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肉食系ヒロインに食べられました  作者: 月ノ裏常夜


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[2-13] 立場

 ガエラの捜査活動も兼ねて、騎士団によるガエラの屋敷の焼け跡の撤去が行われた。掘り起こされた地下道の捜索も行われて。地下道からガエラと思われる死体が発見された。首から上が無くなっている事から、オリバー達一行があの後にガエラを倒し、ギルドへの提出用に持ち去ったのだろう。

 こうしてミランダは当初の目的であったガエラの討伐と、行方不明者の捜索が終わった事で一区切りがついたため、一度家に戻っていた。

「ただいま戻りました」

 別に父に会いたくて家に戻ったわけではない。だが、たまたま廊下で顔を合わせてしまっては素通りすると事もできなかった。

「任務はどうだ?」

「ガエラは殺害されました。騎士団ではなく冒険者の手によって。行方不明であったジュバルツは、残念ながらグールとされていましたが、亡骸は回収しました」

「ガエラを討伐した冒険者というのは誰だ?」

「オリバーです」

 その言葉に父が息を飲むのがミランダにも分かった。ミランダ自身あの場でオリバーと再会するとは思っていなかったのだ。驚いて当然だろう。

「奴の様子はどうだった?」

「いつの間にか魔術が使えるようになっていました」

「何?」

 父が眉間にしわを寄せた。父である彼ですらオリバーが魔術を使うところは見た事が無かったのだ。

「何故驚くのです。悪魔付きですよ。それぐらいできても不思議はない。それとも父上はオリバーが悪魔付では無かったと思っているのですか?」

 聞かずともミランダはその質問の答えを知っている。

「奴は捕縛したのか?」

「逃げられましたよ。残念ながら」

「戦ったのか?」

「いいえ、ガエラを追っていたところ鉢合わせしただけです」

「鉢合わせしたのに見逃したのか?」

「そんな訳ないでしょう。投降を促しましたが、建物が崩れて我々騎士団は建物の正面入り口から脱出、オリバーは建物の地下室に逃走し、その地下室には別の出口があったという顛末ですよ」

「投降を促したのか?」

「当然でしょう。問答無用で殺すなど騎士のする事ではありません」

「結果的に逃げられたのだろう?」

「それは結果論です。彼には仲間がいた。強硬策を取ればこちらに被害が出た可能性もある。それに彼らも我々と戦う意思があった訳ではない。彼らもガエラを追ってあの場所に居たのですよ。それを一方的に攻撃するなど笑いものになるだけですよ」

「本当にそれだけか?」

 度重なる質問に、ミランダは嫌悪感を示しつつも、その言葉の裏にある父の真意を察する。 

「相手がオリバーだから。私が情けを掛けて見逃したというつもりですか? あの場にいたのは私だけではない。他の者からも話を聞けば直ぐに真偽はわかりますよ。あの場ではあれが最善だった。炎上する屋敷の中で強引に、武器を持ったお尋ね者を取り押さえられるかどうかは怪しい。取り逃がした上に、こちらに死者が出たという最悪の可能性になっていた事も考えられる。その方が良かったですか?」

「そういう事を言っているのではない」

 父は否定するが、父の態度に嫌気がさしていたミランダの口は止まらない。

「今回騎士団側に死傷者は出ませんでした。オリバーはあくまでガエラを追っていたら騎士団と鉢合わせしただけ。だから彼の扱いは今まで通り騎士団内ではお尋ね者扱いで、ギルドに依頼して賞金首にするには至らない。もしもオリバーが騎士団に被害を負わせるような事があれば、彼を賞金首にする丁度いい口実になっていた。父上にとってはその方が都合がよかった。違いますか?」

 例え騎士団に犠牲が出たとしても、オリバーが騎士を殺したという規制事実が出来てしまえば、大がかりな捜索や、賞金を懸ける口実が出来る。きっと父にとってはその方が都合がよかったのだろう。

「そこまでは言っていない」

 案の定父はそれを表面上は認めようとしない。だが先ほどからオリバーの逃亡を気にしている事、ミランダがわざと逃がしたと疑っているとしか思えない態度からして、ミランダは今の予想が間違っているとは思っていない。

 ミランダは言いたいことを言ったついでに、今まで聞こうと思っていた事を、ついでに質問する事いした。

「父上は、悪魔憑きになったオリバーと話したのですか?」

「裁判で証言を聞いたが、話す機会はなかった」

 その発言は怪しいものであった。父親であり、騎士団長という立場であるならば話す機会すら作れなかったというのはあり得ない。意図的に避けたのだろう。だが今議論すべきはそこではない。

「私は話しました。思考は正常でしたし、記憶もあるようです。本当に殺さなければいけないのですか?」

「悪魔憑きだぞ。殺すのが当然だ」

「悪魔憑きとは何ですか? 特殊な力を持っている? それは魔術と何が違いますか? 魔術師は全員悪魔憑き? 違いますよね? 『悪魔憑き』なんてただのレッテルでしょう。皆の悪意を引き受ける体のいい生贄にするための」

