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第3話、新学期と誕生日①

 学年の締めくくりの三学期の始まりは、しんとした雪の降る日に行われた。


 のんびりとした冬を楽しめた長い年末年始の休みが明け、新学期の始まりを迎えた俺達。肌寒い空気が包む体育館の中で、制服の下に厚手のカーディガンを着込んだ生徒達が身体を小さくしていたのを見た。


 始業式が終わると生徒達は教室のストーブの前に集まって冷えた体を寄せている。それからは暖を取る生徒達で各々がどのように冬休みを過ごしたかなどを話し合っていた。


 その中で注目を集めるのはユキと秋奈の二人で、彼女達の過ごした年末年始の内容が話題の中心になっていた。


「ねえねえ白鳩ちゃんや秋奈ちゃんってクリスマスは何して過ごしたの?」

「二人とも初詣は行ったのかしら? 二人って振り袖姿とか似合いそう」

「今年は雪が凄かったよねえ。白鳩ちゃんや秋奈さんも雪かきとかしたのかな?」


 そんな質問が飛び交う中で、ユキと秋奈の二人は微笑みながら答えを返す。やんわりと冬休みに過ごした内容を伝えるが、二人は俺と一緒に居たという内容は伏せている。というのも学校のアイドルである二人が俺と冬の間も一緒に居た事を周囲に知られたら、俺へのやっかみが酷くなりそうなのでその配慮だ。


 新学期から浮ついている生徒達の楽しい会話を聞きながら、机に伏せて窓の外を眺めた。こんこんと降り積もる白い雪の粒を見つめながら小さく息をつく。


 冬休みはあっという間だった。


 ユキと秋奈のサンタコスは決して忘れないし、大晦日にユキが用意してくれたご馳走は最高に美味しかった。それからユキと秋奈との初詣、今年は生まれて初めて『大吉』のおみくじを引けたのが嬉しくて今も財布にそのおみくじを忍ばせているし、風邪を引いて寝込んだ日々も良い思い出だ。


 今年の年末年始は過去最高だったと言っても良い。それくらいに幸せな毎日が続いていたのだ。そして今日もその幸せな毎日がまた花開く事を俺は知っている。


 今日、1月7日は――俺の誕生日。


 新学期と同時に迎える誕生日、中学の頃は実に複雑な感情が入り混じっていたのを覚えている。親からはクリスマスが近いという事もあって誕生日プレゼントとクリスマスプレゼントを一緒にされて、大晦日のご馳走でお金を使い果たしたのか食事の方でも盛大に祝われた事はない。


 なので去年の誕生日は歳を重ねたと同時に学校が始まるだけ、というあまり嬉しくない感覚しかなかったのだが――今年は違う。


 何せユキと秋奈の二人が『誕生日は盛大にお祝いしてあげる』と約束してくれたのだ。秋奈は以前に伝えた俺の誕生日をしっかりと覚えてくれていて、ユキは数年ぶりの俺の誕生日を祝える事をそれはもう楽しみにしているようだった。朝からうきうきとした表情を浮かべているのを何度も見た程だ。


 しかし、そのパーティーの内容は伏せられている。俺を楽しませる為にサプライズを用意してくれているようで、俺もそれに期待して胸の高まりを抑えられないでいるのだが、クリスマスで見せた露出度の高いサンタコスのようなサプライズがあるのかないのか――それがかなり気になっていた。


 そうして窓の外の雪模様を眺めながら妄想を膨らませていると不意に声をかけられる。


「落ち着かない様子だね、晴」


 さっきまでストーブで暖を取っていた秋奈から声をかけられた。俺の隣でにこやかに笑う様子を見上げる。


 休み明けという事もあって騒がしいクラスの喧騒の中で、秋奈は普段から変わらない冷静な様子で俺を見つめる。いつもの俺がどんな様子で学校生活を過ごしているかを良く知る秋奈だからこそ、俺が誕生日パーティーを楽しみにしてそわそわしていた事に気付いたのだろう。


「べ、別に。今日も寒いなあって思ってたくらいだ」

「ふふーん。誤魔化さなくたって良いのに、ボクらだって今日の為に色々と準備してきたんだから」


 くすりと笑って言う秋奈を見ていると、クリスマスのサンタコスを思い出して目が泳ぐ。


「そ、その……今から聞くのはルール違反かもしれないけど。着替えとかは用意してないんだよな……?」

「着替え? お泊りじゃないからその必要はないと思うよ」

「いや、そういう事じゃなくてさ……ええと」


 言葉足らずで伝わらなかったか……。クリスマスの時のようなサンタコスに着替えて、パーティーの途中で可愛らしい衣装を披露するような事はないよな? と聞きたかったのだが、それを聞いたら期待しているんじゃないかと思われてしまいそうで口に出せない。


「秋奈さん。晴くんはきっとクリスマスの時に着たあれの事を言っているのかもですね」


 ストーブの方から席に戻ってきたユキは優しく微笑む。秋奈も席に座るとこちらの方を向いて、俺のテーブルの上で頬杖をついた。ストーブに集まる生徒達はユキとの会話に満足したのか別の話題に集中しているようで、それを察してこちらに戻ってきたのだろう。俺達が話している事にも気付いていない。


「なるほどね、晴の言っている着替えってそういう意味だったのかい」

「あ、ああ。あれは本当にびっくりしたからさ」

「でしょうね。あたし達を見て驚いていた晴くんの顔を今も覚えています」


「大丈夫だよ、晴。あれを思い付いたのって立夏だし、今回は初めからボクと白鳩さんの二人で準備しているしさ。流石に恥ずかしかったからね、あの格好は」

「ですね。着るのにも勇気が必要でした。詳しい内容はお伝え出来ませんが、別のサプライズで晴くんを喜ばせられたらって思います」


 二人の話す内容にほっと安心する気持ちもある一方で、あんな衣装を着る二人を見てみたかったという残念な気持ちもあったりする。そんな複雑な感情を見透かすように、ユキはあの妖しい笑みを浮かべて耳元で、前の席に座る秋奈にも聞こえない小さな事で囁く。


「でも、晴くんが……見たいっていうなら、あたしはどんな格好でもしてあげますよ」


 耳に触れた彼女の吐息と共に、どきりと心臓が跳ね上がる。まさか学校でも彼女があの妖艶な笑みを浮かべてこんな事を言ってくるとは思っていなくて、今のは完全に不意打ちだった。艶やかな唇が紡いだその言葉が頭の中で響いて、身体が急に熱くなっていくのを感じる。


 慌てる俺の反応を楽しむかのようにユキはまたくすっと笑い声を漏らす。何も言い返せずに机に視線を落とす俺と、不思議そうに首を傾げて見る秋奈、悪戯っぽく笑うユキの3人でホームルームの始まりを告げるチャイムを聞くのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ユキちゃん夏に未発表の際疾い 水着姿を魅せてくれるかもね? 買ったままだけど晴だけの水着を! 実は秋菜の分もあったりして? 色違いが!
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