第2話、文化祭④
文化祭、生徒会によるバンド演奏。
体育館には入りきらない程の人数が詰めかけ、大盛況のうちにユキの参加したグループの演奏が終わった。
鳴り止まない歓声の中、舞台袖へと戻っていったユキ。
そして生徒会のもう片方のグループが壇上に現れて挨拶をし始める。
生徒会のメンバーであり今日は裏方を任されている立夏から許可をもらって、俺はステージ横にある控え室へ秋奈と一緒にお邪魔させてもらっていた。
控え室には歌い終わって汗を流しながら、楽しそうな笑顔で生徒会のメンバーと話をするユキの姿があった。演奏中に着ていた彼女の黒いドレス姿、ステージ上でもその姿は輝いて見えたけれど、こうして間近で見ると本当に、ひたすらに綺麗だった。
フリルの付いた黒いドレスは彼女の肌の白さを際立たせるだけでなく、胸元や肩口、そして背中を大胆に露出したデザインで、彼女の持つ柔らかさを強調している。ただでさえ天使のようなユキがこんな可愛らしくて大胆な服装をしているのだ。ステージ上に立った彼女が多くの人達の視線を釘付けにするのは当然の事のように思えた。
ユキは俺と目が合うと、嬉しそうにこちらへと駆け寄ってくる。
「晴くん、秋奈さん! 来てくれていたんですね」
「ユキ、凄かったよ。さっきのライブはめちゃくちゃに感動した」
「ボクも見させてもらったよ。リハーサル以上の完成度だった、流石は白鳩さんだね」
「とても緊張していたんですけど、晴くんや秋奈さん、それに観客の皆さんが応援してくれたおかげで無事に歌い切る事が出来ました。ありがとうございます」
ユキはそう言ってにこやかに笑みを浮かべた。
ユキの頑張る姿は目に焼き付いている。
文化祭の準備の時、そして今日の本番も全力を出し切ったユキの姿。
彼女の頑張りを、この活躍を、そして大成功を祝ってあげたい気持ちでいっぱいになってくる。ユキの為に出来る事ならどんな事でもしようと思った。
ステージ上では生徒会の次のグループが演奏を始めている。
再び体育館に響く歌声と楽器の音色を聞きながら、俺はユキに話しかけていた。
「ユキ、今日はこれからどういう予定なんだ?」
「今の演奏している方々が終わったら、最後にステージ閉幕のあいさつを生徒会長がなさる予定になっています。その時に出演者の皆さんは登壇する事になっているので、あたしはこのまま控え室で待機です」
「ボクからの補足だけど借りている楽器や機材を今日中に返さないといけなくてね、すぐ片付けを終わらせないといけないんだ。その後はみんなで打ち上げという話になっているかな」
「そ、そうか。今日も帰るのは遅くなりそうだな……」
このまま控え室で待機というのならユキと一緒に文化祭を楽しむのは難しそうだ。一年に一回だけ、高校に入ってからの初めての文化祭をユキと一緒に楽しめたらと。それが難しいのは分かっていたし、駄目なら駄目で仕方がない事だとは思っていた。
けれどやはり残念に思えてしまって、それを少し寂しく感じていた時だった。
「生徒会長、閉幕の挨拶まで時間はありますよね?」
ユキが口を開く。
椅子に座って休んでいた生徒会長の女子は頷いた。
「そうね、演奏の時間を考慮すると終わりの挨拶をするのはまだ先になるわ」
「それでしたらちょっと外に出ていっても良いですか……?」
「何か用事があるのかしら?」
「はい。今日の文化祭で楽しみにしていたものがあって、それだけ済ませたいと思っているのですが……」
「そう、構わないわよ。時間になったらスマホにメッセージを送るから必ず戻ってきてね」
「はい、ありがとうございます!」
ユキは生徒会長にぺこりと頭を下げた後、隣にいた俺の手を取った。
「晴くん、ついて来てください。一緒に行きたいんです」
「良いのか? ついて行っても」
「晴くんがいなきゃだめなんです。さあ!」
俺はユキに手を引かれ、一緒に控室を後にする。
体育館に集まった多くの生徒達、ライブの熱気の中を抜けるように俺とユキの二人は進んでいく。
体育館の中が暗い事とステージ上の演奏に皆が集中している事もあって、ユキが出てきた事に気付く生徒達は多くない。こっそりと彼女は俺を連れて歩いていく。
そして体育館から出た後、ユキは優しく俺に微笑んだ。
「晴くん。あまり長い間は遊べませんが、初めての文化祭を一緒に楽しみましょう」
「ユキ……それじゃあ生徒会長に言ってた楽しみにしていたものって……?」
「晴くんとの文化祭の事です。出番が終わったら何とか晴くんと遊べないかなって思っていて、生徒会長が許可してくれて良かったです」
「そっか、俺だけじゃなかったんだな」
二人で一緒に文化祭を楽しみたい。
そう願っていたのは俺だけじゃない、ユキもそう思ってくれていた。それを知って胸の中に幸せな気持ちが溢れていく。
「今はみんな生徒会のライブに集まってるはずだ。クラスの出し物に並んでる少ないはず、出来る限り色んな所を回ろう、ユキ」
「はい! いっぱい思い出を作りましょうね、晴くん!」
ステージ上で輝いていた歌姫は、今度は俺の隣で笑顔を輝かせていた。




