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[2-1] ネクロマンサー

 王都の隣に位置している村オータムで四人の騎士がある民家に向かっていた。

 四人の中で隊長に当たるミランダを先頭に部下の三人が後ろに着く形で移動している。

部下の名前はそれぞれジーン、ジュバルツ、ローランと言う。

「行っても無駄だと思いますけどね。証拠があるわけじゃない。本当に犯人だとしてもシラをきるだけですよ」

 そう言ったのはジーンである。彼は今の状況でガエラ宅を訪れる事には懐疑的なようだ。

 四人は墓荒らしをしているとの通報が住民からあったため、詳細を確認しに来たのである。通常墓荒らしというのは、棺桶に遺体と合わせて納入された貴金属を盗み出す事が多いのだが、この墓荒らしに至っては遺体その物を盗み出しているとのこと。

実際に遺体を盗まれたという話が複数あった。犯人の証拠があるわけではないが、この屋敷の住人であるガエラが墓地で数回目撃されており、犯人ではないかと疑う声が多くなっていた。そういった訴えが日ごとに増えて行っては治安を司る騎士団としては動かざるを得なかった。

「証拠がないというのは否定しないが、墓地で何度も目撃されていては話を聞きに行くしかないだろう。もしも何か事情があって墓場を訪れているのであれば、彼に対する疑いは晴れるそれで良いじゃないか」

 懐疑的なジーンを大柄で口ひげを蓄えたシュバルツが窘める。

「墓場に行く理由なんてあるんですかね。親族の墓参りって可能性もありますけど、死んでから結構日が経ってるし、そう頻繁に墓場にいくのは怪しいですよ」

調べたところによると、ガエラの経歴としては以前は敬虔なレリーフ教の信者であったが、魔物の被害に会い妻子を立て続けに亡くす。それでも信仰心を失わずに神父として教会に仕えるようになるがある日を境に教会を去り、一人暮らしをしているとの事であった。

