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[2-2] 家柄

「行かせてよかったんですか?」

 三人が部屋から出て行ったのを見計らってサラが口を開く

「何か問題かい?」

「行方不明になった騎士の話が本当ならどうなるか」

「会う事になるかもしれないね」

 行方不明というのは、文字通り行方が分からないから生死不明という扱いだが、ネクロマンサーと一戦交えて帰ってこなかったというのは、どうなっているかは想像に難しくない。

「もしも彼の知り合いだったりしたら面倒ですよ」

「それはないだろう。だったらガエラの名前を出した時に違った反応があったはずさ。アイツは噂程度の認識だった」

 知り合いがガエラの手によって行方不明になったのであれば、敵討ちという事になるためもっと違った反応をするのが普通だろうとアンは考えていた。

「元騎士の彼が、グール化した騎士と戦えると思いますか?」

「騎士を行方不明にしたネクロマンサーと戦うって時点で、そのぐらいの覚悟はしてるだろう。」

「そうだと良いのですが。それともう1つお聞きします。吸血鬼をこの場所に招いてよかったのですか?」

 アンとサラはサキュバスであり、吸血鬼とは種族が異なる。サキュバスも吸血鬼も魔界を故郷とする魔族という点では同じではあるが、魔族の間で種族が異なるというのは大きな意味がある。

 過去の話ではあるが、魔界では種族同士の抗争が激しかった時期がある。あれから時が経ったとはいえ、他種族に対して敵対心を持つものも少なからず居るのは事実だ。

「候補者になったアイツの今後を考えるのなら、複数の種族と面識があったほうが都合が良いだろう。それにあの嬢ちゃんは年齢からして下手な事をしたりはしないだろうし、戦闘の腕も年齢に見合った分はあるはずさ」


 ●


 王都というのは人の出入りが多い。旅人、商人、住人の家族といった様々な人が連日のように出入りを行っている。よってそれら全員をいちいち身元確認をしていては往来が滞ってしまうため基本的に日中の時間帯であれば、王都の出入り口になっている東西南北に位置する門は開け放たれていて、自由に出入りができるようになっている。

 しかしながら見張りの兵士が常駐しているため、お尋ね者になっているオリバーが人ごみに紛れて通過するというのは万一を考えると危険が高すぎた。よって王都からの出入りには非正規の裏口を使うことになった。

 以前王都の治安を守る組織としての騎士団に属していたオリバーとしては、冒険者の中には違法行為を働く者もいるといった噂を耳にする事もあったが、こうして裏口の存在をしってしまうとその噂はあながち間違いでもなかったと実感していた。

「何か心配事でもあるの?」

 魔女の館によって作られたと言われている地下道。これもまた魔族が人間界に溶け込むために使われている方法の一つではあるのだろう。歩きながらオリバーがそんな事を考えていると、その表情を不安の表れだと思ったのかリリアが声を掛けてきた。

「本当にこういう抜け道ってあるんだなって思ってさ」

「今でこそユニオンとして普通に活動してるけど、昔は色々あったらしいわよ。そのころは、こういう抜け道がないと不便だったんだって」

「これってユニオン内の秘密だったりするのか?」

「そうよ。この存在を知ってるのは、ユニオンメンバーというか魔族だけだからね。人間の悪事に加担したりはしてないわよ」

「ほんとにー?」

 ヴァネッサが疑いの声を上げるが、疑っているというよりも揶揄っているといった感じの声色であった。

「入り口の扉の封印見たでしょ。ここはサキュバスが居ないと入れないのよ。偶然この抜け道を見つけた人間が入り込むって事もあり得ないわ」

 入り口は閉ざされていたが、リリアが手を触れることで開かれた。魔女の館にもあった仕掛けだがこれならばサキュバス以外の種族がこの道を使う事は出来ないだろう。

「いやーでも開かないだけで先導すれば入れるでしょ。実際私とにーさんも入ってるわけだし」

「それは特例よ」

「特例って言うほど、にーさんが大事なわけ?」

「事情はさっき話したでしょ。彼にはやってもらう事があるのよ」

「それだけー?」

「それだけよ」

 露骨に揶揄おうとしているヴァネッサにリリアは淡泊な返事をする。だがヴァネッサはある事実を知っている。

「でもキスしたんでしょ?」

「あれは食事みたいなものよ。吸血鬼だって好きな相手だから血を吸うって訳じゃないでしょ。疲れたから寝るのと同じ」

 堂々とそういう話題をされると、オリバーとしては居心地の悪さがあったが、口を挟むと余計に面倒な事になりそうだったので、聞こえないフリを決め込むことにした。だが口を挟まなくても、話は面倒な方向に転がっていく。

