荷物持ちのアルスと雑用のアルスと支援魔術のアルスと猫耳エルフ巨乳ドラゴンの勇者vs魔王
ここはどこにでもある剣と魔法のファンタジー世界、物語はここから始まる。この世界では今まさに勇者と魔王の最終決戦が行われようとしていた。魔王城の最上階に存在する魔王の間、そこで魔王とフードを被った四人の侵入者が対峙していた。
「勇者とその仲間たちよ、我が配下を倒しよくぞここまで来た!この魔王グレコ、十万飛んで数十年生きてきたがここまで追い詰められたのは初めてよ!せっかくだ、勝負の前に貴様らの名前を聞いておこう!」
魔王の言葉を受け、勇者達は一人ずつフードを取り名乗りを上げた。
「僕は荷物持ちのアルス!」
最初に名乗ったのは十代半ばと思われる、眼鏡を掛けた癖毛の少年だった。
「私は雑用のアルス!」
次に名乗ったのは推定二十代前半で、髪の長い中性的な男性だった。
「余はアルス。支援魔術を担当している」
三人目はこれまた二十代ぐらいに見える、黒髪オールバックにサングラスのチョイワル系。
「そして俺が勇者のユーシャルだ!」
最後の一人は頭にドデカなツノと猫耳とエルフ耳の生えた、やかましい頭部をした巨乳美少女だった。
「「「「四人揃って勇者パーティ!さあ行くぞ」」」」
「待て!!」
「どうした、怖気づいたか魔王!」
「待て待て待て!もう一回名前聞かせて!まず、金髪の君は?」
「俺は勇者ユーシャルだ!」
「うん、君にも色々聞きたいけど一旦置いとく。で残りの三人は?」
「僕はアルスです」「私はアルス」「余はアルスだ」
「アウトー!君等ちょっと吾輩の話を聞け!」
グレコは勇者達を応接室まで案内し、お茶菓子を配った後、ちょっと考えてからユーシャルに話しかける事にした。他のアルス三人に質問しても絶対ややこしい事になるからだ。
「君等さ、アルス三人は駄目でしょ」
「心配するな。一見パーティバランスは悪いが、こいつらは何でも出来るぞ」
「戦力的な事じゃなくて、吾輩が心配してるのは権利的なアレよ。パクリは良くない」
そう、グレコが真っ先に心配したのは権利関係の事だった。現在、この界隈に『アルス』はむっちゃ居る。こないだランキング確認したらハイファンタジー日刊トップ100に三人アルスがいたし、書籍化された作品を確認したら五人以上アルスが居た。鑑定、アイテムボックス、追放に続きアルスもテンプレになりつつあった。
だが、テンプレみたいなものならアルスを使っても問題無いかと言うとそうではない。今回問題となるのはアルスが脇役であり三人も居る事だ。これでは他所からキャラそのまま持ってきましたと言ってる様なものである。
「…という訳で削除されたり感想欄燃えたりは勘弁なのでお前らとは戦えん。帰れ」
「待ってくれよ!こいつらはたまたま全員同じ名前なだけで、一人一人個性があるんだ!」
「その個性とやらも他所のアルスから丸パクリしたものであろう?吾輩は詳しいのだ」
「違う!こいつらは他には居ないアルスなんだ!一緒に冒険してきた俺は知っている!あれは半年前…」
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回想・勇者パーティがこうなった理由
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「アルス、お前はいつも戦闘中立ってるだけだからクビだ」
今から半年前、勇者パーティにはアルスは一人しかいなかった。勇者ユーシャルと支援魔術師のアルス、そしてアルスの恋人の聖女ミラに賢者のヒースの四人組だった。
「待ってくれユーシャル、余は支援魔術師。立っているだけではなくバフとデバフで仲間を支えてきたぞ。これまで何度もそう言ってるではないか」
「そういやそうだったな!じゃあパーティが中々強くならないのは他の奴らが原因が!よし、ミラとヒースはクビだ!!」
「「はーい」」
ミラとヒースが去り、パーティはユーシャルとアルスの二人になった。
「よっし!雑魚がいなくなってスッキリしたぜ!」
「しかしユーシャルよ、勇者パーティは四人が鉄則。他にアテはあるのか?」
「アルス、お前の知り合い連れてこい。お前いっつもスゲー事する度に『これぐらいできて当然だが?余の地元では皆できた。寧ろ貴様らが何故出来んか聞きたいぐらいだ』って言ってただろ」
