5話
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アラタがこの世界、アムリアに来てから一週間が経ったこの日、アラタは王城の一室で黄色のフード付きローブを着た男、カールに魔法について教えてもらっていた。
事の始まりは、アラタがこの前交戦した合成魔獣の槍がエンチャントされてることが、個人的に引っかかっていたからだ。
ガランに相談するとカールを紹介され、カールもまた喜んで引き受けてくれた。
カールはこのリュミリ王国の王室付き魔法指南役と言う地位についているらしく、教えるのも上手で、アラタは何とか理解できそうで助かった。
「よいですか?アラタさん。魔法とはマナ・・・すなわちこの惑星アムリアにある力を使っているのです。アムリアにあるマナを、自身の体を通して魔法陣、もしくは魔封石にマナを込めると、それは魔法となって放出されます。なので大抵の魔導士は魔封石をはめ込んだ杖を数本持ったり、手のひらや腕に魔法陣を書いていたりと、様々な工夫をしているのです」
「なるほど・・・じゃあ俺も魔法を使えるんですか?」
「ふむ、個人的にも気になりますし、やってみるとしましょう」
そう言ってカールは、成人男性の肘から指先ほどの大きさの杖を取り出す。それの手元には小さな赤い水晶がはめられていた。
「これには一番簡単な魔法である火起こしの魔封石がはめられています。さあ、これを持ってマナを注ぐイメージをするのです」
「わかりました!」
そう言って杖を受け取り、力を注ぎこむ。
「むむむむむ・・・・・・!」
「・・・・・・ふむ」
そう言ってカールは数十秒ほどアラタを見た後、杖を取り上げて話す。
「今ので大体はわかりました。いいですか?この世界で魔法は身近なものですが、誰もが魔法を使えるわけではないのです。異人種の種族によって、マナを体に通さない体の作りになっていたり、使える魔法が限られていたり・・・才能、というほどではありませんが、使える者と使えない者が居るのです。アラタさんは後者ですね。異世界から来たあなたは、そもそもこのアムリアのマナを通さない体の作りになっているのです」
その言葉に少しがっかりしながら、アラタは言う。
「なるほど・・・俺も魔法を使って空とか飛びたかったです」
「ハハハ!アラタさんが考える程、魔法は万能ではありませんよ。マナと言うのは、酸素と同じで上に行けば行くほど薄くなります。なので飛べても、機神ジャッカーより少し下ほどの高さしか飛べませんよ」
「そうだったんですね!俺の居た世界じゃ箒に乗って空を飛んでるのが、魔法使いのイメージなのでてっきりそうだと思ってました」
「なぜ箒に乗るのかは疑問ですが、まぁ魔法の事はこれくらいですね。アラタさんが聞きたいことはエンチャントについてでしたね?」
「はい、俺がこの前戦った合成魔獣の槍が、エンチャントされていたものだったので」
それを聞いてカールは腕を組んでから話し始める。
「ふむ。エンチャントとは別名魔法化と言います。物にマナをコーティングすることで、頑丈にしたり、魔法を弾いたりすることができます」
「だから機神ジャッカーのマナブレードも弾かれたんですね」
「でしょうね。エンチャントされているかは見ただけではわからないので、戦いの時は気を付けてください」
「はい!色々と教えてもらってありがとうございました」
「私にできる事があればなんでも言ってください。あなたはこの国の救世主なのですから」
そう言ってアラタは部屋を出て、ジャッカートリガーを引く。
「ジャッカー!」
その瞬間、アラタは操縦席に座っており、後ろには変わらずアドラが居た。
ヘルメットを被り、バイザーを下げながら、アドラに尋ねる。
