょっとおかしい気はしている。1ピールでサンドイッチが5個買えた時は流石に驚いてしまった。

「こんなにいいんですか!?」

「こんなにってたかが10ピールだろ。10ゴールドを渡したんならまだしも10ピールでそんな驚かれても困るんだけど」

 あ、そうか確かにピールは銅貨で最小貨幣なのを忘れていた…。今持っている「ピール」が銅貨、その上が「ミル」という銀貨、そして私としては一番聞きなじみのある「ゴールド」が金貨という感じで通貨が流通している。ちなみにミルが大体500円くらいで、ゴールドが1000円くらいで見ている。つまり1ゴールド出すとサンドイッチが30個以上買える計算になる。…今考えてみても恐ろしすぎる。

「で、でもこれ…1ゴールドくらいありませんか…?」

「あはは、それは無いよぉ。10ピールで1ミルになるからねぇ。つまりアリアちゃんは今1ミル持ってることになるよ~。つまり100ピールで1ゴールドと同じ価値になるってことだねぇ」

 もうわからなくなってきた…。だって確かではあるがミュージャンの時に魔物退治とかした時に貰った報酬が120ゴールドくらいだったような気がするんだけど…。この世界の通貨事情にはまだまだ慣れが必要かもしれないな…。日本円換算ももう少し考えないといけないかもしれない。

「も、もう少し勉強が必要ですね…あ、ありがとうございます」

「出発は明日にするから今日1日は自分のしたいことをしてな。んじゃ私は行くわ。陽が落ちてきたらそこの宿で待ち合わせようか」

 指を指している方を見てみると確かに宿の看板を掲げた家があるのが見えた。ここまで発展しているならテオさんの言う通り、いつか町になってもおかしくは無いのだろうな。

「え、ええと…私ここの事詳しくないのでロンドさんと一緒に居てもいいですか?」

「もちろんいいよぉ。でもその前に僕の用事を済ませてもいいかな?」

 あ、そういえばロンドさんもこのデラント村に用事があったから一緒に行動してたんだっけ。たしか、ドラムで使うスティックを壊しちゃったとかなんとか。スティック自体はミュージャンにも売っているらしいがロンドさんが使っているやつは特注らしく、その特注先の人がいるのがこのデラント村らしい。

「はい!大丈夫です!ありがとうございます!」

「元気がよくていいねぇ。元気がいい子供は僕好きだよ~。それじゃ行こうか。ついてきて~」

 道すがら美味しそうな物やそれの値段を見ながらロンドさんの後を追いかけた。


「お邪魔しま~す。レジーさんいますかぁ?」

「はいはい、いるよぉ。久しいねロンド。それにそちらの女の子は?」

「あ、えっと…アリアって言います。アントラさんにロンドさんと一緒にデラント村まで行って欲しいと言われたので…えっと…」

 とっさの嘘はあんなに簡単に思いつく癖にこういう普通の会話の時は頭が回らなくなるのは何でなのだろうか…。いやまぁ子供っぽいって言ったらそうなんだろうけども…なんか複雑な気分。

「なるほどね、なんとなくは分かったよ。あたしはレジー、見ての通りこのデラント村で楽器店をやっている女だよ。一応元冒険者だけどね」

「楽器…私本の中でしか見たことがなかったので…少しびっくりです。本当にこんな不思議なものがあるなんて…」

 もちろん嘘ではある。名前がどうかは分からないが、ギターやベース、ヴァイオリンのような弦楽器はもちろんトランペットやクラリネットのような管楽器もお店に並んでいた。形自体は少しこの世界の楽器の方がごついが、音の鳴る原理や鳴らし方自体は一緒なのだろう。

「そうかい。よかったら少し触っていきな、あたしの店は試供だけでも歓迎さ。あんたみたいな子供が使う用の楽器もあるからご自由にどうぞ。んで、あんたはスティックだったね。ちょっと待ってな…ほれ、ちゃんと用意はしてあるよ。ま、一応試し打ちはしていきな」

「まいどありがとねぇ。それじゃちょっと叩かせてもらうねぇ」

 ロンドさんはレジーさんからスティックを受け取ると、近くにあったドラムで試し打ちを始めた。その音に耳を傾けながら、お店を見て回ることにした。と言っても興味があるのはギターくらいだから対してみて回ったわけではなかった。

『おー、これはおそらく魔導ギターだろうね。ギターの中に魔力を送り込んで音を鳴らすギターだね。ロンドたちみたいに演奏に使うだけでなく、戦闘にもつかえる便利なギターだね。ってアリアちゃんギターに興味あるの?』

『あー、実は前世の私はギターが趣味だったんです。なので多分このギターも弾けると思いますよ』

『ほえ、アリアちゃんにそんな趣味が』

 誰かと一緒にバンドを組んで演奏していたわけでもなく本当に1人で弾いていただけだから、文字通り趣味ではあったけど、普通の人よりはうまい自信はあった。もちろん1人での話だけど。誰かに合わせて演奏することは出来ないだろう。

