7話
ローリス帝国間の前線で戦ってから二日後、アラタは今日も機神ジャッカーを駆り、戦いの練習をしていた。
レバーを操り、ペダルを踏み、時にはスイッチを押し、トリガーを引く。
そうして少しずつ、自分がジャッカーと一心同体になっていくのを感じる。
朝から練習して昼前になると、アドラが話しかけてくる。
「パイロット。昼食をとるべきです。パフォーマンスが低下します」
「そうだね、わかった」
そう言って王城の広場に帰ろうとしたその時、耳飾りからガランの声が聞こえる。
「アラタ君!連邦領で巨人たちが暴れているそうだ!急いで向かってくれるか?」
「了解です!アドラ、ナビを!」
「いいでしょう。ナビゲートを開始します」
そうしてアラタとアドラはナナーイ連邦領へと向かった。
ナナーイ連邦。四つの国家からなるこの地は、ガローナ大陸の南で最も力をつけている勢力である。
そんな場所にやってきたアラタは機神ジャッカーを走らせながら、巨人が暴れているという現場へと向かっていた。
谷を越え、山を越え、遠くに見えてきたのはダムスガ公国は大きな塔が三つ建っている都市、アガナムだった。
その東側に、巨人と思われる者達が十数人ほど見えていた。
身長は機神ジャッカーの胸程の大きさで、閉ざされた門を叩いているようだった。
近くまでたどり着いたアラタは、右のコンソールにある拡声器のスイッチをオンにし、巨人に話しかける。
「門を叩くのをやめて話し合いませんか?何が起きてるんですか?」
「む、なんだお前は!?我々を見下すとは・・・そんなことはいい!この街の商人に用があるのだ!」
「何があったんです?」
「我々を騙し、大羊の毛と角を騙し取ったのだ!モーゼス!出てこないのなら街を破壊するぞ!」
そう言って巨人たちは、腰のベルトに下げていたこん棒を取り出す。
それを見たアラタは大慌てでそれを止める。
「俺がそのモーゼスさんを連れてきますから!ここで待っててください!」
そう言ってアラタはジャッカーから降りる。
そうして門の前まで行くと、大きな声で叫ぶ。
「リュミリ王国から要請を受けて来ました!機神ジャッカーのパイロット、イツシマ・アラタです!」
その声に反応し、門の左下にある、人間用の扉が開かれる。
「機神ジャッカーの勇者殿か!こちらへ!」
「では巨人さん達はここで待っててくださいね?」
「モーゼスのやつを今日中に連れてこい!さもなくば家族もろとも叩き潰すと伝えろ!」
怒り心頭の巨人がそう言うのを見て、門に居た兵士は怯えながら、アラタに急ぐよう手招きする。
アラタは人間用の扉から、アガナムに入った。
アガナムの門の内側では、衛兵達が門の前にバリケードを作っており、緊迫した状況だった。
そんな中を、衛兵に案内され、指揮官の犬の獣人であるグヴァを紹介される。
「グヴァ隊長!リュミリ王国から、機神ジャッカーの勇者殿です!」
「おぉ!わざわざかたじけない。俺は衛兵隊隊長グヴァだ」
「アラタです。モーゼスさんを出せと、巨人さん達が言ってるんですがどうなってるんですか?」
「モーゼスは悪徳商法で賞金首になっていた商人だ。まさかアガナムに居るとは思わなくてな・・・今、モーゼスは大通りで人質を取って衛兵に囲まれているんだ」
「そうだったんですね・・・何か協力できることはありますか?外の巨人が暴れたら、すぐにジャッカーに乗れるのでどこでも行けます!」
「なら俺と一緒に来てくれ。おい!ここは頼んだぞ!」
そう言ったグヴァと共に、アラタは大通りのモーゼスの元に向かう事になった。
大通りは青い屋根の建物が立ち並び、リュミリ王国と違って木造の建物が多くある。
リュミリ王国は海風の影響で、石造りの家が多いのだ。
そんな街並みの中で、野次馬と衛兵が輪を作ってモーゼスを囲っており、その中心ではモーゼスが短剣を手に持ち、少女を人質に立っていた。
それに向かって、衛兵達が声をかけ続ける。
「もう無駄だ!大人しくしろ!」
「その子を放せ!お前の罪が重くなるだけだぞ!」
