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第4話、生徒会長②

 生徒会室に訪れるのは初めての事だった。


 俺にとって学校での活動範囲は授業を受ける為の教室、体育の授業ではグラウンドか体育館、そしていつもユキと一緒に弁当を食べる屋上。何処にでも居るごく普通の一般的な生徒である俺が、学校中のエリートを集めたような生徒会室に用があった事は一度もない。


 俺からすれば遠い存在である生徒会。

 そんなエリート達が集う生徒会室の扉を前にして緊張してしまうのは自然な事。


 ユキと秋奈の二人が一緒に居てくれるから、心臓が飛び出す程ではないにしても、じっとりと汗がにじむのを感じていた。


「それじゃあ……入るぞ」


 俺の後ろにいた二人が頷いたのを見た後、ノックをして生徒会室の扉へと手を伸ばす。


「失礼します」


 扉を開けた向こう側は俺が想像していたよりずっと殺風景だった。くっついて置かれた長テーブルにパイプ椅子、何も書かれていないホワイトボード、色々な資料が敷き詰められた棚。狭い部屋を彩る唯一のものは綺麗に飾られた花瓶くらいなものだ。


 そして生徒会室には一人だけ。他の役員は今ここにいないらしい。


 窓際に立って外を眺めている彼女が振り向いた。


 金色の艶やかな髪を後ろに縛ったポニーテール、麗しい緑色の碧眼で外国人のような高い鼻と端正な顔立ちの少女。母親が外国人とのハーフらしく、彼女はいわゆるクォーター。その容姿は誰が見ても美人と評する程に整っており、まるで芸術品のように綺麗な彼女が、生徒会を取り仕切る学校きってのエリート『鶴ヶ峰(つるがみね) 時雨(しぐれ)』だ。


 文化祭の生徒会バンドではギターを演奏していた姿を良く覚えている。


 生徒会長は俺達が来た事に気づくとにこりと笑ってみせた。


「来てくれたのね。雛倉くん、お昼休みっていう貴重な時間を使わせて悪いわね」

「いえわざわざ生徒会長が呼んで下さったので。それにユキや秋奈からも頼みっていうのもあります」


「ユキさんと秋奈さんもありがとう。私に協力してくれて」

「お気になさらずです。あたしも文化祭の時は生徒会長からたくさんお世話になったので」

「それは私のセリフね。急遽ボーカルを頼む事になったのに、快く受けてくれたんだもの。文化祭ライブの成功もユキさんのおかげよ、本当にありがとう」


「ボクの方も生徒会長には立夏がいつもお世話になっているので、何かあればいつでも」

「立夏さんにお世話になってるのは私の方よ。あの子、仕事が早いから生徒会の活動でいつも頑張ってくれているから」


 そして一通り礼を言い終えると、生徒会長は俺の方を見つめた。


「それじゃあ早速本題に入ろうかしら。雛倉くんを呼んだ理由だけど、ユキさんや秋奈さんから聞いているわよね?」

「ええと、生徒会長が俺に興味が湧いた、とか。どうして俺なんかに? っていうのが正直なところですね」


 そう。正直なところ、どうして生徒会長からこうして呼ばれたのか分からない。学年の成績もユキや秋奈のおかげでようやく平均点、運動神経だってあるわけでもない。突出した何かがあるわけでもない一般的な男子高生である俺に、一体何があるのかと思っていると。


「私があなたを呼んだ理由はね、あなたの横の二人よ」

「ユキと秋奈?」


「そ。文化祭の準備の時に、口を開けばあなたの事を話していて。二人共よ、雛倉くんの良い所を二人していつも話しているの。それを聞いて興味が湧いたってわけ」

「え。準備の時にユキと秋奈が俺の事を……?」


 初耳だ。俺のいない所でそんな話をしていただなんて正直驚いている。俺の良い所って二人がずっと褒めてくれるような事、自分自身ではさっぱり思い付かない。そう思いながらユキと秋奈を見つめると恥ずかしそうに俯いて耳を赤くしていた。


 白い頬を朱色に染めるユキが口を開く。


「あ、あの……生徒会長、そのお話の内容は出来れば内密に……」

「ボクからもお願いしたいです……文化祭の準備の時は、ほら、晴がいなかったから出来ていたお話で……」

「確かにあれを面と向かって話すのは恥ずかしいわよね。内容は内緒にしておくから安心して」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろすユキと秋奈。


「まあともかくね。学校中の注目を集めるような二人が褒める雛倉くんに、私も興味が湧いたってわけ。私とも仲良くしてくれないかしら?」

「むしろ光栄なくらいです。期待に応えられるかは分からないですけど」

「そう言ってもらえて良かったわ。これからよろしくね、雛倉くん」


 こうして生徒会長とも縁が出来た事に感謝しつつも、ユキと秋奈が俺のいない所で一体何を褒めていたのか、生徒会長まで興味が湧いてしまったというその内容をつい気にしてしまうのだった。

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