第10話、クリスマス③
部屋の飾り付けは順調だった。
引っ越した後で生活感のなかった俺の部屋が、きらきらとしたクリスマスツリーに色鮮やかなモール、そしてリースやらトナカイの装飾やらが飾られて一気に華やかになった。ユキはそんな部屋を眺めながら、満足そうに笑みを浮かべる。
ユキのセンスは流石だ。
俺が同じものを使って飾り付けをしても、こんなふうに映えるものにはならなかったと思う。クリスマスツリーの飾りも上手でセンスがあって、思わずスマホで写真を撮ってしまっていた。
「これなら明日、秋奈と立夏も喜んでくれそうだな」
「はい。綺麗に飾り付け出来ましたね、良かったあ」
「ユキに手伝ってもらって助かったよ。俺一人じゃこんな綺麗な飾り付けは出来なかった」
「晴くんが居たから出来たんですよ。天井の飾り付けだって、あたしの身長だと椅子を使って手を伸ばしても届きません」
「ユキは小さくて可愛いからな」
「もう、晴くんったら」
照れを隠すように笑みを浮かべるユキ。
「そもそも天井を飾るなんて発想が凄いよ。俺には思い付かなかったな」
「思い付いてもあたし一人じゃ出来ませんでした。晴くんのおかげです」
「つまりは持ちつ持たれつ、二人の手柄って事か」
「はい。あたしと晴くんだから出来た事です」
彼女の頭をそっと撫でると気持ち良さそうに目を細めて、猫のように可愛い声を上げる。彼女は昔からこういう性格だ。何事も自分の力だけではなく、誰かが居てくれるから、協力し合う事で成し遂げる事の大切さを知っている。
そんな彼女との共同作業は楽しいし、一緒にいるのはとても心地良いものだ。だからこそユキが包帯を巻いていて顔も知らなかった頃から、その優しい内面に触れて彼女を好きになったんだとしみじみ思う。
綺麗に飾り付けも出来たし、頭を撫でていたらユキも甘えん坊になっているので夕食が出来るまで構ってあげることにする。
ベッドに座って手招くと、ユキは嬉しそうにくっついてきた。
「よしよし、ユキ」
「晴くん、にゃあにゃあ~」
ぴたりと寄り添うユキの頭を撫でながら抱きしめる。するとユキも抱きしめ返してくれるのでそれがまた可愛らしい。ユキからは良い匂いがして、温かくて柔らかくてとても癒される。
「晴くんとイブの日を一緒に居れて幸せ」
「俺もだよ、幸せだ」
こうして甘々な時間がずっと続けば良いなと思っていたのだが、それは唐突に終わってしまうのだった。足音は聞こえなかった、ノックもせず突然開く扉を見て、ユキと二人で固まった。
母さんだった。
部屋の中の光景――俺とユキが抱き合っている姿を見た母さんは、手で口を抑えながらその向こうでニヤニヤと笑っていて、それに気付いた俺とユキは咄嗟に体を離す。
「か、母さん!?」
「あらあらうふふ。夕食が出来たから呼ぼうと思ったんだけど、あらあらまあまあ」
「ノ、ノックくらいしてくれよ……! 足音だって聞こえなかったぞ!?」
「それはほら、二人がお部屋で何しているのか気になって忍び足でやってきたの」
「陰湿だ……いくら何でも……」
「うふふ、良いものが見れたわー。晴くんとユキちゃんがぎゅっとしてるとこ、微笑ましいわねー。最高よ」
母さんはウィンクしながら親指をぐっと突き立てて見せていた。
さっきしていた事を口で言われて、それがどうしようもなく恥ずかしく感じてしまう。俺は顔が真っ赤になっていて、隣に座っているユキだって同じだった。頬を赤くしたユキは照れを隠すように自分の指を絡ませて俯いてしまう。
「とりあえず夕食出来たから食べにくるのよー」
そんな俺達をよそに母さんはニコニコしながらリビングへと戻っていく。
「……と、とりあえずご飯食べに行くか」
「え、えっと……はい」
それから俺とユキは顔を赤くしたままリビングに向かい、二人で一緒にテーブルに着く。母さんと父さんも待っていて、数年ぶりの俺とユキと家族のクリスマスパーティーが始まるのだった。




