電話番号の主
病院を出ると再び、ブドウの木が目に入った。話を聞いた後では異なる印象を受ける。あの根元で帰ってこない魔女を待つ男の背中を想像すると、レミは心がチリつくような気になった。
「直接電話するの?」
よく分からない相手に電話するのは少し怖くない?とレミは続けた。ただでさえ変わった相手だと言われたのだ。マディーは少し逡巡し「それもそうね」と頷いた。
「仲介業者に伝えてみるわ。もしかしたら彼なら何か知っているかもしれないし。そうだ、ちょうど街までおりたし、李商事のオフィスによってもいいかしら。あなたに会わせたい子がいるの」
「会わせたい子?おばさんの知り合い?」
「李一族の分家筋の子らしいんだけど、イギリスに来たばかりみたい。同じアジア系だから話しやすいんじゃないかしら。年も近いし、男の子だからひと夏の恋、、、とか!」
一人勝手に盛り上がりだした叔母をあきれ顔で見る。マディーの恋愛事情は聴いたことがないが、反応を見るに男性経験すらなさそうだ。ため息をついてレミはマディーの手を引き、車をとめた場所に向かった。
「ここ終末病棟っていってたけど、叔母さんの友達の男の子みたいに若い子でも入院してたの?」
「そうね。でも本当に当時の記憶があいまいなのよ。もう何十年も前のことだから本当に彼がいたのかどうかもあやしいわ」
「イマジナリーフレンドってこと?友達だったはずの彼は実は妄想の産物なんて、そんなことある?!」
「レミはまだ10年ちょっとしか生きてないからそういえるけど、何十年生きていたら昔の記憶なんてどんなものでも褪せていくものなの。それに当時を考えたらイマジナリーフレンドだっていう可能性も十分あり得るわ」
芸術家だからだろうか、こんなにもファンシーな人は初めてだ、とレミは内心愚痴った。
「舌を嚙みたくなかったら外でも眺めてなさい」
「はいはい」
こうして二人は病院を後にするのだった。




