昨日の夜は
朝、カーテンの隙間から差し込んだ光にレミは目を覚ました。カーテンを全開にすると、昨日はあれほど怖いと感じた森は太陽の光を浴びて青々と茂り、自然を感じさせる。池も夜とは変わって太陽の光を反射して眩いばかりに煌めいている。昨日はわからなかったが、池の中では鯉が数匹ゆうゆうと泳いでいる。マディーはその景色を楽しむようにデッキでロッキングチェアに腰かけコーヒーを飲んでいるようだ。
レミも軽く身だしなみを整えると1階へと降りた。
「おばさん、おはよう」
「おはよう、よく眠れた?コーヒーしかないけど飲めるかしら」
「ミルクがあれば」
「注いでくるから中のイス適当にこっちに持ってきなさい」
レミは作業場にはあまりよらずに適当な椅子をひっつかむとそそくさとデッキへ出た。
しばらくしてマディーもコーヒーカップと砂糖片手にデッキにでてきた。
「ここの朝は日本とは違うでしょ」
「全然、静かで朝の空気がとてもおいしい。それにのんびりできてとても落ち着く」
「でしょう?だからここをアトリエにしたのよ。
ところで、昨日どうやってここにきたの?鍵も閉めてでたはずなのに中にいたし...。あなたが見つからなくて本当に肝が冷えたわ」
「男の子が教えてくれたの。私と同い年くらいの地元の男の子。おばさんのお友達って言ってたわ。名前はえーと...あれ..?」
名前が出てこない。思い出そうとすればするほど昨日の男の子の顔や声も記憶にぼんやりとモヤがかかっていくように曖昧になっていく。
「男の子?私の友達?」
「そう、森に入ってしばらくして道に迷ってたら声をかけてくれてここに案内してくれたの。中に入れたのもその男の子がウッドデッキの扉はいつも閉めないんだって言って、池を泳いで、中に入って玄関を開けてくれたの」
「そんな私しか知らないようなことまで知ってる男の子の友達なんていないはずだけど...。それに森までは一本道で時間的にも絶対にすれ違うはずなんだけど」
おかしいわね、と考え込むマディー。
「でも昨日はほんとに不思議なことばかりだった...」
ポツリと呟いてレミはコーヒーをすすった。