6話
この前の戦いから二週間が経ち、アラタはすっかり文字を理解し、今ではゆっくりだが、本を読める程度にまでなっていた。
この前の戦いで傷付いた機神ジャッカーも、傷が再生しており、万全の状態に戻っていた。
たばこを吸いながら本を読んでいたアラタに、ガランから通信が入る。
「アラタ君、機神ジャッカーに乗り、ローリス帝国との国境付近の前線に向かってくれないか?我が息子であるグラナが君会いたがっているのだ。そしてついでに、ローリス帝国の前線の兵に機神ジャッカーを見せつけてほしい。抑止力なるかもしれんのでな。場所はアドラに説明してある。」
「わかりました」
そう言って本に栞を挟み、ホルスターからジャッカートリガーを引き抜くと、上に向けて撃つ。
「ジャッカー!」
操縦席に座り、ヘルメットを被ってバイザーを下げると、後ろからアドラが話しかけてきた。
「第一師団の居る前線はここから北西の場所です。ナビを起動しているので、そこに向かってください」
すると、スクリーンにナビが表示される。
アラタはペダルを踏みこみ、機神ジャッカーの足を進めると、ナビ通りにすすんだ。
険しい山道を超え、荒野へと着いた機神ジャッカーとアラタとアドラは、前線の塹壕を跨ぎ、相手に見せつけるように機神ジャッカーを立たせた後、機神ジャッカーから降りる。
前線の兵士達がざわめく中、他の兵とは違った、白をベースに赤色の縁取りがされた鎧を着て、茶色のロングヘア―を全て後ろで束ねた男が話しかけてくる。
「君が機神ジャッカーに選ばれ、異世界から来た男、アラタ君か?私はグラナ・マソ・リュミリ。この第一師団の師団長だ」
「イツシマ・アラタです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。・・・凄いものだな、ここまで迫力があるとは思ってなかった。君が来る前、機神ジャッカーは王城の左の広場で仰向けに倒れていたからな」
そう言ってグラナは機神ジャッカーを見上げる。その表情は、どこか嬉しそうだった。
「そういえばそうでしたね。今は基本左の広場に立たせてます。街の皆もよく見れるそうです」
「そうか。街の者は安心するだろうな。・・・君は剣術は得意なのかね?」
「・・・?いえ、剣なんて握った事すらないです」
「・・・そんなようで機神ジャッカーを十全に動かせるのか?」
そう言われてしまったアラタは思わず黙ってしまう。
確かに今のアラタは十全に機神ジャッカーの性能を引き出せているとは言えないと、自分で思った。
すると後ろから、アドラが喋り始める。
「パイロットアラタは成長の途中です。今の腕が限界ではないとアドラは自信を持って言えます。急ぐ気持ちはわかりますが、パイロットアラタは機神ジャッカーに乗ってまだひと月も経っていません」
アドラにそう言われると、グラナは顔をしかめながら返す。
「成長途中の者がリュミリの切り札であっては困るのだよ。少しでも鍛錬を積んで、我々を安心させてくれ」
「・・・・・・殿下の言葉、もっともです。アドラ、俺はこれから毎日ジャッカーに乗るよ。沢山練習して、ジャッカーを完璧に乗りこなして見せる」
「いいでしょう。アドラもそれに付き合います」
「そうしてくれると我々としても嬉しい。機神ジャッカーが居ることにより、この戦線が無くなり、兵士達を家に帰してやりたいのでな」
そう言って荒野の先を見ると、ふたつの影が見える。
それにいち早く気付いたグラナは、兵士たちに知らせる。
「合成魔獣じゃないのか!?確認班急げ!」
その言葉を聞いたアラタは、アドラと顔を合わせると、頷く。
ホルスターからジャッカートリガーを引き抜くと、上に向けてトリガーを引く。
「ジャッカー!」
銃身が上下に開き、光り輝いたかと思うと、アラタとアドラは操縦席に居た。
「ズームして確認します。・・・・・・合成魔獣、二体を確認。パイロット、気を引き締めてください」
「押忍!」
ヘルメットを被ってバイザーを下げ、ペダルを思い切り踏み、機神ジャッカーを前に進めると、下に居た兵士達から歓声が上がる。
兵士達の歓声を背中で受けながら、機神ジャッカーは合成魔獣達へと進んでいった。
一体はこの前と同じ巻貝の頭に鱗のある黒い体、もう一体はスズメバチの頭部に黄色と黒の縞模様の短い毛で体が覆われ、右手は蜂の針のように尖っていた。
「二体が相手でも関係ねぇ!覚悟、決めるぜ!」
そう言って両ペダルを大きく踏み込むと、機神ジャッカーは飛び上がる。
そしてドロップキックを巻貝の頭の合成魔獣に繰り出すと、巻貝の頭の合成魔獣は大きく蹴り飛ばされた。
