マディードールの秘密
「一体だれがそれんな噂を?」
「わからない。でもこの噂はマディーのファンの間では結構有名な噂なんだよ。ボーンチャイナって知ってる?」
「牛の骨を材料にした陶器だったかしら」
「マディードールは陶器製でしょ。白磁に似た質感だし、ボーンチャイナドールじゃないかなっていう噂が出たんだ。多分そこから派生したんだよ。レミはマディーから何か聞いていないの?」
「前に叔母さんは材料は仲介業者経由で手に入れているって言ってたわ。だから叔母さんは知らないかも」
「ますます噂の信憑性が高まりそうだ…」
「犯罪臭しかしないんだけど」
若干の気まずさを感じ皆黙っていると、そんな空気を破るようにレミの携帯がなった。マディーからである。話が終わったからそろそろもどるように、との連絡だった。
ケーキを食べ終えて店を出たところで解散することになった。碧はマディーに会いたいと駄々をこねたが葵がよる場所があるからと許さなかった。
「噂の件はまたしらべてみるわ」
「あてがあるの?」
「ちょっとね。叔母さんに碧君のこと伝えてアトリエに来られるか聞いてみるわ」
「ほんと?!ありがとうレミ!」
ぎゅぅと抱き着く碧に、弟がいたらこんな感じなのかなと姉心が湧く。
「じゃぁまたね」
「絶対だよ!」
二人と別れ、オフィスに戻ると会社の入り口でマディーが車を付けて待っていた。車に乗り込むとバックシートを立派な黒い蘭の鉢が占有していた。驚いているとマディーが「受付嬢が持たせてくれたのよ」と説明した。
「楽しかった?」
「うん。碧君もとてもかわいかったわ。私も弟が欲しーい」
「私妹だったからわかるけど、下の子って面倒よ。でもレミならいいお姉さんになるかもね。姉さんに頼んでみたら?今頼んだら春ごろには生まれてくるんじゃないかしら」
「叔母さん!」
楽しそうに笑う叔母さんをジロリとにらむ。しかし、「やだ、ごめんなさい。レミにはまだ早かったかしら」と全く反省の見えない返事が返されるだけだった。
「そういえば叔母さんは黒蘭总と何を話したの?」
「浩宇のことよ。彼は浩宇の製作依頼をしてきた人の双子の兄なのよ。引き取りたいっておっしゃたの。まえの持ち主が亡くなったあと、その奥様が浩宇を気味悪がって引き取ることになったけど今度は彼が引き取りを申し出てきたの」
「気味悪がったってどういうこと?」
「主人が殺されたのは浩宇の呪いのせいだとかなんだとか。ひどく怯えてたから、怒る気もなくなっちゃって持ち帰ったの」
「呪い....。叔母さんはそれを信じたの?」
「私自身そういう目にあったことがないから実感はないけど、もしかしたら、とは思うわよね。私ね、時々思うのよ。私たちの目には何かフィルターがかかっていて、そのフィルターがあるからおばけとかゴブリンとかそういうのが見えないんじゃないかなって」
「じゃぁ、見えるようになるためには目のフィルターを取らないといけないっていうこと?」
「確かにそれでも見えるようになるのかもしれないけど、難しいでしょ。それにフィルターの話はあくまでも仮定よ。でももし実在するとしたら、彼らがフィルターをすり抜けてくるか、何かに憑依してくれないと見えないんじゃないかしら」
レマディーの言葉にレミは一つの可能性を感じた。
「叔母さん今日このあとはどうする予定?」
「このあと?特に予定はないわ。あ、そろそろ納期がせまってるのがあったわね、それに取り掛かろうかしら」
「アトリエで?」
「ううん、別の場所。直書きなのよ。だからレミを卸してすぐに出かけることになるかしら。もしかしたら日をまたいじゃうかもしれないから夜寝るときは戸締りしっかりね」
これなら彼女たちと話す時間ができそうだ、とレミは内心ガッツポーズをした。
それからほどなくしてアトリエに戻ると、マディーは言葉通りに必要な画材を車に詰め込むと出かけていった。