「つまりにーさんの事は何とも思っていないと」

「サキュバスが精気を吸うのに恋愛感情なんか無いわよ」

 精気を吸われた本人からすれば、少なからずショックを受ける言葉だった。

「恋人だとは思ってない?」

「当たり前でしょ!」

 リリアが足を止めると同時に、地下道に彼女の声が響き渡った。

「ねーさんって、ひょっとして…」

 ヴァネッサの声のトーンが一気に下がった。冗談を言っただけなので本気で怒られて困惑したといったところだろうか。

「何よ?」

 対してリリアはまだ少し興奮気味であった。そのリリアの様子をみてヴァネッサはこの話題をこれ以上続ける事を辞めた。

「あ、やっぱりいいや」

「そう、なら無駄口叩いてないで、早く先に進むわよ」

「はーい」

 気の抜けた返事から。あまり反省の色は見えなかったが、先ほどの話題を蒸し返す気はないようであった。

「それから、今回はあんまり戦闘になっても前に出てこないでよ」

「何で?」

 ヴァネッサが首をかしける。

「オリバーに魔剣に慣れてもらう必要があるのよ。グールが出てくるなら動きも鈍いはずだし練習相手には丁度良いわ」

 グールは死者の体に悪霊が宿っているため、動きが鈍く魔物としては比較的弱い部類に分類される。戦闘の練習相手としては申し分ないだろう。それでも武器を持たない一般市民からすれば十分な脅威となるのだが。

 オリバーは魔剣という単語でふと疑問に思っていた事を思い出した。

「そういえば、魔剣って普通の剣と違うのか?」

 アンから譲り受けた魔剣だが、オリバーにしてみれば特に変わったところは無く、普通の剣にしか見えなかった。

「それはオータムに着いてから説明するわ。使い方の練習もしてもらわないといけないけど、この地下道の中で練習する訳にはいかないからね」

「歩きながら話せないのか?」

「実際に見せながら説明した方が分かりやすいのよ。だからオータムに着くまで待ってもらえるかしら。オリビアちゃん」

 発端はただの読み間違いであった。オリバーと書かれた彼の名前を、オリビアと読み間違えられたことがある。その話をしたところ、時折冗談半分んにオリビアと呼ばれるようになってしまった。

 本気で間違えている訳ではないのは分かっている。挨拶のようなもので悪意が無いのも分かっているが、取り合えずそう言われた時にオリバーはいつもこう言い返している。

「俺の名前はオリバーだって言ってるだろ。オリビアは女の名前で俺がオリビアって名前だったらおかしいだろ」

 そんな会話をしながら、一行はオータムの村へ向かった。


 ●


 騎士団長は激務である。よって家に帰らないことも多い。最近の魔物の活動の活発化により騎士団による魔物の対応が求められるようになってからはなおさらである。加えて先日彼の息子であるオリバーが悪魔憑きであるとの嫌疑がかけられた。

 オリバーは騎士団に入隊しており、その左腕には騎士団員の証として認識印が彫られていた。しかし悪魔憑きの嫌疑がかけられたオリバーにはその認識印が消えていた。本人の腕には死亡し、オリバーの偽物が成り代わっていたという結論になり、その偽物は処刑することとなった。だが、処刑執行当日、何者かの手助けにより偽物のオリバーは逃亡する。この対処にも追われていた。逃亡先が不明なため見回りの強化を命じるのみという対応にはなったが、各部隊の伝達指示にはそれなりの手間がかかり、騎士団長ともなればいろいろな事務対応に追われる。

 数日の時を要し、久々に家に帰る事が出来た。

騎士団長ともなればその地位にふさわしい家に住んでいる。郊外に位置し、庶民からはとても想像できない大きな屋敷。敷地の入り口にある門から屋敷の門に行くまでも、徒歩では不自由なぐらいの距離がある。

