9話
アラタは気慣れない豪華な恰好をし、緊張していた。
それと言うのも、ここ一カ月の功績を称え、勲章を授与されるからだ。
個人的にはどうでもいいので、一度断ったのだが、ガランがどうしてもとのことなので、一度きりとの条件で授与されることとなった。
玉座の間の扉が開かれ、アラタは緊張で手と足が一緒に動きながら歩く。
それを微笑まれながら、王座の前まで行くと、ガランが宣言する。
「異世界より来たりし勇者、イツシマ・アラタ!貴公のここ一カ月の活躍を称え、ここにリュミリ国軍の最上級勲章である紅星勲章を授与する!」
そうしてガラン自らがアラタの服の左胸に勲章を着けると、玉座の間に居た者達から拍手が起こる。
それに片手を挙げて応えると、三歩下がり、王に礼をする。
「ハハハ!こんな慣れない事をさせてすまないな!だがこうでもせねば示しがつかん!」
「おめでとうアラタ君!紅星勲章は我ら兄妹と昔に戦死したもう一人にしか授与されていない名誉ある勲章だぞ!」
そう言ってセレーネが近づいてくる。よく見ると、他の勲章に混じって、セレーネの軍服にも同じものが付いていた。
「その勲章に恥じない戦いをこれからも期待しているぞ、勇者殿」
「兄上!そう圧をかけないで頂きたい!」
喧々諤々と言い合い始めた兄妹を放っておいて、アラタは玉座の間を後にした。
エフィも招待されていたらしく、一緒に買い物をしながら家に帰って行った。
「はぁ・・・今日は疲れたよ」
「ふふ、お疲れ様です。今昼食を作りますからね」
そう言ってキッチンに向かったエフィを見ながら二階に上がり、窓を開けてたばこを吸う。
ぼんやりと、神奈川のアパートの景色がフラッシュバックする。
そしてバイト先の上司であるシモダの事を思う。
きっと目の前でいきなり行方不明になって驚き、心配しているだろう。
面倒見のいい、いい人だったからな。と思いながらたばこを吸っていた。
ちょっとしたホームシックを昼食時にエフィに話すと、心配そうにされてしまった。
何気ない会話だったのだが、余計な心配をさせてしまったので、気晴らしに二人で散歩に出かけた。
大通りは屋台や店で賑わい、小国とは思えないほど賑わっていた。
「意外とにぎやかだよね、この街」
アラタがそう言うと、エフィが返す。
「海に面して大きな港もありますし、なにより異人種であるエルフの国ですから、差別がないのが賑わう理由ですね。この街には外からくる方が多いので、宿屋も多いんですよ」
「なるほどなぁ」
「そういえば港には行きましたか?行ってないのなら見に行きませんか?」
「行ってないね。行こう!」
そうして二人は足を港に進めた。
大きな港には大型の船が数隻泊まっており、荷物の運搬や旅行者で賑わっていた。
そんな港の、海を見れる場所にあるベンチに座り、行き来する人を見ながらアラタはエフィに話しかけた。
「そう言えばエフィはここの出なの?エルフじゃないけど」
「私はスプリガンという種族で、ガローナ大陸の西端、ゴーラ大森林に住む種族です。ですが両親がここに移住してきまして、私はゴーラ大森林を知らないのです」
「じゃあここが故郷になるんだね。この大陸ってそんなに広いの?」
「アラタ様がどの程度の国に住んでいたかはわかりませんが、一周するには何十年もかかると聞きます。・・・そういえば大陸横断記という本がありましたね」
「そんな本あるんだ!帰りに本屋に寄っていい?」
「もちろんでございます」
こうして他愛のない会話をしている内に、アラタのホームシックはどこかへ飛んでいった。
帰りに本屋に寄ると、大陸横断記の上下巻があったのでそれを購入し、家に戻ると、エフィは夕飯の準備をし始めた。
アラタは二階の自室前のスペースで、買った大陸横断記の上巻を、夕飯で呼ばれるまで、たばこを吸って分厚いその本を読んでいた。
一方リュミリ王城の軍議室では、巨大化合成魔獣への対応策を考えていた。
「――であるからして、軍人でもないただの一般人を頼りに戦うのは不安でしかありません。実際、軍の高官にも不満を漏らす者もいます」
グラナの発言に、セレーネが食って掛かる。
「兄上も見たでしょう!アレを使えるのは王族でもなければ軍人でもない、ただの一般人として生を受けた一人の男です!それが、必死に故郷でもないこの国の為に戦っているのです!紅星勲章くらい当然でしょう!」
「落ち着けセレーネよ。グラナ、わしはただ、与えるべき者に与えるべき物を与えたにすぎん。この中の誰もがあのジャッカートリガーを引くことが出来なかったのだ。彼に頼るしかないだろう」
「ですが父上、せめて彼を軍人にすべきです。いつ裏切って機神ジャッカーを他国に売り渡してもおかしくないのですよ?」
その言葉にため息をつきながら、ガランは返す。
「頭も固ければ見る目すらないか?我が息子よ。そうする気であればとっくにしていよう。彼の献身に理由をつける必要があるのか?そして代わりの機神ジャッカーを駆る勇者を見つけられるのか?」
「・・・・・・監視はすべきかと」
「もういい、したければそうするがいい。この話はこれで終いだ」
そうして軍議は終わった。
軍議室を出て廊下を歩く中、グラナは自分の後ろに着く者に話しかける。
「イツシマ・アラタに監視をつけろ。いつ相手が接触してきてもおかしくない状況だ」
「はっ。すぐに部隊を編成します」
ローリス帝国、皇帝の執務室。
そこでアヌマミシアは諜報部隊の情報の報告を聞いていた、
「――という訳で、機神ジャッカーの操縦者は異世界から来た一般人のようです。引き抜ける可能性もあるかと諜報部の上層部は考えていますが」
「面白い、やれるだけやってみろ。機神ジャッカーさえあれば、そのデータを元に例の物が一気に完成するだろうからな」
「はっ。すぐに部隊を編成します」
そう言って諜報部隊の隊員は退出していった。
「イツシマ・アラタ・・・か」
手元の資料を読みながらアヌマミシアは、例の物が完成した時に対峙することになる相手を思い浮かべていた。