第14話、眼鏡の下②
バーベキューの日が来るのはあっという間だった。
集合場所は立夏の家でそこから車に乗って移動するらしい。
一体何処のキャンプ場や公園を借りるのかと思っていたら、その目的地というのが『小鳥遊家が所有する別荘とその敷地』でバーベキュー用品などは立夏の家が用意してくれるという内容を聞いた時、何かの冗談かと思った。
それ以上の詳細は良く分からずじまいのまま、日時と開催場所を聞いた以降はメッセージのやり取りは行っていない。
俺はユキと一緒に立夏の家があるという場所に向かっていて、歩きながら驚きを隠せなかった。
そこは高級住宅街で俺の住んでいる所とは比べ物にならないほど大きな家が並んでいた。教えられた住所が間違いなんじゃないかと不安に思いつつ、とりあえずは言われた通りに進んで行く。
「ここ、なんだよな?」
「あたしも初めて来たので……恐らく、ですが」
俺達は一軒の大きな家に辿り着く。
家の敷地には大きな庭があって立派な柵で囲まれているし、中へ入ろうとしても柵付きの大きな門がそれを阻んでいた。何処かの大企業の社長でも住んでいるんじゃないかと、そう思える程に広く大きい。
こんな大きな家に訪れた事は今まで一度もなくて、どうしたら良いのかとうろたえていると、門の隣に止まっていた白色の高級車の窓が開いていく。窓から顔を出して手を振っているのは立夏だった。
「やほやほー! 来てくれたんだねー!」
「り、立夏!? どうして車に?」
「バーベキュー早く行きたくてうずうずしてたから、使用人さんに車を出してもらって待ってたんだ―」
「それじゃあやっぱりこの家が本当に立夏の家……」
「そそ。まあ今日は用事がないから、うちに遊びに来るのはまた今度って事で!」
「秋奈は?」
「実は色々あって別の車で先に行ってるの。ともかく乗ってー」
「分かった。今日はよろしく頼む」
「あたしからも。立夏さんよろしくお願いしますね」
俺とユキは立夏に言われた通り、その車に乗り込んでいった。車は動き出す。後部座席の俺達は助手席に座る立夏の方を見つめる。
「秋奈の話だと、向かっているのは立夏の別荘だったっけ……」
「そそ。山の中にあるんだけど良いとこだよー、とっても静かでさ。今日はいっぱい楽しんでいってよね」
「ありがとうございます、立夏さん。あたしも今日を楽しみに待っていました」
「えへへー。今日はね、バーベキュー用にとっても美味しいお肉も用意したんだ。そのお肉を食べてるユキっちを見るのが楽しみー!」
「以前に立夏さんがお話していたお肉ですよね。有名店から取り寄せた、とか」
「そそ! ユキっちの喜ぶ所が見たくてさー!」
笑顔で仲睦まじく話す二人の様子を眺めながら、まさか立夏がいつの間にかユキを『ユキっち』と呼ぶようになっているとは思わず驚いてしまう。
「ユキ、いつの間に立夏とそんな仲良くなったんだ?」
「連絡は頻繁に取り合って、それで自然と仲良くなったんです」
「ユキっちってスマホのメッセージも可愛いよね。わたしキュンキュンしちゃってたよー」
「立夏さんもですよ。可愛いスタンプをたくさん持っていらっしゃいますよね」
「えへへ。ユキっちにいっぱいスタンプ送りたくてさー、たくさん買っちゃった! 昨日すっごい可愛いの見つけちゃって、今送るから見てみて!」
「わあ、とっても可愛いですね。あたしも使ってみたいくらいです」
「ほんと!? ユキっちとお揃いとかめっちゃ憧れるから、ギフトで贈っちゃおうかなー?」
「だ、だめです。この前だって立夏さんスタンプくれたばかりなのに――」
「良いから良いからー! はい、ぽちっとなー!」
車の中はユキと立夏の楽しそうな会話でいっぱいになっている。その様子を微笑ましく思いながら、俺は本日のバーベキュー会場である立夏の別荘に着くのを楽しみに待っていた。