移動に使っていた馬車から降りて、入り口の門を開けるが、気は重かった。何が起きるかは予想は付いていたからだ。

「帰ったぞ」

 正門から入った場所に位置する大広間で彼女が待っていた。

「父上、何故オリバーを見捨てたのですか?」

 予想通りの質問であった。彼女の名前はミランダ。オリバーの姉にあたる。

「あれはオリバーではない。悪魔憑きがオリバーになりすましていただけだ。処刑して当然だろう」

「オリバーの裁判記録を見ました。オリバーの過去の記憶も持っていたと」

 オリバーが本当に悪魔憑きかどうか判断するために裁判が行われた。ミランダはその裁判記録に目を通したのだろう。

「では腕から認識印が消えた話も知っているな。それはどう説明する」

「それだってどうにでもなるでしょう。入隊時の手違いで認識印をしなかったとか、別の悪魔憑きがいて認識印を消した事も考えられます。認識印が無いから偽物という結論は短絡的すぎます。もう少し調べてからでもよかったのでは?」

「本人が認識印について説明しようとしなかったのだ。それで十分だろう」

 裁判当時のオリバーの証言としては要領の得ない点が多く、特に腕から認識印が消えた件に関しては口を噤み、詳細は不明なままであった。悪魔憑きと断定されたのは本人が事情を説明できなかったというのが大きかった。

「本人が説明できなかっただけで処刑はやりすぎです。せめて一目会って本人かどうか確かめたかった!」

 ミランダはその点について疑問を持っていたのか議論に熱が入りつい大きな声をだしてしまう。だが帰ってきたのはそれよりも大きな声であった。

「馬鹿を言うな!」

 普段怒らない父の、ただならぬ怒り方にミランダは何か理由があるのかと悟る。そして父は声のトーンを落としてこう続けた。

「良く聞け。仮にアレが本人だったとしても、認識印が消えた理由が証明できなければ悪魔憑きであるという扱いに変わりはない」

「本人なら処刑する必要は無いでしょう」

 ミランダは父が言っている事が理解できなかった。次の言葉を聞くまでは。

「いいか、魔物の活動の活発化で民衆の悪魔憑きに対する嫌悪感は高まっている。そんな中でこの家から悪魔憑きが出たという事になったら、次はどうなるか分からないのか?」

「まさか…」

 ミランダは父が言わんとする事を察して言葉を失った。

「次は血のつながった者に悪魔憑きがいるのではないか、という話になる。そうなったら最悪一家全員悪魔憑き扱いになるのだぞ。」

 今の情勢を考えれば、父の言葉を大袈裟と一蹴する事はできなかった。むしろ妥当な予想だろう。

「本物のオリバーは死んだ。よってあのオリバーは偽物だ。だから処刑する。これが最善策だ。分かるな」

 一人を切り捨てて他の家族を守る。一家の長として家を守るための決断だった。その良し悪しを断じることは誰にも出来ないだろう。結果として悪魔憑き疑惑はオリバーのみに向けられており、この一家に悪魔憑きの疑惑が向けられていないのは事実だ。

それが最善策という父を否定する気はミランダには無かったが、確かめなければならない事がある。

「父上、オリバーは悪魔憑きで無かったと思っているのですか?」

「ミランダ、理想だけでは人は動かない」

 明確な表現を避けた返事ではあったが、その内容から父の考えを暗示している。父が口にする気が無いとしても、これはミランダにとっては確かめなければならない事だ。

「あのオリバーが本人だったと思っていた上で、処刑に反対しなかったというのですか?」

「現実を見ろ。あのオリバーが本人かどうかを判別できるのは認識印だけだった。そしてあのオリバーには認識印はなかった。だからあの裁判であのオリバーは偽物という結論になった。それ以上どうやってあのオリバーの真贋について決めるのだ? 本物のオリバーは死んだという結論は出ている。認識印以外の方法で確かめる手段は存在しない。よって本物のオリバーは死んだ。オリバー本人が死んだ今、お前がこの家の家督を継ぐのだ。これが現実だ。」