「つまりお前はガエラが墓荒らしだと疑ってるのか?」

「ええそうですよ。だから行きたくない。ひょっとしたら俺たちが真相を掴んで逮捕しに来たと勘違いして襲ってくるかもしれない。」

「それは考え過ぎだろう」

 シュバルツが失笑交じりにジーンの予想を否定する。

「何も起きずに無駄足になるよりかはそっちの方がありがたいですがね」

 それでもジーンは考えを変えないようだ。

「まあまあ二人とも。行ってみれば分かる話ですよ。ちなみに隊長はガエラが犯人だと思います?」

 議論は白熱しそうなところで三人目の部下であるローランが割りつつ、隊長に話をふった。

「そうだな、頻繁に目撃されているだけで犯人だと決めつけるのは早計だと思うが、かと言って白だとう証拠がある訳でもない。現状で結論を出すのは早すぎる」

「流石隊長様。下手にどちらかの肩を持ったりしないって事ですかい」

 明言をさけたミランダの回答にジーンが皮肉めいた答えを返す。

「軽口はそこまでだ。着いたぞ。三人とも騎士としてあまりみっともない姿は見せるなよ」

「了解」

ジーンは不承不承といった様子を隠しもせずに返事をした。

四人は正門から中庭に入り、雑草が茂っている手入れのされていない中庭を通って玄関口までたどり着く。

「ガエラ、いるか? 騎士団の者だ。話を聞きたい」

 屋敷の扉をノックしながら中にいるであろう住人に呼びかける。

 今は昼前だ。普通の住人ならば家にいるだろう。

 騎士団に対して後ろめたい事があり、居留守を決め込んでいるのかもしれない。そんな事をミランダが考え始めた矢先に扉が開かれた

「何の用でしょうか」

 扉を開けたのは壮年の男だった。

「我々は騎士団の者だ。最近この村で起きている墓荒らしについて話を聞きかせてほしい。あなたがここに住んでいるガエラか?」

「はい、そうです。まあ立ち話もなんですし中へどうぞ」

 ミランダの予想に反してガエラはすんなりと四人の騎士を中に通し、居間まで案内する。

「どうぞお掛けください」

 ガエラは今に会った椅子を引いて座る様に促す。四人がそれに応じて座るとガエラは向かい合うようにして座った

「それで墓荒らしについてですか。私も噂は聞いていますが、何故私の家まで来たのでしょうか」

「住民たちから最近墓地であなたの姿を見かけたという目撃情報がよせられている。身に覚えはあるか?」

「ええ、私は妻と娘を亡くしていますから。その墓参りですよ」

「墓参りにしては頻度が多いという事だが」

「それぐらいしかやる事が無いもので、つい頻繁に通ってしまうのですよ」

 予想していた範囲の回答ではある。特におかしな点は無い。これ以上深入りしても相手を警戒させるだけだろう。

「以前は神父だったと聞いているが、今は何か仕事を?」

「いえ、昔の蓄えで細々と生活しているだけですよ」

 事前の調べでは神父であったまでは分かっているが、今は何をしているかは分かっていない。職を失っているという事は裏を返せば何かをする時間は十分にあるという事だ。何か墓荒らしに繋がる情報が手に入るかと思ったがそうそう簡単に口を滑らしたりはしない。そもそも本当に墓荒らしかどうかは、まだ分かっていない。

「以前は神父だったんだろう? 墓参りの代わりに、神への祈りはしないのか?」

「神への祈りなど無駄でしょう。神は私の家族を守ってくれませんでしたからね。あなたは神を信じるのですか?」

 ガエラの声が先ほどよりも低くなる。神父を辞めたという事はやはり神への信仰を失ったという事なのか。だとすると神に関する話は振れていけない話題だったのだろうか。

 そんな心配が芽生えたが聞き返されては答えない訳にはいかない。

「ああ、信じている」

 騎士の中には神を信じている者が多い。職業上命を危険に晒す事が多いせいもあるのだろう。心のよりどころとして神への信仰を持っているのかもしれない。

「もしもあなたが善良な騎士で、神がいるのであれば、神はあなたを守ってくれるはずですね」

 この時のガエラの言葉に若干の震えがあったものの、ミランダはそれが何に依るものかに気が付く事ができなかった。

「神とはそういうものだ」

 自分で自らを善良な騎士というのは少し気恥しいところがあるが、しかし神というのは善良な行いに報いてくれる存在であるというのは一般的な考え方である。

「では神があなたを守ってくれるか、確かめてみましょう」

「何を言っている?」

 怪訝な顔をするミランダの質問には答えず、ガエラは何かを呟いた。ミランダには聞き取れなかったが恐らくは呪文だったのだろう。

 大きな音がした。いや、床板が破裂しその下から何かが飛びかかってくる。

 ミランダは反射的に椅子から転がり落ちてそれを躱しすぐさま立ち上がって剣を抜き部屋の中を見渡すが、出てきたのはその一体だけでは無かった。

 別の一体がさらに飛び掛かってくる。

 抜刀は間に合わないと判断し籠手を着用した拳でその顔を殴りつけると相手はその勢いで床に倒れこむが、ミランダには違和感があった。

 相手の姿は人間のように見える。だが正面から殴りつけたというのに悲鳴一つ上げない。そして、籠手越しとはいえ感触がおかしかった。人間にしてはやわらか過ぎる。

次いで感じる別の違和感。この鼻をつく悪臭。肉の腐った匂いだ。

「グールか!?」

 グールというのは死者の肉体に再び魂が宿り、生きた人間を食べると言われている忌まわしき魔物である。

 再び襲われる前にミランダは抜刀し、部屋の中を見渡すが、ともに来ていた部下もまた同様に襲われていた。

「外へ避難しろ!」

 部下に指示を出しつつ室内を見渡そうとすると、ローランの悲鳴が耳に入った。見ると首筋にグールが噛みついている。

「今助ける!」

ローランに当たらないよう、間合いを図り剣を横に一閃し、グールの首を切断する。切断されて顎に力が入らなくなったのか、グールの生首はあらぬ方向へ飛んで行き首から下は床に崩れ落ちる。