そんな中、野次馬をかき分けて、グヴァとアラタはモーゼスの横側に立つ。
それに気付かず、モーゼスは叫ぶ。
「黙れ!さっさと魔道車を用意しろ!何度言えばわかんだよ!」
そう言って短剣を衛兵に向けたその瞬間。
アラタは素早くホルスターからジャッカートリガーを抜くと、短剣を持つ手を目掛けてトリガーを引く。
発砲音と共にモーゼスは手を撃ち抜かれ、思わず人質を放し、しゃがみ込む。
それをきっかけに衛兵が前へと進み、人質の少女とモーゼスを確保する。
モーゼスは無理矢理立たされると、どこかへ連れてかれた。
それを見送ったグヴァとアラタは、門の方に歩きながら話す。
「まさか銃なんてものを持っているとはな。おかげでモーゼスを確保できた。これから尋問されて、奴の悪事も全て明るみに出るだろう。巨人達には俺から話しておくとしよう。機神ジャッカーの勇者アラタよ、会えたことを光栄に思うよ。」
「解決してよかったです。では俺はこれで失礼します」
そう言ってアラタはジャッカートリガーを引くと銃身が上下に開き、光ったかと思うと、アラタの姿は消えていた。
門前に居た機神ジャッカーの目が赤く光り、動き出す。
すると、巨人達が話しかけてくる。
「我らより大きい者よ、モーゼスはどうなった?」
「その質問には俺が答えよう」
そう言ってグヴァと他数名の衛兵が出てきて、門が開かれる。
「奴に大羊の角と毛を騙し取られたと聞いている。取り調べをしたいので代表の者が一人着いてきてくれないか?」
「むう・・・我らからすれば奴を殴り殺したいが・・・・・・人間の法に則ろうではないか」
そう言って前に居た巨人が門をくぐる。
それを見たグヴァは機神ジャッカーの方を見て手を振る。
「ではな勇者殿!いつかアガナムへ観光しに来てくれ!ここはいいところだぞ!」
その言葉に親指を立てて答えると、機神ジャッカーはリュミリ王国へと帰って行った。
リュミリ王城に着き、いつもの場所に機神ジャッカーを立たせてアラタが降りると、ガランとセレーネが出迎えてくる。
「アラタ君!事の顛末は聞いている。アガナムでも活躍してくれたようじゃないか!リュミリの国王として鼻が高いぞ!ガハハハハ!」
「君の活躍は連邦中に広まるだろう!流石機神ジャッカーの勇者だなフハハハハハ!」
二人が豪快に笑いながら褒めるので、アラタも嬉しさを隠しきれなかった。
「衛兵さん達の力もあってこその解決でした。俺だけじゃありませんよ」
「そう照れるな!君の功績は大きいのだからな!兄上もこれで多少は君を認めてくれるといいんだが・・・」
そう心配そうに言うセレーネに、ガランは答える。
「なぁに奴も頭が固いとは言え、その内認めるはずさ。信頼は焦らずゆっくりと勝ち取るものだろう?」
ガランのその言葉にアラタとセレーネは頷く。
二人と別れた後、夕日に照らされる街中をたばこを吸いながら、アラタは家へと帰って行った。
ローリス帝国、その地下技術開発室。
そこで皇帝であるアヌマミシアは、数名の科学者達と話していた。
「例の物は現在35%ほどの完成度です。しかしそれに先行して作っていた、『鎧付き』が完成しました」
「ほう・・・これがか・・・」
そう言って見下ろすのは、蟻の顔を隠すように骨で出来た仮面を着け、骨の鎧を身に纏った人型の合成魔獣だった。
アヌマミシアがじっくりと観察する中、一人の科学者が説明をする。
「鎧にはドラゴンの骨を使っております。強度は申し分ないかと。武装はエンチャント済みの大剣です。現在は観測した機神ジャッカーのデータを脳に記憶させているところです」
「そうか。準備ができ次第リュミリに向けて出撃させろ」
「はっ」
そう言ってアヌマミシアは地下技術開発室を後にする。
これで機神ジャッカーを倒せれば、このまま鎧付きを量産して連邦にも侵略できる。
上手くいくことを祈りながら、アヌマミシアは地上に出る。
例の物の完成を心待ちにしながら、アヌマミシアは皇居へと帰って行った。