表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/119

第13話、停電とお風呂②

 スマホのライトを頼りに脱衣所へと辿り着く俺とユキ。ここに来るまでずっと手を握っていたけれど、服を脱ぐ為に一旦手を離す。着替えの様子を見るわけにもいかないので、スマホのライトも消して俺は着ている服に手を伸ばした。


「み、見えてないよな……?」

「だ、大丈夫です。晴くんは……見えてないですよね?」

「ああ……今の所は」


 脱衣所の窓は磨りガラスで小さいし、狭い事もあってリビングよりも暗かった。


 暗闇の中で目を凝らせば、うっすらとユキのシルエットが見えるくらいでそれ以上は良く分からない。ユキも同じようなので胸を撫で下ろしつつ上着に手をかけた。


 外の風の勢いは強くて今も激しい音が聞こえるが、それよりもユキが服を脱ぐ布の擦れた音に集中してしまう。するすると目の前で着ているものを脱いで、ユキが同じ空間で一糸まとわぬ姿になっている事を想像するだけで、ばくばくと心臓は高鳴っていって体も熱くなった。


 そして下着まで脱いだ所で一応大切な部分を隠しながら浴室の扉に手を伸ばした。扉を開ける前に深呼吸をして気持ちを落ち着ける。大丈夫、見えはしないんだ。それに今日は停電で非常事態だし、これは仕方がない事なんだと自分に言い聞かせる。


「ユキ、足元に気を付けてな。暗いから転ばないように」

「はい、ありがとうございます。晴くん」


「手を繋ぐか? 怖いかもしれないし」

「そ、そうですね……出来ればそうしてもらえると嬉しいです」


 俺は暗闇の中でユキの声が聞こえる方に手を伸ばし――むにゅり、という柔らかな感覚に首を傾げた。


 とても大きなまんまるとした感触が手のひらに広がって、柔らかくて弾力のあるこの感触は何だろうと思考を巡らせる。確かめるように揉んでみると、マシュマロのようにふわふわで柔らかくそれでいて張りもあって温かい。あまりの触り心地の良さに我を忘れそうだった。しかし次の瞬間、ユキの甘くて熱っぽい声が聞こえて俺は慌てて手を離す。


「んっ……は、晴く……ん……そこは……」

「え、あ……?」


 今の感触が何なのかを理解する。まさかユキのたわわに実ったあの胸を触っていたとは思ってもいなくて、完全に無意識の行動だった。今何をしていたのか理解すると同時に顔が真っ赤に染まってしまう。


「す、すまん……! その、つい手が……」

「暗いから……仕方、ないです……」


 今度こそユキの手を握りしめると、二人で浴室の中へと進んでいく。浴室にはユキが沸かせてくれたお風呂のおかげで、脱衣所よりずっと暖かい。浴槽の蓋を外すと湯気が立って丁度良いお湯加減なのは見て分かった。


 シャワーは湯沸かし器が止まっているので使えない。風呂桶でお湯をすくい上げて体にかけると冷えていた体がじんわりと暖まって行く。交代で桶を使って体を綺麗にした後、俺とユキの二人は手を繋いだまま浴槽へと入った。


 男女二人が入ると流石に狭く感じるし、体が密着してしまいそうだった。いつもなら恥ずかしくて出来ないけれど、今は停電しているせいもあってか何とか平常心を保つ事が出来ている。


 とは言え完全に何も見えないというわけではない。ユキの方へ目を向けると暗闇の中でも白い肌がぼんやりと見えて、それがまた艶めかしくて色気を感じてしまう。


 ユキも恥ずかしさから俯いているようで、長い髪が邪魔をして表情はよく見えなかった。きっとユキも目が慣れてきて、僅かにだが俺の姿を見る事が出来るようになったのだろう。


 お互いに沈黙のまま、しばらく時間が過ぎて行く。雷の激しい音が浴室を揺らすと、ユキはびくりと肩を震わせて怖がっているようだった。


「大丈夫か、ユキ」

「晴くんと一緒だから……平気です」

「そうか。なら良かった」


「でも……あの、晴くん。お願いがあるのですが」

「どうした?」

「もう少しだけ……側に寄っても、いいですか?」


 遠慮がちに言うユキ、その内容に思わずドキリとする。この狭い浴槽で今でもギリギリの距離なのに、更に近付くとなると間違いなく互いの身体が触れてしまう。そしたら隠している俺のアレが興奮状態になっている事がバレてしまうわけで……それでもユキは勇気を振り絞って言ったんだと思うと無碍にするわけにもいかない気持ちになった。


