2話
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城の応接室に通されたアラタは、ソファに座りながら、キョロキョロと周りを見回していた。
豪華なその内装は、まるでテーマパークに来たみたいだと思った。
しばらくしてガランと他数名が入ってくると、ガランは上座のソファに、他は向かいのソファに座る。
改めてガランをよく見てみる。白髪を短髪に切り、長い髭をたくわえている。特徴的なのは耳だった。それはファンタジー物でよく見る、エルフの耳そのものだった。
そして豪華な服を着ているところから、かなり偉い人物なのだろうと、アラタは予想する。
そんなアラタをよそに、ガランは自己紹介を始める。
「わしはガラン・マソ・リュミリ。ここリュミリ王国の国王だ。ここはエルフという種族が多く暮らしている国だ。もちろん他の異人種もいるし、君と同じであろう普通の人間も暮らしているよ。さて、聞きたいことが多くあるだろう?なんでも聞いてくれ」
「えっと俺の名前はイツシマ・アラタです。・・・なんで言葉が通じてるんですか?最初は通じなかったのに」
「それは共通言語の魔法だよ。ここ、ガローナ大陸で広く使われているが、離島などに住む部族と交流するために作られた魔法でね。・・・エフィ!」
ガランがそう言うと、メイド服を着ており、そこから覗く箇所全てが木で出来ており、顔は目がぼんやりと黄色に光り、髪の毛の代わりにツタが生えているのを、後ろで三つ編みにしている。そんな少女がサッと、鏡を持ってやってくる。
そしてアラタに鏡を見せると、アラタの首に赤い謎の文字が書かれており、それは首を一周しているようだった。
「それがある限り言葉が通じるのさ。さて、他にはなにかあるかね?」
「えっと・・・じゃあ元の場所に戻りたいんですけど・・・」
「・・・・・・すまない。それは出来ないんだ。カール!」
ガランが名前を呼ぶと、目の前のソファに座っていた黄色のフード付きローブを着た男が話し始める。
「私はカールと言います。あなたを呼べたのは特殊な召喚方法でして・・・できるだけ簡単に言うと、次元のゆらぎの中から機神ジャッカーに乗れる者を探し出し、その場所のゆらぎを捉えてこちら側に召喚するという事です。元の世界に戻ろうとしても、その場所のゆらぎがどこに繋がるかはわかりません・・・時間軸や場所がズレるのは確実で、あなたが元居た時間と場所に戻すのは無理なのです」
「えーっと・・・よくわかんないんですけど、元居た場所に戻ろうとすると年代とか場所がぐちゃぐちゃになるってことですか?」
「そうですね。あなたが居た場所のゆらぎ自体はわかるので、もし年代や場所がどこでもいいと言うのならお帰りになられることも可能です」
「・・・・・・」
「すまない。我が国の危機に君を巻き込んでしまった。だが安心してほしい。君をこのまま放りだしたりはしない。約束しよう」
「・・・・・・そうですか。なら少しだけ、安心できました」
頭を下げて謝る一国の王に、アラタはその意味を理解し、言葉を返した。
この世界で暮らす事になった以上、駄々をこねてもしかたがないだろう。
出されていた紅茶を飲んで頭の中をリセットすると、アラタはこの世界について聞くことにした。
「この世界と、この国について教えてください。あと、あの機神ジャッカーの事も」
「いいだろう。長くなるぞ?」
「構いません。しっかり受け入れたいと思います」
「よし」
そう言って一呼吸置いてから、ガランは話し始めた。
「ここは数ある星のひとつ、アムリアだ。そしてここはガローナ大陸の南端、リュミリ王国。小国ではあるがしっかりとやれている国だ。先ほども言った通り、エルフを中心に異人種と人間が上手くやっている。だが、ここから北西にあるローリス帝国とは小競り合いが絶えなくてな。今回君を呼ぶ理由になった巨大ゴーレムも、帝国の物だ。それ以外は上手くやれている。機神ジャッカーは古代に神々が作った巨大兵器だ。・・・君が来てくれたおかげで、今後もし、またあのゴーレムが来ても心配はないからな・・・・・・いや、今回は半ば強制的に乗って貰ったんだ。今の言い方はよくないな。すまない」
再び謝ったガランに首を振りながらアラタは平気だと伝える。
「いえ、大丈夫です。その帝国と言うのは?」
「帝国か。そこは人間至上主義の国でな。我々のような異人種は奴隷になって日々過酷な労働をさせられている。帝国は我が国と、他にもここから北東に行ったところにあるナナーイ連邦とも敵対している。・・・こんなところか」
「ありがとうございます。・・・・・・今後俺はどうなるんですか?」
不安げな表情で聞いたアラタに、ガランは優しく答える。
「安心してくれ。君は我が国の切り札で、なおかつ巻き込んでしまった一般人だ。今、空き家を探させている。夕方までにはそこに引っ越せるように言いつけてあるから、そこに住んでくれ」
「わかりました。・・・ひとつ、いいですか?」
「何でも言ってくれ」
「俺を雇いませんか?機神ジャッカーは俺しか動かせないんですよね?今後の為にも、動かす練習とかをしたいですし」
その発言にガランは笑って答える。
「なんだ、そんな事か。もちろんだとも。君が機神ジャッカーを駆ってこの国を助けてくれるなら、頼もしい限りだ」
