不思議な異邦人
外装に対し、内装は最近改築したようで比較的新しかった。その一方で、ステンドグラスやシャンデリアがあり、昔の名残を感じさせた。レミが特に目を引かれたのは正面の大窓のステンドグラスだ。大窓を左端から順に辿っていくとどうやら一つの物語になっているようだ。じっと見ているとシスター・ジュリーが説明してくれた。
「あの左端にいるのがさっきお話した魔女です。多くの人を助け、やがて丘に大勢の人が住み着き、さみしかった魔女の丘はやがて活気ある一つの村となりました。しかし悲劇が訪れ、魔女が連行されてしまいます。魔女の去った丘に寂しさだけが残ります。しかし、ある男が丘に戻りこの病院を立てるのです」
指を指しながらステンドグラスの説明をするシスター・ジュリー。
「物語はブドウの木の根元に腰かける男で終わります。魔女の帰りを待つ村人をイメージしています」
「男は誰ですか?」
「彼はジョージ。ジョージはイギリスに古くからある名前です。語源はゲオルギウス、大地で働く働くもの、つまり農夫を指します。この丘に移った村人の一人でしょう。彼が魔女の去ったあと、この病院を建てた人です。病院の名前のジョージは彼からとられています」
「ジョージが一人ブドウの木で魔女を待っているのはなぜなんですか?」
「これはあくまで推測ですが、ジョージは魔女を慕っていたのだと思います。魔女が彼を想っていたかはわかりませんが、少なくともこの作品からは魔女への思慕がうかがわれます」
「さて、そろそろ本題に移りましょう」とシスター・ジュリーは話を切り上げ二人を応接室に通した。
「今日は、あなたの作品の件でお呼びしました。それに久しぶりにあなたにも会いたかったですし」
座り心地の良い皮張りのソファに腰かけるように促され、レミは深く腰掛けた。それまで穏やかな顔持ちだったシスター・ジュリーの顔が少し曇った。
「実はですね、あるお方が、ここにあるあなたの作品を全て買い取りたいと申し出てきたのです」
「全て、ですか。ちなみにそのお方について伺っても?」
「さぁ、詳しくは私も分からないのです。『導かれるようにしてここにたどり着き、絵を見て感銘を受けた。金に糸目は付けないからここにある絵を譲ってほしい』とその人は言っていました。ここにあるあなたの絵はあなたが有名になる以前のモノもありますから作品が評価されてうれしい気持ちもありましたが、何分少し変わった方でしたので…。」
その人はアジア系の顔立ちをしており全身黒いスーツに身を包んでいたという。さらに見た目の若々しさに比べ、醸し出す雰囲気はその年にはそぐわない貫禄を感じさせ、ただ人ではない空気を感じた、とシスター・ジュリーは続けた。
「ほかにもおかしなことを言っていました」
「おかしなこと?」
「はい、『ここは懐かしい気配に満ちている』、と」
「以前ここに入院していたんじゃないんですか?」
黙って話を聞いていたレミも話に興味が出て思わず会話に口を挟んだ。しかし、シスター・ジュリーは首を横に振ってはっきりと「それはあり得ません」と言った。
「あの年頃の青年ならば私が知っているはずです。それにあの若さで入院し、退院していたとしたら忘れるはずありません」
「でもここは病院ですし、多くの患者さんがいるから一人くらい忘れてしまいそうですが…」
「いいえ、だとしてもあの若さなら記憶に残ります。ここにいる患者さんたちを見ましたか?皆さんお年を召した方ばかりでしたでしょう。それにとても静かでどこか物悲しい…。それもそのはずです。ここはね、終末病棟なんですよ」
終末病棟、治療困難と診断された患者が緩和ケアを目的に入院する病棟。ここを最期の場として迎える患者も多い。レミはここにきたときの違和感を感じるまでの静けさにようやく納得することができた。
「ますます怪しいですね。連絡先はわかりますか?」
「はい、電話番号を頂きました。一応彼にはあなたから連絡をするかもしれないというように伝えておきました。彼の方はいつでもいいから連絡を待っている、とのことです」
電話番号を預かると、マディーは「帰ったら連絡を入れてみます」と腰を上げた。
「またいつでも来てくださいね」
「近いうちにまた伺いますよ」
こうして二人は病院を後にしたのだった。