 オリバーは死んだ事にする。真偽はどうでもいい。なぜならそういう事にしなければ一家全員に危険が及ぶ。それは残酷ではあるが残された者の安全を考えるならば最も合理的な答えだと父は考えに至ったのだ。

「オリバーは死んでいません」

 ミランダまだ諦めきれていなかった。生きているなら助けたいと思っていた。悪魔憑きなど迷信の類だ。そんな疑惑は直ぐに晴れる。今は魔物の活動が一時的に活発化しているせいで魔物に対する憎しみが高まり、魔物と戦う力の無い民衆が魔物に代わる丁度良い憎しみをぶつける矛先として悪魔憑きを欲しているに過ぎない。魔物の活動が沈静化すれば今悪魔憑き扱いされているオリバーも嫌疑が晴れて人間だったという事になるだろう。

認識印が消えた件は本人に事情を聴けばわかる。人前では話せない事情があったのだろう。自分が出向けばきっと理由を話してくれるはずだと。

「そうだな、あの偽物は逃亡中だ」

「父上…」

 あくまで態度を変えようとしない父に、ミランダは決心した。

 自分の手でオリバーを探し出そうと。

「最近調子はどうだ?」

 もうオリバーの話は終わりだという事だろう。父が露骨に話題を変えてきた。

「私は異常ありませんが、最近の魔物の被害により皆不安がっています。私の部隊からも魔物による被害が出て一名行方不明になりました。近々その捜索に行きます」

 その言葉に嘘は無かった。それはあくまで騎士団内で割り振られた任務。それだけの筈であった。


 ●


 オータムの村。それは王都から徒歩にして約一日の距離の場所に位置する。王都に近いという事もあり、王都に向かう者や、王都から他の都市へ向かう者の多くが中継地としてこの村を通る。

 オリバー達三人は、王都から一日かけてオータムにたどり着いた。

 既に日がくれていたため今日は宿を取った。あまり贅沢ができる状況ではないのだが、オリバーは個室、リリアとヴァネッサは相部屋の二部屋を取る事となり、今はオリバーの部屋に集まりガエラの捜索をどうするか協議しているところである。

「今日はもう夜も更けてるし、明日以降どう動くかだけ決めるって事でいいか?」

「そうね。私もそれに賛成」

「あたしもー」

ヴァネッサが眠そうにしながら。リリアの意見に賛同する。その様子を見たオリバーに一つの疑問が湧きあがる。

「吸血鬼でも夜眠いのか?」

「昼間ずっと起きてれば、夜眠くなるよ。だから早く話進めて」

 ヴァネッサに急かされ、オリバーは話を戻す。

「墓地の監視はどうするんだ? 三人交代で一日中監視するのか?」

アンが言った通りであれば、墓地に再度ガエラが現れる可能性は高い。居場所が分からない現状では、闇雲に探し回るより、墓地で待伏せするというのが最も合理的な方法であるのは間違いない。

とはいえ一日中見張っているというのは、数日間であれば可能かもしれないが、三人しかいない事を考えるとあまり長くは続かないだろう。

もしかすると吸血鬼は寝ないのかという楽観的な予想をしていたが、今のヴァネッサの様子を見るにそれは無理だろう。仮に不眠で見張りが可能だったとしてもヴァネッサ一人に見張りをやらせるという気はなかったが。

現状三人しかいない状況ではとりあえず数日間だけでも三交代で見張りをしてガエラが現れるかだけでも確かめるというのが妥協点だろうか。

そうオリバーが考えている中、ヴァネッサが一つの提案をした。

「あたしが使い魔で見張らせようか」

「いいのか?」

「これはスキルだから、その分血をもらう事になるけどそれでも良ければ」

 スキルは魔法とは異なり、魔力で発動する物ではない。吸血鬼の場合は血力という力を使い、その補充には人間の血が必要になるという。

「血ってどれぐらいだ?」

「一日中見張らせるなら、一日で二口ぐらいかなー」

「今すぐ要るのか?」

「使い魔を出してる最中はずっと消耗するから、夜の方がいい。」

「夜に血を分けるから、頼む」

「じゃあ出すね」

 そう言ってヴァネッサは左手を自分の胸の高さぐらいで掌を上にすると、掌の少し上の空間が歪み、黒い穴が発生した。そこから三匹の蝙蝠が出てくると、その穴は直ぐに閉じた。蝙蝠は部屋の中を飛び回ったかと思うと、ヴァネッサの左肩、右肩、頭の上にそれぞれ着地した。

