第11話、期末テスト②
ユキとの勉強会は功を奏した。
中間考査ではギリギリ赤点を超えられるレベルの成績だった俺が、今回のテストではなんと学年でも平均的な点数を取る事が出来たのだ。
昼休みになって廊下に貼り出された期末考査の順位表。午前の授業が終わってそれを早速見に行ったのだが、自分の名前が真ん中に書かれている事には驚いた。やはりユキの教え方は上手だ。教えてくれる要点がはっきりとしていて、こんな俺でも飛躍的に成績が良くなった。
そして順位表の一番上。全教科満点という驚きの成績を叩き出し、学年1位の座を制覇しているのはやはりユキだった。順位表に書かれた『白鳩ユキ』の名前に向けて、廊下に居た生徒達は感嘆の声を漏らしている。
「球技大会での活躍も凄かったけど、テストの方も凄すぎだよなあ白鳩ちゃん」
「白鳩さんって中間考査の時も満点だったわよね。それが二度も続くだなんて」
「成績優秀で運動神経抜群……そこに来て容姿端麗とはなあ」
確かに彼らの言う通りだった。
そして俺だけは知っている。
ユキは俺の身の回りの世話をしながら、俺に勉強を教えつつ、その上で全教科満点という偉業を成し遂げた。小さい頃から学力は秀でていたけれど、この優秀な成績は彼女が努力を積み上げた結果なのだ。
そんなユキと一緒に居られる事が誇らしく思えるし、彼女が褒められているのを聞くと自分のように嬉しく思えた。俺ももっと頑張らないとな、今は彼女に甘えてばかりだが、小学生の頃のように俺の方からも彼女を支えられるようになれたら――なんて考えながらユキが待っている場所へと向かった。
そこはいつもの屋上だ。
日陰の下にあるベンチでユキは俺の事を待っていた。
俺を見つけると笑顔を浮かべて小さく手を振る。
「待たせたな、ユキ」
「お気になさらず。順位はどうでした?」
ユキは俺の顔を覗き込むようにして言った。
少しだけ上目遣いなところが可愛らしい。
「ユキのおかげで中間テストの時よりもずっと順位が上がったよ」
「それなら良かった。晴くんとっても頑張っていましたから、その頑張りが結果として現れてあたしも嬉しいです」
ユキは優しく微笑むとランチクロスに包まれた二つの弁当箱を取り出す。
俺達の日課。こうやって隣り合わせになって、ユキの特製手作り弁当を食べながらゆったりとした時間を過ごすのだ。
「ねえ晴くん。夏休みはどうしますか?」
「今それ悩んでいるところだよ。補習は無事に免れたしな」
「晴くんのお母様はなんて言ってます?」
「好きにしろとは言ってるけど、内心は帰って来て欲しいって思ってるかもなあ。お盆くらいは戻ろうかと思ってる」
ユキと一人暮らしを始めてから一度も家には戻っていない。
たまに母さんが様子を見に来てくれるけど、父さんとはずっと顔を合わせていなかった。夏休みくらいは家に戻ってきて欲しいと母さんも父さんも思っているだろうけど、俺は夏休みも出来ればユキと一緒に過ごしたかった。
「ユキはどうするんだ? 親も日本に帰って来てるんだろ?」
「そうですね。あたしの方は一度顔見せさえしてくれれば、あとは自由にして良いと言われました」
「なるほどな、じゃあ俺と似たようなもんか」
「晴くんが実家に帰るならあたしもそうしますし、夏休みもマンションで過ごすならお付き合いしようと思っていますよ」
「じゃあ俺次第ってことか」
「ええ。晴くんがどうするかによりますね」
となればマンションで夏休みを過ごす事を選べば、ユキと一緒に居られるわけか。
「じゃあさ、今年は一緒に夏休みを過ごすって感じで良いか?」
「もちろんです。楽しみですね、晴くんとの夏休み」
「それでいくつかやりたい事があるんだけどさ」
「やりたい事? どんな事でしょう?」
俺はスマホを取り出してとあるwebサイトを開く。県内で行われるイベントがまとめられた観光ナビ、それをユキへと見せた。
「ええとだな。夏祭りとか花火大会があるだろ、そういう夏でしか出来ない事をユキと一緒にしたいなって思ってるんだ。小学生の頃みたいにさ、また一緒に」
ユキはスマホの画面に映し出された花火大会や騒がしそうな夏祭りの写真を見ながら、目をきらきらと輝かせていた。
「後はほら。包帯を巻いていた時は出来なかった事もさ、海水浴とかは行ったりしなかったよな」
「夏祭り、花火大会……海水浴、晴くんと一緒にまた色んな所へ行けるだなんて凄い……。そうだ、水着も用意しなきゃ。持っていないので」
俺の話を聞いているだけでうきうきと楽しげな表情をユキは浮かべる。今から俺と一緒に遊ぶ光景を想像しているんだろう。そんな彼女を見ていると、やっぱり家に帰るよりもユキと過ごすのを優先したい気持ちが強まってくる。
「ユキが良いっていうならさ、夏休みは遊び回ろうよ。もちろん夏休みの課題もやらないとだけど、ユキと一緒なら俺もやる気が出そうだし」
「はい。遊ぶのも勉強も一緒です。楽しみですね、夏休み」
「俺も楽しみだ。それじゃあ今年の夏はよろしくな、ユキ」
「はい、晴くん。よろしくお願いしますね」
俺とユキはこれから訪れる夏の光景を想像しながら一緒に晴れ渡る青空を見上げた。雲が流れていて風が心地良い。今年の夏休みが待ち遠しかった。