 精神に異常をきたした者を悪魔に取り付かれた者、『悪魔憑き』と呼び、存在もしない悪魔のせいにしている事は少し考えればわかる事であった。そして直にオリバーを見たミランダからすれば、オリバーを『悪魔憑き』と呼んで煙たがる父の態度はどうしても納得できなかった。

「お前は今の情勢が分っているのか? 魔物の被害が増えたせいで皆魔物におびえている。だからこそ戦う力の無い者は魔物への恐怖を憎しみに変えてぶつける矛先を求めている。それの丁度良い矛先が悪魔付きだ。憎しみの源が魔物である以上、魔物の活動が収まらない限り、悪魔憑きに対する憎しみは消えない。それなのに一族から悪魔付きがでて、未だ生きた状態でどこかを放浪しているという状況がどれほど危険かわからないのか?」

「それはつまりオリバーがまともな精神状態で、正常な会話が成り立つにも関わらず一度悪魔憑きのレッテルが貼られたから殺すという事ですか?」

「認識印が消えた理由が説明できない限り、オリバーを救うのは無理だ。下手に庇えば血の繋がっている者も悪魔憑きに違いないという邪推をする者が出て来る。殺すのが最善の策だ。見つけたのならば、追ってでも殺すべきだった」

「ガエラが死んだというのも後になってから分かった事です。あの場で深追いするのは愚策という物です」

 あの時点でオリバーを追えば良かったというのは、ガエラが死んでいたという事と、地下に他に抜け道があったという結果が分っていたからこそ言える事であり、ミランダはあの時点の判断を間違っているとは今も思っていない。

「もう奴を追うな」

「追ったのではありません、騎士団の任務中に遭遇しただけです」

 ミランダからすれば、行方不明者捜索のためにガエラを追っていたところ、オリバーに遭遇したに過ぎない。

「ではまた会う機会があったらどうする気だ?」

「同じことをしますよ」

「いいか、あまり奴と接触するとお前まで悪魔憑きの疑惑がかけられる。相手を逃げられているという現状では猶更だ」

「そんなにもオリバーを殺したいのですか?」

「お前の身を考えているのだ」

「父上は自分の保身を考えているだけでしょう。正直に言ったらどうですか。『自分が疑われる前にオリバーを殺してほしい』と。保身の口実に私を使わないでもらいたい」

「私は…」

 何かを言いかけるが、良い言葉が浮かばなかったのか途中で口を噤む。

「すいません言い過ぎました。失礼します」

 父の返事を待たずミランダは自室へと足を進めた。

 足早に廊下を進み、階段を上がって自分の部屋に入り扉を閉め、鍵をかけてから大きくため息をつく。

 父が家の事を考えているのも分かる。それでもオリバーを殺すというのはどうしても承服できなかった、

 それにこの前あった時のオリバーの言動に対してミランダは思うところがあった。

 あのオリバーはミランダの知るオリバーであった。記憶もあり、思考も正常だ。つまり父が主張している本人は死に別の悪魔憑きが成り代わっているという説は、とても信じられないし、あのオリバーが仲間殺しをして逃亡しているというのもまた同様に考えられなかった。

 そうなると腕の認識印が消えた理由が分からないが、もう一つ気になる事がある。

 あれは明らかに何かを隠している。あの場で話せなかったのは、他の騎士団員がいたからか、自分が信用されていないからなのか。

 ともあれ何かしらの理由があって腕から認識印が消えてしまった、あの場では話せない事情があったと考えると辻褄があう。

 もしも二人で会う機会があれば、何があったのか話してもらえるのだろうか。一緒にいたあの三人の仲間は何か事情を知っているのだろうか。ずっと騎士団に居たオリバーがすぐに協力者を得るというのは考えにくい。いったいどのような事情であの四人は協力関係となったのだろうか。現状ミランダにとっては不可解な事だらけである。

 それでもオリバーは生きているというのは紛れもない事実であり、謎を解くカギになるのは間違いない。

「大丈夫、話に来ただけだから」

 その声が聞こえた同時、立ったまま体が動かせなくなっていた。

「オリバーを取り返したら、どうするつもり?」

 声の主が質問してくる。後ろにいるのだろう。

「お前、一体…」

かろうじで声は出せた。しかし大人しく質問に答えて良いものか。

「人が来る前に済ませたいから、早く答えて」

 首は動かせないためその姿を見る事はできないが、声からして恐らくは女、しかも子供だろう。一体どうやって入ったのか。しかも一瞬でこちらの動きを封じるというのは並み人間に出来る事ではない。

