第3話、新学期と誕生日②
学校での一日を終えて放課後だった。始業式直後の授業という事もあって普段よりもやんわりとした内容で、それにストーブで暖まった教室の空気が眠気を誘う。うつらうつらとしたまま過ごしていると、あっという間に学校での一日を終えて放課後だった。
その眠気もあってふんわりと浮ついていた気持ちも落ち着いて、途中からは普段どおりのまま過ごす事が出来た。ただ放課後になってから俺の誕生日パーティーが近付いてきているのを実感してしまって、朝の時の気分に逆戻りである。
今はちょうど上着を羽織って帰り支度を済ませようとしていた所だった。他の生徒達が教室を出ていく一方で、ユキが秋奈にスマホを見せていて、優しく微笑みながら話している事に気が付いた。
「二人とも、何しているんだ?」
「ふふ。いえ何でもありませんよ、晴くん」
「そうそう。気にすることないよ、晴。あはは、可愛いねこれ」
「その感じだと余計に気になるんだけど……」
果たして一体何を見せ合っていたのか、まるで何かを愛でるような優しい微笑みだったので可愛い動物の写真でも見ているんだろうかと思った。覗き見してみようかと顔を寄せるとユキは慌ててスマホを片付ける。
「晴くん、見ちゃだーめ」
「そうだよ、晴。覗き見は良くない」
「いやなんか凄く楽しそうに見てるからさ。俺も仲間に入れてもらおうと思って」
羨ましそうに二人を見つめると、ユキと秋奈はくすりと笑って見つめ合う。何を企んでいるのかと思っていると、二人も上着を羽織って鞄を手に取った。
「さて、それじゃあみんなでそろそろ行きましょうか」
「だね。本当に楽しみだ、放課後が待ち遠しくって」
「行くって何処にだ?」
「もちろん晴くんの誕生日パーティーの会場ですよ」
「パーティーの内容は全部秘密だったから晴は知らないんだよね。色々と用意していたんだよ、場所選びから本当に色々ね」
「校門に迎えが来ています。待たせているのも悪いので移動しましょう」
二人は楽しそうにニコニコしながら移動を始める。一体何処に行くというのか、全く想像がつかない俺は首を傾げつつ後に続いた。
それから雪の降る校門へと辿り着く。既に他の生徒は下校を済ませて人影はない。
そしてその先で目にしたのは以前に見た事もある乗用車だった。もしやと思っているとユキと秋奈の二人は車に近付いていてく。
運転席の窓が開いていって、そこから顔を出す人物を目にして俺は驚く他なかった。相変わらずの優美な笑みを浮かべながら、小さく手を振るのはユキの母親である深冬さんだった。
「晴ちゃん、やっほ」
「み、深冬さん……?」
「寒いでしょう、どうぞ乗ってください。誕生日パーティーの会場にまで案内しますね」
「お母様、準備の方は?」
「出来ていますよ、今日はちゃんと会社の方もお休みしておいたので」
「白鳩さんのお母さん、今日はよろしくお願いします」
「秋奈さん、一緒に晴ちゃんをいっぱいお祝いしましょうね」
ユキは助手席へ、秋奈は後部座席へと乗り込む。俺は戸惑いながらも車の中に入って、秋奈の隣でシートベルトを締めた。室内は暖房が効いていて、ふわりとした香水のような甘い匂いが心地良い。
それにこの3人が俺の誕生日を祝ってくれる為に、今までずっと準備をしてくれていたのだ。そう考えるとわくわくとドキドキが止まらない、既に胸の中はいっぱいだった。
そして車はゆっくりと動き出す。向かう先が何処なのかを気にしながら、車内で聞こえる3人の会話に耳を傾ける。今日の朝の出来事から始まり、今までの事など色々と話題は尽きないのだがパーティーの内容に触れようとしないのは俺への配慮なのだろう。
さて。
一体どんなサプライズが待っているのか、それを楽しみにしながら俺は窓の外で流れる景色に視線を移した。
 