「そういえばそうだった。よし、余の知り合いで暇なの二人連れてくるわ」
翌日、アルスの知り合いのアルスとアルスがやって来た。
「はじめまして!僕はアルスです!魔法学園を飛び級で卒業したけれど、働きたくないので引きこもりしてました!実戦経験は無いけど雑用ならお任せ下さい!あ、これ道中でトカゲ(古龍)が出たので串カツにしてみました。良ければどうぞ!」
「採用!よろしくなアルスきゅん!」
「私はアルス。一応冒険者をしているが、魅力がカンストしてるせいでいつも男女関係が原因ででクビになってしまう。ちなみに他のステータスもカンストしてるから、それが原因で嫉妬に狂ったリーダーに冤罪を着せられたりもした。こんな私で良ければ雇って欲しい。荷物持ちでも何でもする」
「採用!よろしくなアルスさん!」
こうして、勇者パーティは勇者とアルス三人になったのだった。このメンバーに変わってから一ヶ月、アルス三人はそれはもうとんでもない活躍を見せた。敵は基本ワンパン、アイテムを作れば必ずSS級、依頼人からの好感度も抜群。以前のメンバーがゴミカスに見えるぐらいの働きぶりだった。
だが、そんな状況でも不満点はあった。
「なんかさ、俺いらなくね?」
ユーシャルは気づいてしまった。自分の役割がアルス達の世話だけになっている事、そしてアルスをやる気にするのならもっと適任がいる事に。
アルス達は基本的に怠け者だ。彼らは普段全力の1%ぐらいしか出していない。それでも、他の冒険者とは比較にならない強さなのだが、彼らを本気にさせれば犠牲をもっと少なく出来るとユーシャルは考えていた。
「あいつら人外の美少女が仲間にいないとやる気出さないんだよなー。俺がパーティ抜けて人外美少女を入れるのも考えたけど、各アルスの性癖が違うのが難しい所さんだ」
最初から居たアルスは巨乳竜人マニア、引きこもりのアルスは巨乳エルフ好き、パーティクラッシャーのアルスは巨乳猫娘フェチ。
勇者パーティは原則四人(これより多くても少なくても作者が上手く捌けないから)なので、仮にユーシャルが抜けて誰かの性癖に刺さる美少女を入れたとしても絶対に残りのアルス二人がやる気ゼロになる。どうしたものかと途方に暮れていると頭上から声が聞こえた。
「お困りの様だね勇者君」
「だ、誰だ!?」
ユーシャルが声のした方に顔を向けると、魔族の女が宙に浮いていた。
勘のいい読者はお気づきだろう。彼女は『追放勇者改造魔族』である。追放勇者改造魔族とはアルス同様なろうのテンプレの一つであり、その名の通り追放を行った勇者の下に現れ人外へと改造する存在である。そして、大抵の場合は改造された勇者との戦いを経て最強主人公が重い腰を上げ黒幕死亡のカウントダウンが始まる。
要するに大戦犯であり、なろう界のテンプレ悪役の中でも一二を争うアホなのだ。しかも、今作に登場した彼女に至っては、勇者がパーティ追放したという情報だけを聞き、特に落ちぶれてもいないのにやってくる始末。
閑話休題、ユーシャルの前に現れた女魔族はテンプレに従いユーシャルを改造し配下にする為の勧誘を始めた。
「私は君を助けに来たんだよ。勇者君、力は欲しくないかい?」
「ああ、欲しいっちゃ欲しい。アルスをどうにか出来る力が俺にあればなあ」
「それなら簡単な事さ。人間を辞めてしまえはいいんだ。そうすりゃアルスとかいう奴なんてどうにでもなるさ」
「そ、そうか!俺自身が人外になればいいのか!そうすりゃアルスをどうにでも出来る!いいだろう、すぐやってくれ!」
この時、女魔族はユーシャルに対しアルスを腕力でどうにかする力を与えると話していた。一方、ユーシャルは魅力でアルスをどうにかする肉体が貰えると考えていた。完全に会話がすれ違っていたが、奇跡的にお互い勘違いに気づかず契約は成立してしまった。
「覚悟は決まった様だね。じゃあ私の手を取って成りたい姿をイメージするんだ」
「それって、どんな姿にもなれるのか?」
「ああ、なれるさ。ただし、二度と戻れないから慎重にね」
「そいつはありがたい!これでアルス達も思いのままよ!うおー!キタキタキター!へ」
ユーシャルの身体が光に包まれ、次の瞬間そこには猫耳エルフ巨乳ドラゴン美少女と化したユーシャルが立っていた。
「やりい!大成功だぜ!」
「成功なの!?」
「んじゃ、早速試してみるか。キャァァァー!」
シュバババ!!!
