魔女のブドウ
「それは魔女のせいかもしれませんね」
二人してブドウへの興味が薄れたころ、シスターの恰好をした中年の女性がこちらにやってきた。
「お久しぶりです、シスター・ジュリー。お元気でしたか?」
「お久しぶりです、マディー。こちらのお嬢さんを紹介してくださるかしら」
「この子は私の姉の子です。レミ、挨拶」
「こんにちは、マディー叔母さんの姪のレミです。夏の間こっちで過ごす予定で」
「そうなのね、かわいい姪御さんだこと。ところで、二人ともこのブドウ食べたの?おいしくなかったでしょう」
シスター・ジュリーは果実を一粒とると口の中にいれ、「やっぱりおいしくないわね」と渋い顔をする。
「これは魔女のブドウといって、その昔魔女が特別に栽培した魔力のあるブドウと言われているのです」
「食べたらどんな魔力があるんですか?」
「言い伝えはたくさんあります。不老不死、健康、目が良くなったりとかも」
「病院に植えるにぴったりですね」
「ええ、だから植わっているんだと私も以前聞いたことがあります。しかし、その中でも一つだけ不思議な効果が混じっているんです。それが、忘却」
「忘却・・・」
「これだけ特別だから、これが本当の効能かもしれませんね。マディーも昔おいしくもないこのブドウをよく食べていました」
「そうでした?」とマディー。ブドウを食べて本当に忘れてしまったそうだ。
「シスターですが、魔女の植物が植わっているのは気にならないんですか?」
「魔女とはいっても良い魔女だったと聞いてます。昔はこの辺は町から離れたさみしい丘で、魔女が一人ひっそりと暮らしていたところに感染症に侵され村を追い出された村人が迷いこみ、魔女に直してもらったとか。それから噂が広まり徐々に魔女を訪ね、信仰するものも出てきたそうです」
「問題がおこったのはそのあと」と、シスターが顔をしかめた。
魔女の噂を聞きつけた王国が兵を遣わしてここに攻め入った。魔女はここに身をよせる村人が危害を加えられないように素早く非難させ、それを見届けて自身も逃れようとした。しかし、一歩間に合わず、魔女は兵士にとらわれ都に連れていかれた。
「そこから先、魔女がどうなったかはわかりません。当時は魔女狩りが流行っており、都に連れていたれた女はたくさんいました。おそらくここの丘の魔女も・・・。魔女が連れていかれしばらくしたあと、村人たちが戻ってきたそうです。かつて身を寄せた魔女の家は兵士によって踏み荒らされ、無残なものになっていたので村人たちは魔女がいつ戻ってきてもいいようにこの病院を立てたそうです。
悲しいものですね、人助けをしたものが理不尽な世の波に飲み込まれてしまうのは。ここの病院名にソーサレスと入っているでしょう?これは魔女の名前にちなんでつけられたそうです」
「話が長くなりました、続きは中で」とシスター・ジュリーが病院の中に二人を案内した。