「お前に話す事などない」

 騎士と言う職務は死の危険と隣り合わせである。まさか自室で死ぬとは思っていなかったが、ミランダは死の覚悟をしつつそう答えた。

「そういう態度だと、オリバーに何するか分からないよ?」

 相手の正体は分からない。だがミランダの部屋に忍び込むような者の言う事だ。ただの脅しと決め付ける訳にはいかない。

「真実を確かめる。本当に悪魔憑きになったかどうかを」

「ふーん、今の脅しで口を割るって事は、オリバーは傷付けられたくないんだ」

「弟だぞ。身を案じるのがおかしいか」

「悪魔憑きかもしれないのに?」

「まだ決まっていない」

「じゃあ本当に悪魔憑きだって分かったら?」

「それを今確かめようとしている」

「だから、本当にそうだったらっていう、仮定の話」

 声の主に敵意は感じられなかった。一方的に動きを封じられているという状況から、相手に気を許す気にはならないが、本当に話をしに来ただけなのかもしれない。

 ミランダ自身、真実を確かめたいと言う考えがあるのは間違いではない。その結果として本当にオリバーが悪魔憑きだったと分かったらどうするのかというのは、言われるまでもなく考えていた。

「その時は、私がこの手で殺す」

「覚悟はしてるんだ」

「考える時間はいくらでもあった」

 ミランダは元々悪魔憑きの存在自体に懐疑的であり、先日オリバーの姿を見てからは、オリバーが悪魔憑きである可能性はほぼ無くなったと考えている。それでも万が一オリビアーが本当に悪魔憑きであったらどうするかという点についても、考える事は何度もあった。

「じゃあ悪魔憑きじゃなかったら?」

「騎士団に復帰させる」

「それは無理だよ」

「何故だ?」

「見たでしょ? 魔術使ったの」

 声の主がいう魔術と言うのは、グールを倒した風魔術の事だろう。

「あれが何か知っているのか?」

「まあね」

「オリバーは悪魔憑きなのか?」

「あたしから見ればただの人間。今はね」

 色々と含みのある言い方であるが、一番気にかかったのは最後の一言だ。その言い方ではまるでこれから悪魔憑きになるかもしれないと言っているようなものだ。

「お前はこれからオリバーを悪魔憑きにするつもりなのか?」

「それを決めるのは、あたしじゃないよ」

「では誰が決める?」

「それはヒミツ」

「お前はそれを望むのか?」

「あたしは、にーさんには人間のままでいてもらったほうが都合がいいよ」

「にーさん? オリバーの事か?」

「そうだよ。本人の前ではそう呼んでる。あたしはにーさんに死なれたり、騎士団に捕まったりすると色々面倒なんだよね。だから騎士団に、にーさんを渡したくない。かといって騎士団の追跡を振り切るためとはいえ、あなたを殺すとにーさんとの関係が悪くなりそうだから、あんまり追ってきて欲しくないんだよね。この前も殺さずに済ませるの大変だったんだよ」

「この前、あの場にいた仲間か?」

 本人の事をにーさんと呼んでいるという事は、今も行動を共にしているという事なのだろう。

 そういえば仲間の三人の内一人はシスター服をまとった子供がいた。あの子供が今の声の主なのか。いや、それよりも殺さずに済ますというのは、その気になればあの人数の騎士団を殺せたと言っているのか。不意打ちとはいえ、完全にミランダの動きを封じる事が出来る実力があるのであれば、ハッタリや大袈裟と済ませる事はできなかった。

「だから、これ以上にーさんを追い掛け回すの辞めてもらいたいんだけど」

 声の主は先ほどのミランダの質問には答える気は無いようだ。

「この前のはガエラを追っていたら偶然遭遇しただけだ。あいつを追ったわけじゃない」

「それは、これからも追うつもりは無いって事?」

「騎士団の任務次第だ」

 騎士団からの扱いとしては、オリバーは今もお尋ね者である。今の情勢下ではお尋ね者の捜索よりも、対魔物の任務が優先されるためそうはならないとは考えているが、今後オリバーが騎士団に被害を出すような事があればオリバーの討伐任務が課されてもおかしくはない。

「じゃあ、騎士団ににーさんを追跡させるのを辞めさせるにはどうすればいい?」

「悪魔憑きではないという証拠を見せればいい」

「それって、腕の認識印が消えた証拠って事?」

「そうだ」

 オリバーが悪魔憑きと言われている一番の原因は腕の認識印が消えた事であるため、その理由さえ判明すれば悪魔憑きではないと証明できるとミランダは考えていた。

「それは無理だよ」

 だが声の主はあっさりとそれを否定した。

「オリバーの認識印が消えた理由を知っているのか?」

 あまりにもあっさりと無理と断言するという事は、無理と判断する理由を知っているのだろう。

「うーん、そこまで教えるのは無理かな」

 教えられないという事は裏を返せば知っているというのと同義である。やはりミランダの予想どおり、この声の主は何か事情を知っているようだ。    

「お前は何を知っているんだ?」

 ミランダが望むような回答は来ないと思っていたがが、それでも、そう聞く事を止める事は出来なかった。

「んー、そうだね、例えばもうすぐあなたの体が動くようになる事とか」

「何?」

 言われてみれば少しずつ体の感覚が戻りつつある。指先を少し動かす程度であれば出系る様になっていた。

「それからあれがガエラの使い魔っていうの、嘘だって事とか」

「嘘? どういう事だ?」

 返事は返って来ない。

 少しずつ感覚の戻りつつある体を動かし、ゆっくり後ろを振り返ると、そこには既に誰もいなかった。

次話は6/24に投稿予定です。

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