「この三匹に見張らせる」

「普通の蝙蝠にしかみえないな」

 ヴァネッサの体に取り付いている蝙蝠は、特に変わった様子は無い。先ほどヴァネッサが呼び出すところを見ていなければ、野生の蝙蝠が部屋に迷い込んだと錯覚してもおかしくない。

「立派な使い魔だよ。それに『普通の蝙蝠』に見えなかったら目立っちゃう」

 見張りとして使うのであればヴァネッサの言う通りだろう。

「この三匹で墓地全部見張れるのか?」

 三匹の使い魔は一様に鳴き声を上げている。それぐらいできると言っているかのようであった。

「不審者がいるかどうかぐらいなら見張れるよ。何かあったらすぐに私にもわかるし。視覚の共有もできるしね。消耗が激しいから常時視覚共有するって訳じゃないけど」

「今からでも出来るか?」

「できるよ。もう呼び出しちゃったし、そのつもり」

 ヴァネッサの声に応じるかのように再び三匹の蝙蝠が鳴き声を上げた。

「じゃあ私とオリバーは待ってる間に魔剣を使う練習でもしましょうか」

「ああ、これか。そうだな。時間があるならやらないとな」

 オリバーは腰に差していた魔剣を見る。預かったはいいが、預かってから一度も戦闘をしていない。賞金首との戦闘が予想される状況では、できれば実戦になる前に使い方を覚えておきたいところだ。

「明日の予定が決まったところで、今日はもう解散でいいかしら」

「そうだな」

 オリバー自身も眠気を感じ始めていた、

「明日はあたしもついていっていい? ここで待ってても暇だし」

 窓の外に三匹の使い魔を放ちながらヴァネッサが尋ねる。

「いいわよ、別に隠す物でもないし。」

 そうして、リリアとヴァネッサはオリバーの部屋から出ていき、自分たちの相部屋に戻っていった。


 ●


 オータムの村に一人の青年が訪れた。目深に被った帽子に、纏ったローブと肩から下げた旅用の荷物は、いかにも冒険者といった風体である。

彼は悪魔憑きオリバーを探していた、

 彼が聞いた悪魔憑きオリバーの噂は次の通りである。

オリバーは騎士団の一員であり、騎士の証である認識印が腕に彫られているはずであった。しかし、ある魔物との戦闘の後、腕から認識印が消失している事が判明した。魔物との戦闘には仲間の騎士もいたが戦闘中に死亡。生き残ったのはオリバー一人だった。

言い換えるならば、魔物との戦闘前後におけるオリバーが同一人物である証明ができる人物がいないのである。よって彼は悪魔憑きの疑惑がかけられ、認識印が消えた理由が本人から説明されなかった事から悪魔憑きと断定された。

 だがそれは彼がオリバーを探している理由ではない。問題はここからである。

 オリバーは処刑場にてある人物に救出される。その人物は処刑場を覆うほどの火の玉を出して、衛兵を脅したという。

 つまりオリバーの仲間には凄腕の魔法使いがいるのである。

 彼の目的は、オリバーではなく、そちらの魔法使いに協力を頼む事である。

 彼がこれから成そうとしている事には魔法使いの協力が不可欠であるが、その内容からして無差別に募集を掛ける事はできなかった。

 噂ではオリバーは処刑場から逃走した後の足取りは不明だが、王都から脱出を図った場合この村と通った可能性が高い。

 まだ王都に潜伏しているという可能性もあったが、脱出を図った場合、時が経てば経つほど見つけるのは難しくなる。まずは交通の要所であるこの村でオリバーの目撃情報を探すのが優先だと彼は考えていた。

「とりあえず宿屋でもあたってみようかね」

 そう呟きながら、彼はオータムの村にある宿屋に向かおうとしてふと気が付く。

「宿屋ってどこだろうねえ」

 彼はこの村を訪れるのが初めてであった。

「とりあえず適当な人に宿屋の場所を聞いてみようか」

 そう言いながら、彼は人が居そうな方向へと歩いて行った。

次話は4/8に投稿します。

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