「なにかいいのはあったかい?」

「あ…レジーさん…いいものかは分かりませんがこの楽器は少し気になりました」

「ギターだね。見た所あんたは魔法使いなんだろ?それなら音は出ると思うけど、ちょっと試してみるかい?もちろん、買わなくても問題はない。お試しだからな」

 ロンドさんの方はもう少しかかりそうだったため、少し触らせてもらうことにした。ギターに魔力を入れる方法を教えてもらったり、ギターの弾き方を教えてもらったりした。やはり、弾き方自体は私が触ったことのあるギターと変わらなかったため、そんなに苦戦することはなかった。

「おー、アリアちゃん上手いねぇ」

「お試しで軽くコードを弾いてるだけで、上手いもくそもあるか。これくらいは誰だって出来るでしょうよ。それでそっちはどうだったんだい?問題はありそうかい?」

 いつの間にか試し打ちを終わらせていたロンドさんがギターの音につられてやってきた。レジーさんの言う通り適当にコードを弾いているだけなので、これだけで上手いとか下手とかの判断をされては困る。もちろんそれを口には出さないけど。

「あはは、手厳しいねぇ。特に問題は無かったよ~。いつもありがとねぇ」

「そ、それはよかった。んじゃこれ今回の金額ね」

「はいはーい、あ、あれぇ…?」

 領収書のようなものを受け取ったロンドさんはすぐに書かれた額を払おうとしたが、直ぐに困った様子を見せた。まさか払うだけのお金を持っていなかったとかだろうか?なんかこの人ならそう言ったこともやりかねないなぁ。いい意味で信用が出来ないから…。

「ちょ、ちょっと高くないです~?前の時と120ゴールドくらい高くなってるんですけど~…」

「いいじゃないか、子供におもちゃをあげるくらい。それくらい払えるだろう?」

 ん?待った、子供に…?もしかして今持っているこのギターの事を言っているのか…!?そう思って急いでこのギターの値段を調べてみると、ロンドさんの言っていた差額と同じ120ゴールドだった。

「ま、待ってくださいよ!?私ほしいとは一言も…!」

「あぁ…そのギターって120ゴールドだったんだぁ。なるほどねぇ、それならそうと言ってよ~。ちょっと多めに持って来てよかったよかった~。はい、これ代金ね~」

「はい、まいどどうもねぇ。ほれこれで今あんたが持ってるギターはあんたの物だよ。ちなみにうちは修理はするけど返品は承ってないからね」

 勝手な流れでギターを買ってもらってしまった…。どうしよう…この調子だといくら言っても私の手元に来そうだし、杖だけでも持ち運びが大変なのにギターまで持ち運べないよ…。

「で、でも!こんな大きい物持ち運べないですよ!」

「えっとねぇ、たしかこの辺だったよねぇ。お~あったあった。ほい」

 ロンドさんが私の持っていたギターの上の方を押すと途端に手のひらサイズの小さな箱のような形になった。ってみたまんまの事を頭の中で文字に直してみたが意味が分からなすぎるでしょ!?魔法とかある時点で物理法則の話をしてはいけないんだろうけど、流石に質量保存の法則をガン無視した変形はおかしすぎるでしょ!?

「これで持ち運べるようになったよぉ。僕はあまり魔力を持ってないからできないけど、アリアちゃんなら今押したボタンを押さなくても直ぐに展開と収納は出来るはずだよぉ。やり方も簡単だからねぇ」

「えぇ…もう何が何だか分からなくなってきました…。でも、本当にいいんですか?120ゴールドって結構な額なんじゃ…」

 さっきの理論で行くと120ゴールドは1200ミル…ピールに直すと12000ピールになるはずだ。普通に魔物討伐の依頼をこなしても20ゴールド入るかどうかくらいの世界なのに、偶然町であった子供に払う額としてはちょっと高すぎる気がするのだが…。

「全然大丈夫だよ~。ほらお兄さんはこれでも強いからさぁ。お金はいっぱい持ってるんだよねぇ。それに試しに弾いてた時のアリアちゃんとーっても楽しそうだったからね~。あんな顔見せられたら買ってあげたくなるよ~」