「よし、魔法の事も知れたし練習だ。ねぇアドラ。ジャッカーのジャッカーブラスターとかは魔法なの?」
「いいえ、魔法ではありません。機神ジャッカー内のエネルギーを使っています。あぁ、ご心配なく。エネルギーは無限ですから、物理的な損傷がない限り、機神ジャッカーは動けます」
「ならエンチャントの武器持ち相手にはジャッカーレーザーやブラスターを使うべきか・・・」
そう言いながら城壁を跨ぎ、平原へと出る。
左腰から柄をとると、トリガーを引きマナブレードを展開する。赤く光る刀身が地面をうっすらと照らしていた。
ペダルを踏み、レバーを動かし剣を振り回す。
どんな敵が来てもいいように、イメージをしながらアラタは日が落ちるまで練習し続けた。
その日の夜、夕食終え、またアラタは文字の勉強をしていると、耳飾りからガランの声が聞こえる。
「アラタ君!合成魔獣だ!急いで出撃してくれるか?」
「了解!」
そういって立ち上がったアラタは、ホルスターからジャッカートリガーを引き抜くを、上に向けてトリガーを引く。
「ジャッカー!」
銃身が上下に開き、光ったかと思うと、操縦席に着いたアラタは、ヘルメットを被ってバイザーを下げると、城壁を跨ぎ平原の奥に向かってペダルを強く踏み込む。
すると、機神ジャッカーは平原を走り出した。
平原の向こうから、巻貝の頭に黒い鱗の体、蛇の尻尾が生えた合成魔獣が剣を持ちながらこちらに向かって来ていた。
それを見たアラタは左腰のマナブレードを抜くと、柄のトリガーを引いて刀身を展開し、構える。
「よし・・・覚悟、決めるぜ!」
合成魔獣が機神ジャッカーの前に立ちはだかり、剣を構える。
お互いが構えたところで、機神ジャッカーが斬りかかる。
それを合成魔獣は剣で受ける。
鍔迫り合いのあと、合成魔獣がバッと後ろに下がる。ズシンと大きな音を立てて下がったかと思うと、大地を蹴り、機神ジャッカーの胴を斬る。
「うわぁ!」
「落ち着いてくださいパイロット。この程度、機神ジャッカーの敵ではありません」
大きくよろめきながらも、アラタはペダルを踏んで、体勢を維持すると、右手のレバーのスイッチを切り替え、ブラスターモードにすると、ジャッカーブラスターを合成魔獣に向けて撃つ。
それを喰らって、相手も大きくよろめく。
「しまった!相手はリュミリ王国を背にしてるから、ジャッカーブラスターは控えた方がいいな・・・」
そう言ってペダルを強く踏み込み、両手のレバーを大きく引くと、機神ジャッカーは大上段に構えて合成魔獣に突っ込んでいった。
機神ジャッカーのマナブレードの振り下ろしを、合成魔獣は剣で受けるも、その勢いに負け、頭部にマナブレードがめり込む。
そのまま右手で押し込みながら、左腕のパイルバンカーを合成魔獣の胸に当て、アラタは左レバーのトリガーを引く。
しかし合成魔獣はそれをとっさに避け、重たい音と共に打ち出された杭は合成魔獣の胸を少し刺しただけだった。
「チッ!賢いな!」
左レバーのスイッチを押して杭を引き絞りながら、右手のマナブレードを構える。
合成魔獣も剣を構え、お互い膠着状態になる。
しばらく睨み合った後、合成魔獣が先に動くと、大きく剣を振りかぶり、斬りかかってくる。
アラタはそれを見て左ペダルを力強く踏む。
すると機神ジャッカーは左足で大地を蹴り、右に避ける。
そのままアラタは右のレバーを横に倒すと機神ジャッカーもマナブレードを横薙ぎに振るう。
相手の両腕を斬り飛ばすと、何もできなくなった合成魔獣は、体当たりをして悪あがきをする。
それにアラタは、左レバーを前に倒して合成魔獣の頭を掴むと、右のレバーを引いた後、勢いよく前に出し、マナブレードを心臓目掛けて突く。
貫かれた合成魔獣は黒いもやとなって消える。