「……分かった。じゃあ背中の方を貸すから」

「はい……」

 

 返事をするとユキは繋いでいた手を解いて恐る恐るこちらに近づいて来る。そして俺の背中に飛び込むようにして身を寄せて来た。ユキの甘い香りが広がって、柔らかい体の感触や体温を背中で感じる度に心臓の鼓動は速くなっていく。

 

 ユキは腕を回してぎゅっと抱きついて来て、その様子はまるで怯える子供のようで、とても可愛らしく愛おしさがこみ上げてきた。柔らかな膨らみが直に伝わってくると同時に、やはり雷を怖がっているのか身体が震えていて、そんな彼女を少しでも安心させてあげたくなる。


 けれど前を向いて頭を撫ででやるわけにもいかず、ただじっと彼女に背中を貸し続けた。徐々にユキの強張っていた体の力が少しずつ抜けていくのが分かる。そして彼女はぽつりと呟くように口を開いた。


「晴くん……落ち着きます」

「そっか、もうちょっとこうしてるか?」

「はい……このままでいさせてください」


 ユキは甘えるように俺の背中へ頬を寄せた。こうやって素の姿を見せてくれるのは信頼されている証だと思うと嬉しくなってくる。暗闇の中で温かな湯船に身体が暖まり、同時にユキの温もりで満たされて、とても幸せな気分になる。


 ユキも同じなのだろう。身体の震えも止まってきて、穏やかな息遣いだけが聞こえていた。


「晴くんは、雷とか怖くないんですね……」

「ああ、全然平気だぞ。ていうか意外だったな、ユキがこんなに怖がるなんて」


「小学生の頃、いじめられた時に……掃除用のロッカーに閉じ込められた事があって。その時にちょうど雷が鳴っていたんです。だから雷を聞くと……それを思い出してしまって」

「そ、そうだったのか。そんな事まであったなんて知らなかった。今は大丈夫か、暗いし狭いけど……」


「晴くんが居てくれるから暗くて狭くても……怖くないです。それに、晴くんとくっついていると温かいから……」

「もっとくっついていてもいいからな」


「それなら――こっち向いて、ぎゅってしませんか?」

「そ、それは」

「ほら……気にしないで」


 ユキはそう言って俺の背中から体を離す。


「おいで」


 甘くとろけるような声、俺の後ろで彼女が両手を伸ばしているのが分かった。それを我慢出来る程、俺は出来た人間じゃない。


 ゆっくりとユキの方に振り向いて暗闇の中で見つめ合う。


 すっかり暗闇の中に目が慣れて、長い髪から滴った雫が水面に波紋を広げて行く様子すら見えるようになっていた。はっきりと瞳に映るユキの姿――長いまつ毛に整った顔立ち、濡れて張り付いた前髪が妙に色っぽかった。


 吸い込まれそうなほど澄んだ青い瞳に見惚れて息を飲む。暗闇の中でも彼女の美しさは何一つ変わる事がなかった。むしろ暗闇だからこそより一層ユキの魅力を引き立てているようにも思えるくらいだ。


 そうして見つめ合っていると、ユキは恥ずかしそうに微笑んで俺を強く抱きしめる。そんな彼女の髪をさらりと弄ぶようにしながら触れると、彼女はくすぐったそうに身を捩らせた。


 それからしばらくの間、俺とユキは抱き合いながら湯に浸かり続けた。激しい雷の音が聞こえても、ユキの体が再び震える事はない。


 俺の胸の中で静かに呼吸をするユキ、目を閉じている彼女の姿が何処かあどけなく見えて、それを見ていると昂ぶっていた心も落ち着いていく。


 暗闇の中、静寂と二人の吐息だけが支配する空間で、俺達は身を寄せ合って互いの存在を感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白いか小学校の同窓会に出て晴と仲良く出たら? ユキがこんな美少女と知ったら苛めの 主犯は前捻がるよな! 雪は俺の大事な彼女でもうじき結婚だよと言って 優越感に浸る!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