4話
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巨大化合成魔獣の襲撃から三日後。
アラタはたばこを吸いながら自室で文字の勉強をしていた。
この世界で暮らす以上、文字が読めないのはかなりの痛手だ。
幸いなことに、文法自体は日本語と同じで、ローマ字表記のようなものだったので、慣れるのにそう時間はかからないだろう。
そうして黙々と勉強をしていると、右耳に着けた水晶の耳飾りから、声が聞こえてくる。
「アラタ君。ガランだ。我が娘が君に会いたがってるのでな、王城まで来てくれないだろうか?」
「わかりました。今から行きます」
「頼むぞ」
そうしてアラタは王城へと向かった。
王城の兵士に案内されて着いたのは、誰かの個人的な部屋のようだった。
兵士がノックをしながら、部屋の中の者に向かって話す。
「アラタ様をお連れしました!」
「入ってくれ」
そう言われてアラタは部屋に入る。
そこにはガランともう一人、ガランと同じく大柄な女性が居た。
茶色の髪のウルフヘアーに庶民的な服を着た女性は、アラタを見るなり笑顔で近付いてくる。
そしてアラタの周りをぐるぐると回ると、話しかけてくる。
「君が異世界から来たという、機神ジャッカーに認められた者か!私はセレーネ・マソ・リュミリ!この国の第一王女だ!」
そう言ってアラタの手を取り、握手をする。
アラタは驚きながらも、自己紹介をする。
「イツシマ・アラタです。えっと・・・お会いできて光栄です」
「ははは!そんな硬い挨拶はなしにしようじゃないか!」
「二人共、座ったらどうだ?さあ、アラタ君も座りなさい」
そう言って窓際の椅子に座っていたガランは、机にあるティーポットから紅茶を人数分注ぐ。
二人は言われた通り席に着き、紅茶を飲んでから話し始める。
「それで?君はどこから来たんだ?」
「地球の日本は神奈川に住んでました」
「チキュウ・・・カナガワ・・・聞いたことがないな!その顔立ちからして東方の者だとわかるが本当に異世界から来たんだな!」
「セレーネ、少し落ち着かないか。悪いねアラタ君。娘がどうしても会いたいと言うものでな」
「いえ、大丈夫です」
「それで?どういう風に機神ジャッカーを操っているんだ?」
そこからはセレーネの質問攻めにひいひい言いながら答え、そんな様子をガランは笑って見ていた。
紅茶も冷め切ったところで、つかの間のティータイムはお開きとなった。
「ではまた会おう、機神ジャッカーの勇者よ!」
「はい!ありがとうございました」
そう言って部屋を後にしたアラタは、少し疲れながらも王城を出て、機神ジャッカーの元に行った。
機神ジャッカーは街を見下ろすように堂々と立っており、その姿は逞しかった。
たばこに火を点けながら、アラタは見上げる。
いままで運転したのはフォークリフトとハイエースくらいだったのが、今や巨大ロボットを操縦するはめになっている。
自分の人生が大きく変わった事を再認識しながら、アラタはしばらくジャッカーを見上げていた。
家に帰ると、エフィが夕飯を作っていた。
アラタが帰った事に気付くと声をかけてくる。
「おかえりなさいませ。今夜はシチューですよ」
「毎日ありがとう。そう言えばエフィは食事しないけどどうしてるの?」
「スプリガンは日光浴をすればそれが栄養になるので、毎日日光浴をしてるんですよ」
「なるほど・・・いただきます!」
エフィが運んできた料理を、アラタは楽しみながら食べた。
翌日の早朝、右耳に着けた耳飾りから、声が聞こえて起こされる。
「アラタ君!合成魔獣が出た!出撃してくれるか?」
「了解です!」
そう言って靴を履き、ホルスターを着けると、ジャッカートリガーを引く。
「ジャッカー!」
その瞬間銃身が上下に開き、光ったかと思うと、アラタは操縦席に座っていた。
ヘルメットを被り、バイザーを下げると、システムが起動し、機神ジャッカーの目が赤く光る。
「ジャッカー、出ます!」
そう言って機神ジャッカーは城壁を跨ぎ、平原を駆け始めた。
平原を走り、山が見えてきたところで、合成魔獣が見える。
カメレオンのような頭部に、鱗のある人間のような見た目で、手には槍を持っていた。
「長物ですね。注意してください」
「ああ!」
アドラにそう言われたアラタは、右のレバーを握りしめると、合成魔獣に向かって照準を合わせ、右のレバーのトリガーを引く。
すると機神ジャッカーの構えられた右腕から、ジャッカーレーザーが発射される。
ジャッカーレーザーは合成魔獣に当たり、体を焼いていく。
それに悶えながらも、槍でジャッカーレーザーを切り裂きながら、合成魔獣は前へと進んでくる。
それを見たアラタは、ジャッカーレーザーを止め、左腰のマナブレードを抜く。
合成魔獣は機神ジャッカーを捉えられる距離まで近付くと、槍を突きだす。
それをマナブレードで、斬ろうとするが、槍を弾くだけだった。
「斬れない!?」
「エンチャントですね。少しだけ厄介です」
体勢を立て直した合成魔獣とお互い向き合い、構える。
再び突いてきた槍を機神ジャッカーは左手で掴むと、相手の左腕をマナブレードで斬りつける。
切断こそ出来なかったものの、かなりのダメージにはなったようだった。
だらりと切れかかってる左腕をぶら下げながら、合成魔獣は再び右手で槍を突いてくる。
それを右に避けると、アラタは左のペダルを力強く踏む。
すると機神ジャッカーの左足が連動し、力強く大地を蹴る。
一気に懐に飛び込んだ機神ジャッカーは、左拳で、合成魔獣の頭部を殴る。
その瞬間にアラタは左レバーのトリガーを引く。
パイルバンカーが重たい音を出しながら杭を前に突き出し、合成魔獣の頭部に深く突き刺さる。
その一撃を喰らった合成魔獣は、ビクンと痙攣すると、黒いもやとなって消えていった。
アラタは左レバーのボタンを押してパイルバンカーの杭を引き絞ると、それを見届け、リュミリ王城へと戻って行った。
いつもの広場に機神ジャッカーを立たせ、降りると、そこにはガランとセレーネが居た。
セレーネが興奮しながら近付いてくる。
「遠くからだが見ていたぞ!凄いものだな!」
「ありがとうございます。全部ジャッカーのお陰ですよ」
「そんな事は無いさ。それを操縦できる君の腕でもある。早朝に対応してくれて感謝するぞ」
ガランがそう言って労ってくれる。
その言葉でアラタはこの仕事も悪くないと思えてくる。
しばらく会話していると、夜が明け朝日が機神ジャッカーを赤く照らしていく。
今日も国の平和を守れたことを誇りに、アラタは家へと帰って行った。