ユーシャルが悲鳴を上げた次の瞬間、今迄に無い勢いでアルス達が現場に駆けつけた。
「やれやれ、悲鳴がしたから来てみたら余の好みドストライク竜人が魔族に襲われているではないか。いや、よく見たらユーシャルではないか」
こうかはばつぐんだ!
「やれやれ、面倒に巻き込まれそうだけど、巨乳エルフになったユーシャルさんをママと呼ぶチャンスが来たんだ。ちょっとかっこいいとこ見せないと」
こうかはばつぐんだ!
「やれやれ、いつか隙を見てユーシャルに猫耳カチューシャを付けて洗脳しようと思っていたが手間が省けた」
こうかはばつぐんだ!
竜人とエルフと猫耳と巨乳の全てを兼ね備えたユーシャルはアルス全員にバフを掛けられる存在となったのだ!今のアルス達の本気度は驚異の12%!まだまだ世の中舐めまくっているが、それでも普段の十二倍の本気っぷりだ!
「ひ、ヒェ~っ、何か知らないけどお助け〜」
「「「「逃がすか!!!!」」」」
魔界への直通ゲートを使い逃げる女魔族(戦犯)。しかし、アルス達はユーシャルの胸に腕を押し付けながら彼女を追跡し続ける。女魔族が自分のやらかしに気づいた時には、既に勇者パーティは魔界への道を完全掌握し、万全の状態で魔王城へ攻める準備を整えていた。
その後、失態がばれるのを恐れた女魔族は事態を報告する事なく逃げ出そうとしたが、勇者パーティに続いて魔界に突入した聖女ミラと賢者ヒースに捕まり命を落とした。
そして、魔王グレコと側近達は何の対応も出来ないまま追い詰められたのだった。
人人人人
回想終了
YYYYYY
「と、まあざっとこんな感じよ」
「ふむ、どうやら吾輩が思っていたよりはきちんとキャラ立ちをしたアルスの様だな」
ユーシャルの話を聞き終えたグレコは認識を改めた。最初に彼らを見た時、色んな作品から三人アルスをパクってきたと思ったが、今はそうではないと考えていた。
彼らは『アルス』が三人なのではない。彼らは『三人のアルス』という存在なのだ。アルスが三人セットになった場合どうなるかというのが本作の肝であり、それに関しては多分完全オリジナルである。まだまだキャラの練り込みは甘いが、それは自分との戦いの中で魅力を生み出していけば良いだろう。
「よかろう。ティーカップを片付けたら勝負だ」
「じゃあ戦ってくれるのか?」
「そういう事だ」
そう言い、グレコはお盆の上に使い終わったティーカップを乗せアルス達の横を通り過ぎた。
洗い場に向かう途中、グレコは先程確認したアルス達三人の顔を思い浮かべる。ユーシャルの見た目がやかまし過ぎたのと三人いるせいで各アルスが印象に残っていなかったが、これから最終決戦をする相手だ。きちんと脳裏に焼き付けないといけない。
グレコから見て左側に立っていた白服ロン毛アルス。
グレコから見て右側に立っていた黒服グラサンアルス。
グレコの正面に立っていたメガネで小柄なアルス。
「って、ちょっと待てい!」
大問題に気づいたグレコはティーカップを食器洗浄機に入れてから手を拭き魔王の間にダッシュで戻る。
「お帰り!さあ勝負だ魔王!」
「ごめんやっぱ無しで!お前らとは戦えん!」
「ホワイ?やはりアルスいじりは駄目なのか?」
「詳しくは言えぬが、そうではない。そこの三人のアルスはアルスとしての問題はクリアはした。だが、もっと重大な案件に気づいたのだ!」
本来この問題は一番最初に気づくべきパロディ案件だった。この三人でこの並びなら日本人は絶対にあの人達を連想してしまう。しかし、グレコはそれに気づかないままこの人達を変な性癖持った集団認定してしまった。一刻も早く勇者パーティに帰ってもらわないとこの世界の危機だ。
「とにかく帰れ!その三人は、というか、その三人の並びは色々とまずい!」
「何を心配してるかは知らんが安心しろ。こいつら『ジ・アルスィー』は状況に合わせてセンターが代わるんだ」
「帰れー!蝋人形にするぞー!」
頑張れグレコ!戦うなグレコ!この世界の平和の為に!
人人人人
おしまい
YYYYY