浩宇の目覚め
「ただいまー」
本来はだれもいないはずだが、ここには人以外の住人が多くいるのでレミはつい言っていしまう。
部屋の奥でカタンと音がした。きっとそこにいるのだろう、とレミは奥へ向かった。できればNo.5かNo.10あたりだといいんだけどと内心願いつつ。
「あら、帰ったのね。マディーと一緒じゃないところをみると、仕事かしら?」
「No.3だったのね」
部屋にいたのはNo.3だった。向かいには浩宇もいた。
「あら、わたしじゃお嫌かしら?」
「いえ、そうではなく(ちょっと気まずいだけです)。浩宇は相変わらず?」
「ええ、そうよ。あら、それ蘭じゃない。立派ね」
車から降ろした蘭の鉢に目が行ったのか、思わず感嘆の声もらすNo.3。
「蘭?」
か細い声が聞こえた。その声に2人は顔を見合わせた。
「白蘭様!」
その声は間違いなく浩宇から発せられたものだった。驚きのあまり、レミは手に持っていた鉢を落としてしまった。
「ここは…、ここはどこ?」
状況をつかめずに困惑する浩宇はふらりと立ち上がると割れた鉢に近づいた。
「黒い蘭、…黒蘭様の蘭だ」
「今日いただいたものよ」
ようやくこちらに気づいたように浩宇が振り返る。
「君たちは、」
「私はあなたの生みの親のマディーの姪のレミ。こっちはあなたと同じドールのNo.3よ」
「ここは一体…」
「ここはマディーのアトリエ。あなたの、ご主人様がなくなった後理由があってこっちに戻ってきたの。でも、黒蘭总があなたを引き取りたいって言ってたからまたすぐに戻ることができるわよ」
「黒蘭様のところへ、戻る…?」
とたんに浩宇の顔が曇りだした。困惑と悲嘆、呆れ、負の感情があふれ出すように浩宇は顔をひきつらせ、へたりこんだ。
「嫌だ…嫌だ嫌だ!あの人のところへ行きたくない!」
蘭を引きちぎり、尋常でないほどに怯える浩宇。息を大きく荒げすぎたのか過呼吸に陥りそのまま横に倒れこんだ。レミがあわてて駆け寄ると、浩宇は弱弱しく服の裾をつかんだ。
「お願いだから、どうか僕をあの人の元へやらないで」
か細い声でそう懇願し、浩宇は意識を失った。
「黒蘭様とやらをえらく恨んでいるらしいわね。」
No.3は引きちぎられ無残に散った黒い蘭の花弁を拾い上げた。
「キティ、パピ。これ片づけてちょうだい」
ずっと隠れてみていたのか、家具の影からキティとパピたちが大勢出てきた。浩宇が気になるのか、ちらちらとみている。
「白蘭と黒蘭。異様に怖がる浩宇。この子には聞かないといけないことが山ほどありそうね」
「今日、李商事に行ったとき黒蘭总の子供に会ったんだけど、下の子も黒蘭总を苦手に感じているようだったのよね」
「子供の感性は鋭いから、その黒蘭様に感じるものがあるのかしらね。レミは何も感じなかったのかしら?」
「黒蘭总とお話をしたのはほんの少しだけだったから。ただカリスマあふれる敏腕社長って感じだったかしら。上のお兄さんは黒蘭总を慕っているようだったけど…あ!思い出した。上のお兄さん、浩宇にそっくりだったわ」
「…兄弟と黒蘭様は血縁関係なの?」
「遠縁らしいけど、ほぼ他人みたいなレベルの薄さらしいわよ」
「…ふぅ、頭が痛くなりそうね」
何かを察したようにNo.3がこめかみを抑えた。
「どういうこと?」
「レミ、浩宇をベッドに寝かせてあなたも休みなさい」
「え、追い出そうとしてる?」
「強制的に上に上がらせられるのと、自分でいくのとどっちがいいかしらね?」
パンパンと合図を出すと、キティとパピがすっと現れた。強制的の意味を理解し、レミは「自分で上に上がります」と申しでて強制的に部屋に戻らされるのだった。