星々の灯りが、戦い終わった機神ジャッカーを照らしていた。
いつもの場所に機神ジャッカーを立たせて降りると、ガランが出迎える。
「アラタ君!無事だったか!一発喰らった時はひやりとしたぞ」
「すみません。機神ジャッカーを傷付けてしまいました・・・」
「問題ありませんパイロット。機神ジャッカーは時間経過で修復されます。この程度であれば、一日あれば十分でしょう」
それを聞いたガランとアラタは安堵のため息をついた。
「俺もまだまだですね。もっとジャッカーの性能を引き出せるようにしないと・・・」
「それもいいが、君も十分に休んでくれ。体は資本なのだからな」
「ありがとうございます!ガラン陛下も毎回出迎えてくださらなくていいんですよ?」
「そうもいかん。わしやわしの兵たちの代わりに戦ってくれているのだ。国民を代表して王が迎えずに誰が迎えよう」
そう言って笑顔を浮かべるガランに感謝しながら、アラタは礼を言って家に帰って行った。
家に帰ると、夜中だと言うのにエフィが出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ。ご苦労様です」
「エフィ!寝なくていいの?」
「主が戦っているのに、メイドが先に寝る訳にはいきませんから」
「寝てていいのに・・・」
「私は完璧を目指すメイドですので、お気になさらず。アラタ様も自室でゆっくり休んでください」
アラタはそう言われて、自室に戻る。
たばこに火を点けながら、あまり眠くないアラタは再び文字の勉強を始めた。
リュミリ王国軍第一師団の駐屯地。
そこはローリス帝国との国境に近く、日々厳しい警戒態勢を敷いていた。
手元の報告書を読みながら、リュミリ王国第一王子であり、第一師団師団長のグラナ・マソ・リュミリは顔をしかめていた。
「機神ジャッカーに選ばれたとはいえ、ただの一般人に合成魔獣を任せるのはいかがなものか。・・・直接会ってイツシマ・アラタと言う人物を確かめる必要があるな」
「ではこちらに呼びつけるよう伝令を飛ばしますか?」
「そうしてくれ。ついでに機神ジャッカーを国境付近で警戒任務に就かせよう。いい牽制になるはずだ」
そう言ってグラナは前線の士気を上げるために、熊に乗り前線へと向かった。
国境付近の前線では、塹壕が掘られ、そこで魔導士達や、槍兵達が、ローリス帝国の方を交代制で監視していた。
そんな場所に来たグラナは監視していた兵に様子を尋ねる。
「ローリス帝国の様子はどうだ?」
「これは殿下!わざわざ来ていただきありがとうございます!帝国は依然変わりなく、奴隷兵を仕掛けてくる様子はありません。大隊長達の見解だと、巨大化合成魔獣による本土の攻撃に切り替えているのでは、とのことです」
「やはりそうか・・・しかし合成魔獣はコストが高いはずだ。いずれ奴隷兵による特攻がくるかもしれん。君達には酷だが、このまま警戒を怠らないでくれ」
「了解しました!」
そう言ってグラナは兵から離れると、塹壕内を歩き始める。
起きている者は皆左手を水平にして構える、リュミリ王国軍式の敬礼をする。
寝ている者は寝袋で塹壕内に転がっており、皆が疲れているであろうと考えると、グラナは心が痛くなる。
一刻も早く兵を家に帰してやりたいが、三カ月前の奴隷兵特攻以来、警戒を強めざるを得ないのだ。
こちらの兵の疲弊を狙っているのは確かだ。
相手の狙い通りに動くことしかできない現実に下唇を噛みながら、グラナは上を見上げる。
星々が煌めき、夜空を彩っていた。
(機神ジャッカーをこの前線に投入できれば兵たちを家に帰してやれるかもしれない)
そう考えながら、グラナは塹壕内を一通り歩き終わると、再び熊に乗り、駐屯地へと帰って行った。