第6話、思い出の場所へ①
昨日話した通り、今日はユキと一緒に水族館へと出かける予定だ。
小学生の頃から変わらず、こうして次の日が楽しみになるとなかなか寝付けない。最近は隣にユキが居る事にも慣れてきて眠れるようになってきたけれど、昨日の夜は水族館に二人で遊びに行くのが楽しみで夜ふかししてしまった。
今日もユキから起こされて、寝不足を感じながらも水族館へ出かける為の支度を始める。朝食を食べながらユキと二人で今日の予定を決め、小学生だったあの頃のようにバスへ乗って向かう事が決まった。
あとは財布やら鞄に入れて、どの服を着ていこうかと悩んでいる。
いつもの家用の服や制服と違ってお出かけ用のコーディネートは俺のセンスが試される。ユキとの久しぶりの遠出なのだ。下手な格好でユキをがっかりさせられないと自分の持っている服を眺めながら必死にコーディネートを考えた。
ああでもないこうでもないと悩みながら結局は無難な服装に落ち着いて 部屋を出ると支度を整えたユキがリビングで待っていた。
ユキの姿を見て俺は固まった、目を奪われるとはこういう事を言うのかもしれない。
首元に可愛らしい黒のリボンの装飾がされた白のブラウス、ふんわりとしたフリルの付いた丈の短いスカートを履いている。膝上まで伸びたニーソックスが絶対領域を演出し、スカートとソックスの間から覗く柔らかな太ももを更に眩しく見せていた。
見慣れた制服姿も可愛いけれど、外出用の私服姿のユキは100倍以上に可愛く見えてしまう。それにとても良い香りがした、可憐な花を思わせるような優しくて甘い香りだ。
そして彼女本来の美しさを引き立たせるナチュラルメイク、くっきりとした目元、潤んだ唇が愛らしくて、白く透き通るような肌はいつもよりずっと艶めいて見えた。学校に居る時も天使のように可愛らしいとは思っていたけど、今のユキは天使どころではない、もはや女神と言って良いくらいだった。
固まる俺を見つめながらユキは首を傾げた。
「あれ、晴くん、どうしました?」
「い、いや……その服凄く似合ってるしさ。あまりにユキが可愛くて、その……言葉が上手く出てこなくて」
俺の率直な感想を聞いて、ユキは頬を赤らませる。
「か、可愛いですか。晴くんにそう言ってもらえて本当に嬉しい……。晴くんもすごいかっこいいです。本当に、とってもかっこいいです」
「そ、そうか。ユキに褒められると何だか照れるな……」
俺は思わず目を逸らす。照れながら褒めてくれるユキがあまりに眩しくて、心臓の鼓動も高鳴って止まらない。まだ出かけてないっていうのにこんな幸せで、水族館に着いたら果たしてどうなってしまうんだろうと、わくわくして仕方がない。
俺達は互いに照れながらもマンションから外へ出た。
天気予報の言う通り、今日は雲ひとつ無い晴天だ。
春の暖かな日差しの下で俺とユキは並んで歩いてバス停へと向かう。
そして俺とユキはバス停へと着き、ベンチに座りながら水族館行きのバスが来るのを待った。そこでも俺はユキとたくさん話をする、学校での出来事だったり昨日見た面白い動画の内容だったりと色々な事を話した。ユキは俺の瞳を見つめながら微笑んで俺の話す内容に耳を傾ける。話を聞くユキの様子も楽しげで嬉しかった。
小学生の頃もこんな感じだったな、楽しく話しながらバスが来るのを待っていた。俺がいつまでも喋り続ける様子を母さんは笑いながら見ていて、隣に座るユキは楽しそうに話を聞いてくれていた。
「こうしてると、小学生の頃に戻ったみたいだよな」
「昨日一緒に知育菓子を食べた時もそうでしたけど、晴くんとこうしていると楽しかった小学生の頃を思い出します」
「楽しかった小学生の頃、か」
俺と会った直後のユキは包帯の下でいつも暗い顔をしていた。学校に居る時は俯いてばかりで、学校にも行きたがらなかった。友達も居らず周囲の子供達からいじめられる毎日は辛く悲しいものだったはずだ。
それでも俺と一緒に居る事でユキは変わっていった。笑顔を絶やさなくなった。そして今ユキは『楽しかった小学生の頃を思い出す』と言ってくれたのだ。小学生の頃の辛かった思い出より、俺とのたくさんの楽しい思い出でそれを上書き出来ていた事を知れて、それを誇らしく感じていた。
「なあユキ。他にも小学生の頃、色んな場所に行ったよな」
「行きましたね。キャンプ場でバーベキューしたり、一緒に夏祭りだって。とても懐かしいです」
「また一緒に行こうよ。あの時みたいに色んな所へ出かけて、高校生での3年間でまた新しい思い出を作ろう。行った事のある所だけじゃなくてさ、あの時は行けなかった場所にだって、今なら何処へでも行けるんだ」
「そうですね。晴くんとまたたくさんの楽しい思い出を作りたいです。いっぱい遊びましょうね」
眩い笑みを浮かべてユキは答える。
この笑顔を見続けたい。離れ離れになった3年間を取り戻せるくらい、これからもユキを笑顔にしていこう。彼女の浮かべる笑みを見ながら俺はそう誓うのだった。
「晴くん、ほらバスが来ましたよ。水族館行きはこのバスです、乗りましょう」
「ああ」
水族館行きのバスが俺達の前に停まる。
ユキと一緒にバスへ乗り込んで、あまり人の乗っていない奥の席に二人で並んで座り込む。
動き出すバス。窓の外で流れる景色。
小学生だったあの頃のように、俺は目を輝かせて外の景色を眺める。そんな俺の様子をユキは優しく見つめていた。
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