「わ、私そんな顔してました…?じゃ、じゃあこれ以上遠慮しても無駄そうなので、諦めてもらうことにしますね…。ロンドさんありがとうございます…!」

 ロンドさんに感謝の気持ちを伝えた後近くの屋台で食べたいものがあったことを思い出し、レジーさんのお店を後にしようとした時に、お店のドアが勢いよく開いた。

「あ!やっぱりここに居たー!やっほーロンド!迎えに来たよ~。それにレジーさんもこんにちは~!それと…そこの可愛い女の子もこんにちは!」

「全くドアは静かに開けろと何度も言ってるんだけどね。この馬鹿はそんな簡単なことも覚えてくれないのかね。ほれいいから自己紹介しな。名乗るときはまず自分からだろ?」

 勢いよく開かれたドアからやってきたのはロンドさんとは性格が真逆のすごい元気な女性だった。迎えに来たという事はスタービートのメンバーなのだろうか。それにしてもこんな性格がバラバラな人たちを束ねるアントラさんってすごいんだなと改めて尊敬してしまった。

「あぁ、そうでしたそうでした。わたしはスタービートのギターボーカルを担当しているマッチです!どうぞよろしくね!君がロンドをここまで連れて来てくれたの?小さいのにすごいね~!」

「え、えっと…アリアです…。わ、私だけじゃなくてテオさんって言う人と一緒に旅をしているので私一人では…ないです」

 同じ女の子でもここまでグイグイ来られると流石に気圧されてしまう。一緒に旅をするとなったら飽きはしないだろうけどすごい疲れそうだ…。テオさんとは違ったベクトルで疲れそう。ほんとに。

「こらこら、アリアちゃんが困ってるからそんなにグイグイいかないの~。それにしても来るの早かったねぇ、見立てではもう2日くらいかかるかなぁ~って思ってたんだけど~」

「あぁ、ごめんなさい…子供の魔法使いって珍しかったからつい興奮しちゃって…。わたしももう少しかかるかなぁって思ってたんだけど、依頼を受けた場所がここに近かったからすぐ来れたんだよね」

「え、私って珍しいんですか?」

 割と女の子には人気がありそうな職ではあると思うんだけど、意外と少ないのかな?聞いた話だと別に子供が大人に混じって冒険者をやっていること自体は珍しくはないらしく、ここまでなんの諍いもなく来れたのはそれが1つの要因になっていた。1番はテオさんのいたことなんだけども。

「えっとね、アリアちゃんくらいの年齢だと珍しいかな。見た所10歳くらいでしょ?普通は12歳とか13歳くらいの子が多いイメージ。ほら、魔法って使うの大変じゃん?だからアリアちゃんの年齢だと珍しいなーって」

「なるほど…。私は生まれた時から魔法の才能があったみたいなのでそれが原因ですかね?」

「だと思うよぉ~。実際アリアちゃんは強いからねぇ~…。あ…」

 ロンドさんが何故か申し訳なさそうな目をしながらこちらを見てきた。私の事を強いって言っていたのは旅の途中でもずっと言われてきたことなので別にもう気にしていなかったのだが、なぜいまさらになってそんな反応をするのか…。

「へぇ…ロンドが認めるくらい強いんだ…」

「ロ、ロンドさんが過剰評価してるだけですよ~…私自身はまだDランクですのでまだまだですよ…?」

 さっきまで元気だったマッチさんから何故か凄みを感じる…。殺気とはまた違う凄みが。どちらかというと好奇心だとか興味とかそっちに近いような感じがする…。

「じゃあ、私と一戦しない!?ロンドが認めた魔法使いと戦ってみたいの!わたし外で待ってるから!」

「ちょ、ちょっとマッチ~?ってもう行っちゃったよぉ…ごめんねアリアちゃん…マッチはあぁなると止められないんだよねぇ…。ほんとうかつだった…」

「あ、あはは…大丈夫ですよロンドさん。それに私もとってもいい機会になると思うので」

 マッチさんは自分よりも1つ上のランクで格上の存在。しかも同じ魔法使いであるのならば学べることも多いだろうから普通に魔物相手に戦うよりも多くの経験値を得られるだろう。

「あんたは子供なのに勇気あるんだね。もしくはただの無謀か。どちらにせよあたしはあんたの事気に入ったよ。どれ準備してやろうかね」

「えぇ~ほんとにやるのぉ~?…まぁアリアちゃんが決めたことなら止めないけどさぁ~。あ、それなら1つだけアドバイスをあげようかなぁ~。アドバイスってほどの事ではないんだけどねぇ、魔法を上手に使うアリアちゃんなら全然勝ち目はあると思うよぉ~。それじゃあ頑張ってねぇ~」

「はい、ありがとうございます!」

 勝ち目はある、か…。実際どこまで相手になるかは分からないけどやるからには本気でやらないとマッチさんにも悪いと思うから。かなり成り行きで決まってしまった試合でも手は抜かないようにしないと。

『おー、本格的な対人戦は今回が初になるね。私も口出ししないから自分がどこまでやれるか頑張ってみな。私はアリアちゃんを応援してるよ』

『レーテさんもありがとうございます。ちょっと緊張するけど…頑張ってきますね…』

 少し高鳴る鼓動を押さえるために大きく深呼吸をしてからマッチさんのいる場所にたどり着いた。

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