第14話、眼鏡の下④
「じゃんじゃん食べてね~」
立夏はテーブルに並べられた大量のお肉を前に、にっこりと満面の笑みを浮かべている。
小鳥遊家が用意してくれたというバーベキュー用のお肉はとてつもなく美味くて、噛めば噛むほど溢れ出すジューシーでさらさらとした脂の甘みが最高だった。
俺達4人はテーブルを囲んで、星空の下のバーベキューを堪能している最中だ。率先して肉を焼いているのはユキと秋奈の二人、トングを上手に使い分けて絶妙な焼き加減で肉を皿に盛り付けていく――のは途中まで。
肉を食べ進めて行くうちに、バーベキューの様子に変化が現れ始めていた。
「ほら、晴くん。お肉焼けましたよ。はい、あーん」
ユキは網の上で焼けた肉をお皿に乗せた後に塩を振り、それを箸で掴んで俺の口元に寄せてくる。俺が口を開けるまでずっと待っているので大人しく口を開けて彼女の掴んでいたお肉を食べる。俺の舌がどうなっているのか完璧に把握されているのか、ユキの振りかけた塩の量が好みのど真ん中過ぎるしょっぱさで高級肉の味を更に引き立てていた。
「晴、こっちも焼けたよ。タレの方で食べると良い、ほら。あーん」
ユキに続いて秋奈もちょうど良い具合に焼けたお肉にタレを浸け、それを箸に掴んで俺の口へと運ぶ。それもぱくりと食べさせてもらうと、高級肉と秘伝のタレが口の中でとろけ合って夢のようなハーモニーを奏でていた。
――と、冷静に食レポしている場合じゃなく。
初めは普通に食べていたバーベキューだったのだが、途中からユキと秋奈が俺に肉を食べさせるという不思議な光景が広がっていた。
そんな光景を見ながらにやにやと笑っている立夏。なんだかくすぐったくて、つい目を逸してしまう。
「あはは、本当にみんな仲良しだよねー。親鳥が雛に餌付けしてるみたいー」
「親鳥から雛への餌付けって……確かにそう見えるかもしれないけど」
「あたし達は晴くんに美味しいお肉を食べてもらいたいなあって、ただそれだけですよ」
「うんうん。折角の機会だからね、立夏の用意してくれたお肉を最高の状態で食べてもらいたいだけさ」
炭火で焼いた肉の良い匂いがまた漂ってきたと思うと、二人は再び俺に肉を食べさせようと箸を伸ばす。
「次はこのカルビです。はい、あーん」
「今度はこのハラミだよ。ほら」
「あ、あーん」
10人居れば10人が振り向く程の可愛さな女の子が目の前に二人いて、そんな美少女達からお肉を食べさせてもらえるなんて贅沢極まりない状況。同級生の男子達がこれを見たら嫉妬の嵐に飲まれてしまいそうだと思いながら、二人からのお肉を頬張っていた。
そして美味しいお肉でお腹がいっぱいになり、用意されていたお肉も綺麗に食べ終える。そろそろ次の予定はどうするのかを聞いていた。
「なあバーベキューが終わった後の予定はどうなってるんだ?」
「白鳩さんのお話だと天体観測をしたい、という事だったね」
「ですね。折角ですので、こんな綺麗な場所で皆さんと星空を楽しめたらと思って」
天体観測というワードを聞いた立夏がキラキラと目を輝かせる。
「スマホのメッセージでも言ってたけど、みんなで天体観測するのがすっごい楽しみでさー! 望遠鏡も用意しておいたんだー! ここって近くに明るいものがないからさ、星がすっごく綺麗に見れるからちょうど良いと思う!」
「天体観測だけでなく他にも皆さんと色々な事を出来たら良いですね」
「他にもか~、あ! うちの別荘、浴室すごい広いからユキっちと一緒にお風呂はいりたいな!」
「あ、あたしとお風呂ですか?」
「そそ。こういう機会って他にないしお願いだよ~!」
「立夏だけだと白鳩さんに危ない事をしかねない。ボクも一緒に入るよ」
「あ、秋奈っち! 大丈夫だよ、変な事なんてしないから~!」
「だーめ。白鳩さんにえっちな事をするつもりだって、立夏の顔に書いてあるからね」
「ちっ、ばれてたか~」
夜空の下に彼女達の笑い声が響く。
幸せな光景だと思った。
ユキも今とても楽しんでくれている。
包帯を巻いていたあの頃は友達も出来なくて、辛い思いをしていた彼女が、友達に囲まれて笑顔で居てくれる事が嬉しかった。
それからバーベキューを終えた俺達は、綺麗に片付けもやりきって、望遠鏡を担いで見晴らしの良い所で天体観測しに向かった。
ユキと秋奈は俺の前に立って、小さな手を差し出した。
「それじゃあ晴くん。一緒に行きましょう、天体観測に」
「だね、晴。みんなでたくさんの星を見よう」
二人は瞬く星のような笑顔を浮かべる。
その手を握りしめ美しい星空の下を共に歩き始めた。
ユキ、秋奈、立夏、そして俺。
楽しげな夜はまだまだ続いていく。