「隊長…」

ローランは傷口を抑え、壁に背中を預けなんとか立った状態を維持しているがとても戦える状態ではない。室内にはまだ何体ものグールが残っている。

 状況的にガエラは墓荒らしで確定だが、今はガエラの確保より生きて戻る事が優先だ。このままでは全滅しかねない

「肩を貸せ!」

 ミランダはローランのわきの下から腕をまわして支える。ローランもここから逃げなければならいと分かっているのだろう。壁から背を離してミランダに体重を預けて来る

「隊長! 早く!」

 先回りしたジーンが玄関の扉を開け、ミランダとローランが先に外に出る。

 二人は庭を抜けて正門を出ると、ミランダはローランを門に寄りかからせ地面に座らせた。

「傷を見せろ」

 自分で傷口を抑えていたローランの手を外させて、容体を見る。出血が激しく、直ぐに治療しなければ危険な状態だ。

 そこへジーンがやってきて弱弱しい声でこう言った。

「隊長…。シュバルツが…」

 負傷したローランに気を取られていたが、辺りを見渡してもジュバルツの姿が無かった。

「まだ中なのか?」

「恐らく…」

 認めたくない現実だが、ここに居ないという事はグールが跋扈している屋敷の中に取り残されているという事だ。

 すぐにでも助けに向かいたいところだが、動けるのはミランダとジーンの二人だけ。ローランは傷が酷くとても動ける状態ではない。少なくとも一人は付いていないと危険な状態だ。ローランの手当に一人残り、もう一人が再突入するにしてはグールの数が多すぎる。加えてここはガエラの屋敷であり、他にもなにか仕掛けがしてあるかもしれない。戻るのは自殺行為といってもいい。

「撤退するぞ」

 低い声で、絞り出すようにミランダがそう告げる。

「しかし、それではジュバルツが…」

 ジーンの言葉には勢いが無かった。言葉では否定していても頭では戻るのは危険すぎるという事が分っているのだろう。

「よく見ろ! 動けるのは私とお前だけだ。ローランの手当もいる。今屋敷の中に戻っても生きて戻って来れる保証は無い!」

「申し訳…ありませ…」

 自分に非があると思ったのかローランが苦しそうに謝罪の言葉を口にする。

「お前のせいではない。今はしゃべるな」

 ローランはミランダの言葉に無言で頷いた。

「撤退する。いいな」

 その日彼女は自分の部下から一人の重傷者と、一人の行方不明者を出すという失態を演じることになった。

 そして、悪い事は重なる物である。この事件からそう日が経たない内に、彼女は自分の弟が悪魔憑きの嫌疑をかけられたという話を耳にする事になる。

女性のみで構成されたユニオン『魔女の館』は王都に拠点を構えている大人数ユニオンの一つである。その拠点に存在する地下室に、ユニオンに似つかわしくない客が招き入れられていた。男、もとい青年である。その場違いの人物が口を開いた。

「分かりました。引き受けます」

 この部屋の中には今五人の人物がいる。その内の一人であるアンはこのユニオンでリーダーを務めている。その彼女が彼の言葉に答えた。

「そうか、良かったよ。じゃあコイツはいったん預けるよ」

 そう言ってアンは机の上にあった剣を机の上に置いたまま、オリバーに向かって押し進めた。

「ありがとうございます」

 オリバーは剣を受取ると持ち上げてその重さを確かめている。

「一応アンタの事は匿ってやるけど働かざるもの食うべからずだ。ギルドの依頼はこなしてもらうよ」

 オリバーは経緯上お尋ね者扱いになっている。お尋ね者とは言っても国に所属する騎士団から追われているのみで、幸いにもギルドからの討伐依頼は出ていないため、この湯イオンで匿う事になった。

「ユニオンに加入するって事ですか?」

「そういうつもりは無いけど、周りからはそう見えるだろうね。でもアンタはお尋ね者だからアンタをここに匿ってるっていうのは公にする気はないよ。アタシらも騎士団と面倒ごとを起こす気はないからね」

 お尋ね者が滞在しているという事が騎士団の耳にはいれば、最悪騎士団がこの拠点に乗り込んでくる可能性もある。あくまでオリバーの存在は秘匿する方針のようだ。

「それだとあまり外に出ない方が良い気がしますが」

「そうだね、だからアンタの冒険者登録はこっちでやっておく。登録手続き中に騎士団と鉢合わせしたら目もあてられないからね」

「本人が登録手続きをやらなくてもいいんですか?」

「大規模なユニオンリーダーをやってると色々あるんだよ。そもそもギルド自体が魔族の隠れ蓑目的の組織なんだから、その辺の融通は利くように色々抜け道がわざと残してあるのさ」

