浩宇の目覚め 弐
レミを部屋に戻らせ、No.3は再び浩宇と向き合った。
「さて、人は水をかければ起きるというけれど、ドールも同じかしら」
「…水がなくても起きてる」
「あら、それは手間が省けて助かるわ」
けだるそうに起き上がると、浩宇はNo.3と向き合うように居住まいをただした。そして、少しためらいがちに、けれど確かめるように口を開いた。
「さっき僕を李家に戻すっていう話、あれは本当?」
「99.9%、本当でしょうね。それに、あなたにも連れ戻される覚えがあるんじゃないかしら?」
図星を着かれたように、苦い顔をし浩宇は目をそらした。No.3はそれを見てクスリと笑った。
「私、全てを知っていないと気が済まない性質なの。もしあなたが話してくれたら、それなりに協力できると思うけど?」
「それは、話さないと助けないってこと?」
「ただで助ける義理はないし、話してくれるだけで助けてあげるって言ってるんだから安いものじゃない?それに私、口は堅いほうよ?」
それもそうだ、と浩宇は思う。しかし出会ったばかりの、しかもどこか信用ならない、彼女に話すのは気が引ける。ここで即決してしまうのは、状況を把握しきれていない自分自身にとって不利のように感じた。だれか詳しく状況を教えてくれる人は、と混乱する頭の中で考える。
(確かもう一人女の子がいたはず。レミ、とか言った。そうだ、黒蘭様のもとに返すとかいう話をしだしたのも彼女だったな。)
「早く決めてくれないとこっちも考えを変えるわよぉ?」
「…さっき、この場所にいた女の子と話がしたい」
冷静を取り戻した様子の浩宇を見て、No.3は内心舌打ちした。
(これじゃ、簡単に話してくれないわね。まぁいいわ。どうせ長い付き合いになりそうだし。秘密も内緒も人形の時間の前では意味をなさないもの。秘密を暴くことよりも大事なのは『互いの関係』よね)
「あの子なら二階の自分の部屋にいるわ」
「ありがとう」
「…起きたばかりのあなたを追い詰めて悪かったわね」
「…うん、大丈夫。気にしてないよ」
浩宇を見送り、No.3も自分の寝床に戻った。
(ちょっと、わざとらしかったかしら?次はもっと信用されるようにふるまわないといけないわ)
あくまで理性的でいるつもりでも、隠せないほど自身の心の高ぶりを感じる。上がる口角を必死に思考分析で抑え、クッションに体を押し付けた。
「せっかく手掛かりが来たんだもの、絶対逃がさないわ」
誰にも聞こえないような声で、しかしはっきりとした口調でつぶやくとNo.3はそっと目を閉じ眠りにつくのだった。