「アドラもそれに賛成です。動かす練習はしましょう」
そう言っていきなりアラタの横に現れたのは、ジャッカーに乗った時に後ろに居た、アドラだった。
皆が驚いている中、アドラは続ける。
「パイロットアラタ、あなたはこれからアドラのバディです。立派なパイロットになる責任があります」
「えっと・・・努力します・・・」
「いい返事です。アドラは気に入りました」
「それはよかったです・・・ ・・・!ガランさん・・・いや、国王様?今すぐ必要な物があるんですが・・・」
「おお、なんだね?すぐに用意させよう」
「たばこが欲しいんです。今回ゴーレムを撃破した報酬でたばこを貰えませんか?」
それを聞いたガランは笑いながら答える。
「ハハハ!そんなもの、今回の報酬の金で買うといい。君が暮らす家に我がリュミリ王国の通貨を置いておく手筈になっている。そして世話係として、そこにいるエフィが君の家に住む事にもなっている。慣れない内はエフィに聞くといい。彼女は有能だぞ」
そう言ってガランとアラタがエフィを見ると、エフィはスカートの裾をつまんで礼をする。
「そうですか。色々ありがとうございます。・・・そうだ、機神ジャッカーを見に行きたいんですが、いいですか?」
「もちろんだとも。エフィ!着いて行ってやりなさい」
「かしこまりました。アラタ様、ご案内いたします」
そう言ってエフィが歩き出したので、アラタはガランと、その他の者に礼をして部屋を出た。
城を正面に見て左側の広場。そこに機神ジャッカーは堂々と立って、街を見渡していた。
V字の頭部に、赤い目。全体の色は黒と赤がベースになっている。
両肩にはスパイク付きのシールドがあり、右腕には熱線を撃ち出す銃口が、左腕にはパイルバンカーが装備されており、胸には巨大な砲口がある。左腰には剣の柄が付いており、機神ジャッカーに乗った時に流れてきた情報からは、あれはマナブレードの柄だったはずだ。
そんな機神ジャッカーをぼんやりと見ていると、1人の執事服を着た男が、エフィとなにやら話し始める。
そして別れた後、エフィがこちらに来る。
「アラタ様。こちらを、それと家の準備が出来ましたので、ご案内します」
そう言って渡されたのは、たばこのケースと、ライターだった。ライターはジッポライターの見た目だが、中にあるのが細く赤い水晶で、それをフリントホイールで削ると、その水晶に火がつくという不思議なライターだった。
たばこはフィルターなんてない両切りの紙たばこだった。
普段はタール5のたばこを吸ってるので、慣れるまで大変だなと思いながら、たばこを吸いながら不思議なライターで火を点けたり消したりしていると、エフィが話しかけてくる。
「そのライターは赤い水晶を交換するタイプのライターです。気に入らなければオイル式と交換いたしますが」
「いや、これでいいです。どうもありがとうございます」
「かしこまりました」
そうして歩くこと十数分、街の大通りから少し入ったところの、二階建ての家に案内された。
エフィがドアを開けて入るよう促すと、アラタは家に入る。
質素だが小奇麗な造りで、アラタはすぐに気に入った。
入ってすぐがリビングで、その奥にキッチン。家に入って左の階段の下には、なにかが書かれたプレートが下がった部屋があった。
二階に上がると、ちょっとしたスペースと、またもやなにかが書かれたプレートの下がる部屋がひとつある。
一通り見た後、下で色々準備をしていたエフィに話しかける。
「エフィさんはどっちの部屋使いますか?」
「エフィでいいですし、敬語は使わなくていいですよ。そう言えば言葉は通じても文字は読めないのですね。下が私の部屋で、上がアラタ様の部屋です。そこに今回の報奨金が置いてありますので確認を・・・一緒にしたほうがよさそうですね」
そう言ってエフィはアラタと一緒に二階に行くと、袋に入っていた紙幣と通貨を出して説明をし始める。
「これが1000ルマ紙幣です。こっちが500ルマ紙幣。これが100ルマ硬貨でこっちが10でこれが1ですね」
「ありがとうエフィ」
「どういたしまして。他にも日常生活でなにかあれば聞いて下さい」
そう言ってエフィはまた下に行ってしまった。
アラタは靴を脱いでベッドに倒れ込む。
今日一日で色んなことがあった疲れからか、エフィに夕飯だと起こされるまで寝てしまった。
ローリス帝国、その会議室で、ローリス帝国皇帝、アヌマミシア・ローリスは、貴族達と、会議をしていた。
「――とのことで、機神ジャッカーを起動し、巨大化させたゴーレムを撃破したようです」
「ふむ・・・例の計画はどうなっている?」
「順調ですが、進行度は約25%ほどだとの事です」
「こればかりはせかさず待つしかあるまい。リュミリ王国の各駐屯地はどうなっている?」
「第一、第二共に動きなしとのことです。まぁあの大きさの敵ですから動かないのも当然かと」
「・・・・・・機神ジャッカーが動き出した以上、ここは連邦ではなくリュミリから攻めるのが妥当だな。巨大化合成魔獣を用意しておけ。機神ジャッカーは脅威だからな」
「はっ」
会議が終わり、貴族達が退出する中、アヌマミシアは不敵に笑っていた。
『アレ』が完成すれば、ガローナ大陸の南は我が手中になるだろう。
そう考えながら、アヌマミシアは誰も居ない会議室に座っていた。