 ギルドというのは現在は主に魔物討伐の依頼を斡旋する組織となっているが、その成り立ちは、魔界から人間界に移住してきた魔族が深く関わっている。

「それだと尚更俺が依頼を受けなくてもいいような気がしますが」

「ダメだよ。ソレの使い方も覚えてもらわないといけない。それには魔物と戦うのが手っ取り早いんだ」

 アンはオリバーが手に持っていた剣を指さした。

 冒険者登録をするのはオリバーをここに置く名目であり、オリバー自身が依頼をこなすのは冒険者登録をしても全く活動をしなければ怪しまれるからだとオリバーは思っていた。

だが先ほどの話で多少は融通は利くという事であったため、わざわざオリバー自身が活動をする必要はないような気がした、むしろ不必要に外部にでればその分騎士団と接触する危険性が増し、自分の首を絞めるだけではないのか。

オリバーはそう考えたのだがアンは騎士団との接触を避けるよりも、魔剣の使い方を優先する事の方が重要だと考えているようだ。

「ユニオンに属していない俺が依頼をこなすっていうのはアリなんですか?」

「ユニオンって言っても、ギルドに何か書類を出してるわけじゃない。冒険者同士でよくつるむ仲間を集めて勝手にユニオンって名乗ってるだけだよ。ギルドが一番気にするのは誰が依頼を受けるかってところだ。依頼達成後には、依頼を受けた奴に報酬をわたさないといけないからね。だからアンタがアタシらのユニオンメンバーが受けた依頼に協力したってギルドは全然気にしない。依頼を受けた代表者に報酬を渡すだけ。依頼が達成できれば細かい口出しはして来ないよ」

 主に魔物の討伐の依頼を出している組織をギルド、その組織から依頼を受ける者は冒険者と呼ばれている。

「さすがに俺が依頼を受けに行くのは不味いですよね?」

「そうだね、アンタの顔を知ってる奴がいるかもしれない。だから依頼はリリアが受けて、アンタはそこに同行するって形の方がいいだろう」

 ギルドの受付には多くの冒険者が集まる。中にはオリバーの顔を知る者もいるかもしれない。ギルドで賞金首になっている訳ではないとはいえ、お尋ね者である以上、不用意に人の多い場所に行くべきではないだろう。

「今の俺に丁度良い依頼ってありますか?」

 アンがサラに目配せをするとサラが持っていた紙を渡した。どうやら依頼内容が掛かれている紙のようだ。

「ああ、一応いくつか候補はあるんだけどね、吸血鬼の嬢ちゃんが仲間にいるっていうならこれがいいだろう。これは依頼じゃなくて賞金首討伐になるけどね」

 そう言ってアンが机の上に置いたのは言葉通り依頼ではなく、賞金首と賞金が書かれた討伐手配書だった。

「これって人間ですよね?」

 賞金首の似顔絵が掛かれているが、それはどう見ても人間だった。

「ああ、恐らく人間だ。嬢ちゃんはこいつについて何か知らないかい?」

 先ほどから退屈そうに足をブラブラさせながら話を聞いていたヴァネッサは急に話を振られて体を強張らせた。彼女はシスターの服装を身に着けているが吸血鬼である。アンの言葉からするに吸血鬼にゆかりのある人物なのかもしれない。

「ネクロマンサーのガエラでしょ」

「ガエラ?」

 オリバーは思わず名前を聞き返した。

「アンタも聞いた事あるのかい?」

「騎士団で噂をきいただけですが、確か近隣の住民から墓荒らしとして騎士団に訴えが多く寄せられて騎士団が取り押さえに行ったものの、向かった騎士数人が返り討ちにされて行方不明者が出たとか」

