大人の会話 弐
すっかり空になったカップの縁を手でなぞりながらマディーは目の前の男をじっと見た。
「白蘭先生とは双子でしたね。一卵性で顔がそっくりだからきっと浩宇も喜ぶと思います」
「浩宇は白蘭に本当によくなついていましたからね。私には最後までなついてくれなかたんですがね。きっと彼には荷が重かったのだと今は反省しています」
黒蘭はまた困ったように笑って「今度は正しく愛してやりたいと思います」と付け加えた。
「そういえば葵君。似てますね、浩宇に」
「あぁ、葵ですか。そうでしょう、私もはじめて会ったときは驚きました。浩宇の生き写しかと思いました。葵は本当に優秀でしてね、白蘭にも子はおらず私も妻帯していませんから跡継ぎには本当に頭を悩ませていたのですが、私が彼とその弟を引き取ることになりすっかりその問題は解決しましたよ。浩宇に似ていることもあってか、私も葵には思い入れが強くて。葵も私の期待以上に応えてくれています」
「レミも年上のお兄さんができて喜んでるんじゃないからしら」
「弟もできますよ。少々やんちゃですがね。本当に葵とは全く違うタイプの子供で、元気そのもの。興味があることにはとことんのめりこみますし、主体性もある。将来がとても楽しみです」
「弟さんを跡継ぎには考えていないんですか?あ、ごめんなさい。あんまり聞いちゃいけなかったかしら」
「いえいえ構いませんよ。私も李商事でこうしてオーナーとして働くようになっていろいろな人に会ってきましたし、私自身もそうしていろいろ経験してきました。ある程度見る目を養うと人を見極められるようになるんですよ。弟の方、碧はこちらの世界には向かない人間だ。その点葵は素質を持っている。何より競争的に後継者育成をすることは私が好みません。白蘭とは幼い頃より競わされましたがいい思い出ではありませんし、ただでさえ事故でつらい思いをしてきた子ですから兄弟の仲を裂くようなことは避けたいと考えています。」
「兄弟をとても愛してらっしゃるんですね」
穏やかに兄弟への親愛を語る様子にマディーは白蘭を思い出した。彼がアトリエを訪れたときも確かこんな風に穏やかな様子だった。一卵性というのは話しぶりも似ているものなのだろうと頭の端で考え、そろそろレミに連絡を入れようかとちらりと時計を盗み見た。
「思ったより長くお話してしまいましたね。そろそろ失礼します。浩宇はまた後日連れてきますが希望の日程などありますか?」
「早ければ早いほど、ですかね。私も浩宇と話したいことがたくさんありまして」
にっこりとほほえんだポーカーフェイスに、レミは「承知しました」と苦笑いで返すのだった。