蜂の頭の合成魔獣がそれを見て、倒れている機神ジャッカーに右手の針を刺そうとするも、アラタはそれを見逃さずに両手のレバーを内側に動かす。
すると機神ジャッカーは針を掴み、むくりと立ち上がる。
針を掴まれた合成魔獣は、左手で機神ジャッカーを何度も殴るが、それを無視して機神ジャッカーは左手を放す。
アラタは左手のレバーを動かし、針の根元に機神ジャッカーの左手をつけると、レバーのトリガーを引く。
ガシュン!と重たい音と共に、パイルバンカーの杭が蜂の頭の右手を吹き飛ばす。
それに悶えた蜂の頭の合成魔獣を見ながら、機神ジャッカーはパンチを繰り出す。
ドンッと鈍い音がし、蜂の頭の合成魔獣は倒れる。
そこに背後から巻貝の頭の合成魔獣が、後ろから組み付く。
アラタは両手のレバーを大きく前に出し、思い切り後ろに引く。
すると機神ジャッカーが背後の巻貝の頭の合成魔獣に、肘打ちをする。
それで組み付きが解けたかと思うと、蜂の頭の合成魔獣が、左拳で機神ジャッカーの顔面を殴る。
アラタは引いていた両手のレバーを思い切り前に突き出す。
すると機神ジャッカーは両手で蜂の頭の合成魔獣を突き飛ばす。
そこにアラタが、右のレバーのスイッチを押した後、トリガーを引く。
ギャンダーブラスターの連射を蜂の頭の合成魔獣に撃ち込むと、蜂の頭の合成魔獣は、黒いもやとなって消えた。
直感でアラタはペダルを踏みこみ、レバーを動かす。
そこには丁度後ろから殴り掛かろうとしていた巻貝の頭の合成魔獣が居て、機神ジャッカーの繰り出した回し蹴りが頭部に当たる。
大きくよろめき、地面に手を着いた巻貝の頭の合成魔獣に、ギャンダーブラスターを撃ち込む。
それを喰らった巻貝の頭の合成魔獣はしばらく撃たれていたが、やがて蜂の頭の合成魔獣と同じように黒いもやとなって消えていった。
「損傷率96%、お疲れ様です。パイロット」
「ありがとう。巻貝頭が武器を持ってなくてよかったよ」
そう言いながらギャンダーを駆り、リュミリ王国軍の前線へと戻って行った。
ギャンダーを塹壕の前に立たせてから、アラタはギャンダーから降りると、そこで歓声を上げる兵士達に囲まれる。
どうしたらいいか困っていると、兵士達をかき分けてグラナが来る。
「感謝しよう。君のお陰でこの戦線がまだ維持できる。この調子で活躍してくれ」
「ありがとうございます!これからも精進します」
「うむ。これからしばらくは合成魔獣が来る事は無いだろう。今日はもうリュミリ王城に戻るといい」
「了解です」
そう言って再びギャンダーに乗ると、アラタはリュミリ王城へと帰って行った。
リュミリ王城の左側の広場にギャンダーを立たせ、アラタが降りると、ガランから通信が入る。
「直接出迎えられなくて悪いな。執務が忙しいものでな。なんでも合成魔獣を二体撃破してくれたようじゃないか!君の活躍で今日もまた、リュミリは平和だ。ありがとう」
「いえ、俺ももっと頑張ってギャンダーを操縦できるように精進します!」
「ハハハ!その意気だ!今日はゆっくり休んでくれ」
そう言って通信が終わると、アラタはたばこに火を点けて家に帰った。
家の前に来るといい匂いがした。
中ではエフィがスープを作っており、こちらに気付くと振り返る。
「おかえりなさいませ。今日はクラノ豆と鶏肉のスープとパンですよ」
「いつもありがとう。楽しみだよ」
「どういたしまして。今日も戦ってたのですか?」
「うん。今日は二体同時に相手してね。中々疲れたよ」
そう言いながらリビングの椅子に座り、料理を待った。
「では今日はゆっくり休んでくださいね。はい、どうぞ」
エフィが料理を運んでくると、アラタは手を合わせて言う。
「ありがとう!いただきます!」
リュミリ王城の執務室では、カールがガランにあるものを差し出していた。
「これは・・・?」
「連邦が機神ジャッカーについて新しく発見した伝説です。それによると背中に着ける武装があるらしく、現在トレジャーハンターを選抜しているとのことです。その武装の所有権をどうするかをこちらに尋ねてきています」
「機神ジャッカーがさらに強くなるのなら、受け取らない訳にはいかないだろう。費用を負担するから所有権を譲れと返信してくれ」
「かしこまりました」
そう言って退出するカールを見送りながら、ガランは考えていた。
新しい武装をアラタが使いこなせればこの国は安泰になるだろう。
平和の為の費用とは言え、国民の税を大きく失うのは痛手だが、仕方ない。
ガランは立ち上がると、執務室を出て廊下の奥の窓まで来る。
そこには夜闇の中、機神ジャッカーが堂々と立っていた。
アラタと機神ジャッカーに期待しながらも、このまま依存していいのか。
そうも考えながら、機神ジャッカーの横顔を見ていた。