大人の会話
一方その頃、部屋に残った大人二人はドールについて話していた。
「マディー老師、先日白蘭夫人が先生に浩宇を預けたと聞きましたが」
「ええ、夫人は浩宇をあまりお好きではなかったから。なんでも、白蘭先生と浩宇がお話をしていたと聞きました。人形ですからそういうこともあるのかしら」
どこに行ってもそういう話はありますから、というマディーに黒蘭は困ったような笑みを浮かべ少しためらいがちに口を開いた。
「老師、浩宇を私に譲っていただけないでしょうか」
「黒蘭总が?また、どうして?」
浩宇を作るように言ったのは白蘭だ。弟の形見にしようとでも言うのだろうか。
「あの子は、ドールのモデルとなった浩宇は、本来は私の子でした。事情があって白蘭のもとへ行ってしまいましたが。白蘭がいなくなった今、再び私が彼の養い親となりたいのです」
「わかりました。李家の方が彼にとっても住み慣れているでしょうし、そういうことでしたらまた後日届けに伺います。ただ、ドールとは言え彼も形あるもの。今回のような出戻りはあまり好ましくありません。引き取られるならこちらに戻ってくることがないようお願いいたします」
白蘭夫人から浩宇を渡されたとき、浩宇はすでに袋の中に隠されていた。夫人によると白蘭の葬儀以降、浩宇の顔が悲しみにくれているようで、それを恐ろしく感じ顔が見えないように袋の中に入れてしまったそうだ。
「鳴き声がするんです。あの人形は主人がなくなった後は外の倉庫に置いていました。それ以降、見回りの警備員が夜中に倉庫の中から鳴き声がするというんです。かぼそい少年の鳴き声が。すっかり気味悪いく感じてしまって。引き取っていただけないでしょうか」
マディーの記憶の中の白蘭は物腰柔らかで聡明な印象だったが、夫人はちがうようだと思った。神経質で高慢。嫌悪するものは全て周りから追い出す。マディーはいつかの嫌いだった学校の先生を思い出した。
薄汚い袋に雑に詰められた浩宇を見てマディーの気持ちはすでに定まっていたが、夫人の態度はさらにその決意を固めるものとなった。私が感じた恐ろしさはこれだけでは表現しきれないと言わんばかりに喋り続ける夫人の話を遮るように「わかりました。浩宇はこちらで引き取ります」と言い切ると、マディーは浩宇を抱え上げてさっさと部屋をでようとした。
「主人はきっとその人形に呪い殺されたんだわ」
夫人の一言で、マディーはピタリと脚を止めた。
「なんですって?」
「夫の死はとても不可解なものでした。主人がなくなったのは本当に突然のことだったんです。書斎で仕事をしている最中突然苦しみだして、私が駆け付けたときにはすでにこと切れていました。はじめは心臓麻痺を疑いましたし、検死でもそういわれました。ですが遺体が帰ってきてから葬儀までの間、夫の体はみるみるただれていきました。火傷跡や深い切り傷、どれも惨たらしい傷です。きっと夫は呪い殺されたに違いありません。その人形にきっと呪い殺されたんです!」
夫人は堰を切ったように話し出し、完全に怯え切っていた。
「夫人、落ち着いてください。白蘭先生のことは本当に残念でした。呪いというのが本当にあるのか私にはわかりませんが、夫人のためにも浩宇はこちらで引き取らせていただきます」
失礼します、と逃げるように部屋を後にし、車に乗り込んだ。袋から人形の顔をのぞくとその顔は悲しみに暮れているようにも憤りをたたえているようにも見えた。夫人の話を思い出すが、やはりバカバカしいとマディーは考えるのをやめたのだった。