「その通り。嬢ちゃんが聞いてるのは名前だけかい?」

「そーよ。こいつと吸血鬼は無関係。あたしの知る限りではね」

 アンの言葉に棘があるような気がしてオリバーが口を挟んだ。

「この人と吸血鬼がどう関係するんですか?」

「グールだよ。」

「グールってあの人を食べるグールですか?」

「そうだ。グールの特徴は人を食べるだけじゃない。もう一つあるだろう」

「死んだ人間?」

「そう。そしてグールの作り方は二つある。一つは死体を死霊術で疑似的に蘇らせる事。もう一つは生きた人間が吸血鬼に咬まれる事。だからグールが出た場合、死霊術を使うネクロマンサーか、吸血鬼かの両方の可能性を考える必要がある。」

「今回は手配書のこのネクロマンサーがグールを作ったって事ですか?」

「アタシはそう願ってるよ。最もさっき話した通り、魔族の取り決めで人間を殺してまで食べるのは禁忌としている。だから万一吸血鬼がグールを作ったなんて事になったら取り決めを破った者として処罰しないといけない。最悪の場合吸血鬼が種族で結託してなにかしてるっていうなら話がややこしくなる」

 それは言い換えるならばアンは事件の背後に吸血鬼が絡んでいる可能性を疑っているという事だ。

「えー、あたしの前でそれ言う? あたしは知らないって言ってるでしょ」

 露骨にヴァネッサを疑うようなアンの物言いに、ヴァネッサが不満を口にした。この様子ではヴァネッサが知らないと言っているのは本当のようだ。

「今回は嬢ちゃんの話を信じるとして、吸血鬼ではなくこの手配書のガエラ単独でグールを作って悪さをしてると仮定しよう」

「なんかまだ言葉に悪意がある気がするなー」

 ヴァネッサの抗議は無視してアンは説明を続ける。

「こいつがもともとオータムに住んでいたが、さっきオリバーが噂で聞いたという騎士団との一件があってからは家には戻っていないらしい。でも私はまだ近くにいると考えている」

 そう言いながらアンは、机の上に置かれている手配書を人差し指でトントンと叩いた。

「どうしてですか?」

「死霊術の研究をするには死体が必要だ。でも死体が安定して手に入れようとして、生きた人間を殺すというのはリスクが高い。抵抗される事もあるし、最悪自分が返り討ちだ。恨みがあって誰かを殺すんじゃなく、研究材料として人間の死体が欲しいだけなら、わざわざ生きてる奴を殺すより、既に出来上がってる死体をどこかから調達するほうが安全で確実だ」

 あまり考えたくない話ではあるが、このガエラという男には既に墓荒らしの前科がある。という事はこの男が次に取るであろう行動は、アンの推理通りだとすると一つである。

「オータムで墓荒らしを、その内やるって事ですか?」

「ああ、そうだ。下手に探し回るより、オータムの村で張り込んでた方が確実だろう。分かったら早く行きな」

「討伐の依頼は受けなくていいんですか?」

「ガエラは賞金首だ。依頼を受ける必要は無い。ただ倒してその証拠を持ってくれば報酬がもらえる。生死は関係ない。賞金首っていうのはそういうシステムだ。ギルドが任意で出す討伐依頼とは別物さ」

 賞金首というのは、討伐すればギルドから報酬が貰える人物であると同時に、討伐しても殺人に問われない人物という事になる。

 ギルドは大規模な組織ではあるが国営の組織ではない。よってギルドの独断で一人の人間を賞金首として指名する事は問題があるため、国から許可をもらう必要がある。よってギルドから賞金首として手配されるような人物は殺人や強盗など、放置すると一般市民に甚大な危害を加えるような犯罪を犯すような危険人物が多い。

「俺が倒しても問題無いんですか?」

 ギルドに登録された冒険者には等級が付与されそれに合わせた依頼を受けることが出来るという話をオリバーは聞いたことがあった。

 オリバーはまだ冒険者登録すらしていないため、先ほどアンが言ったとおりアンで手続きをしてくれるのだろうが、登録間もない冒険者が賞金首と戦ってよいのだろうか。

「大丈夫だよ。賞金首と戦うのに等級も登録時期も関係ない。何しろどこにいるかが舞う分からない相手なんだからね。偶然遭遇する場合も考えて誰が倒してもいいようになってるのさ。そのせいで自分と相手の力量が分からない奴が無謀な戦いをする事もあるんだけど、相手が人間のネクロマンサーなら、この三人で行けば勝てるさ」


次話は4/1に投稿予定です。

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