第3話、始まる高校生活①
昨日の夜は全く寝れないまま、風呂場での出来事が頭から離れなかった。
下着姿のユキ、彼女が恥ずかしがりながらも俺の背中を綺麗に洗い流してくれた事。そしてそんな彼女が隣の部屋で眠っている姿を想像すると、心臓の高鳴りは止まらなかった。
助けてくれた恩返し、あなたに尽くすと言ってくれたのは嘘ではない事を知った。夕食に使われた食器も綺麗に片付けられて、彼女はお風呂から上がった後も浴槽を綺麗に洗ってくれた。
朝になってからもそうだ。ユキは俺を起こしにやってくる、朝食だけじゃなく昼食の為にお弁当まで用意してくれた。昨日脱いだ服も綺麗に洗濯されていて、他の衣類も丁寧に畳まれていた。キッチンに積んでいたゴミ袋も綺麗さっぱり無くなっている。
俺の世話を焼いてくれるだけじゃなく、自分の支度もしっかり整える姿には感心したし、そんな彼女と肩を並べて学校へと向かえる事が嬉しかった。
授業で分からない事があれば何だって教えてくれるだろう。昼休みになれば二人で並んで彼女の手作り弁当を食べる。そして放課後になれば今のようにまた肩を並べてマンションへと帰るのだ。
俺の隣を歩く制服姿のユキは、朝の日差しよりもずっとずっと眩しく見えた。
「なんか……まだ夢を見続けてるみたいだ。ユキと再会出来た事もそうだけど、一緒に暮らすだなんてさ」
「あたしもそうですよ。晴くんとこうして一緒に居られるなんて夢を見ているようです」
ユキはそう言って嬉しそうに笑ってみせた。
その笑顔を見て胸が熱くなるのを感じる。
「学校でもまた仲良くしてくださいね。勉強で分からない事があれば何でも聞いてください、どの教科でも遠慮なく」
「そうさせてもらうよ。小学生の頃もそうだったけどさ、相変わらず勉強はあんまり得意じゃないから。この高校に入れたのも3年間必死に勉強してギリギリだったし」
そうやって話をしながら、俺達は桜が咲き誇る並木道を抜けて校門に辿り着く。
校門の向こうは朝から騒がしい。新入生を部活動に勧誘しようと集まる先輩達と、それに興味津々な新入生達が集まっている。
俺はその光景を見て立ち止まっていた。
新しい高校生活が始まるのは正直言って怖かった。
昨日までは校門の向こう側に足を踏み入れるのが不安で仕方がなかった。
クラスメイトとは仲良く出来るのか、勉強は上手くいくのか、色んな不安に押し潰されそうになっていた。けれどユキがそんな暗がりに居た俺を明るく照らしてくれる。
校門の前で立ち止まっていた俺に向けてユキは手を差し伸べて、俺の瞳をじっと見つめながら優しく微笑んだ。
「晴くん、一緒に行きましょう」
彼女の言葉が俺の背中を押してくれる。
手を引いて前へと進ませてくれる。
「ああ、行こう」
ユキが傍にいてくれる。不安は消し飛んでいた。
俺はユキと一緒に校門の向こう側へと足を踏み入れる。