聖ジョージ・ソーサレス病院
聞けばその病院とはもう数十年の付き合いだという。
「小さいときは不良少女だったのよ」
レミの母であり、マディーの姉は社交的で明るく、いつもその場の中心にいるような存在だったのに対し、幼いころのマディーは多くの人と関わることにストレスを感じ、ふさぎ込みがちだったという。たびたび学校を休み、いつも留年ぎりぎりをさまよっていたあの頃は、両親にとってもマディーは悩みの種で、よくため息をつかれていた。
引き合いに出されるのは自分と正反対の姉だから、よけいたまったものではない。
「思春期だったのかしらね。学校も嫌、家も嫌。どこにも居場所がないように思えて、それがひどく苦しくて、外に居場所を求めたの」
その日も学校を休み、みんな仕事や学校へ向かった後、ようやくベッドの上から降りて、適当にシリアルを食べて。昨日も一昨日も同じような生活を送っていた気がして、さすがにマディーもそろそろこの生活に飽きがきていた。
「天気がいい日だったわ。家の中の電気は付けずにいたから、窓の外が明るいのが嫌でも目に入って、なんだか「出ておいで」って言われているような気持ちになって、外にでた」
しばらく住宅街を歩いて、いつもは通らないような道を通って当てもなく歩いた。迷子になってもいいや、という気概でひたすら通ったことのない道を進み、歩き続けた。
ずいぶん歩いたな、と思った頃病院を見つけたのだという。
「聖ジョージ・ソーサレス病院っていう病院で、この辺りでは有名な病院よ。ずっと昔からあるんだって」
外でリハビリをかねて散歩する人やベンチに腰掛けて休憩する人。穏やかな暖かさに誘われてきたその場所はまさに憩いの場だった。いつもは人の輪の中に入ることに戸惑いを感じるマディーも、その時は自然とその場所へ歩み寄って、誰の目を気にするでもなく開いたベンチに腰掛けた。
涼しい風と日の光に、マディーは久々にいつもきつくしまっている心が緩んだことを感じた。きっとそれは、いつも知っている空間はマディーの苦手なものであふれているが、まったく新しいこの空間は新鮮さと安らぎにあふれていているからだろう。
常に心の中に抱えていたもやもやは今はその影を薄くしている。
「こんにちは、誰かの付き添い?」
突然かけられた声に、思わずびくりと肩を震わせた。振り向くと、同い年ほどの男の子が点滴台を支えにして立っていた。
「・・・ううん、散歩」
戸惑いもそこそこに、マディーはいたって冷静に言葉を返すことができた。それに一番驚いているのは本人自身であった。
「となり、いい?」
無言で少し横にずれると、男の子はにっこり笑って隣に腰かけた。
「今日は平日だけど、休校?」
「ううん、休みは私だけ」
「それってサボり?」
「サボり」という単語にマディーは思わず眉根を寄せた。
「・・・そうとも、言うかしらね」
「じゃぁ、不良少女だ」
少し意地悪な顔で男の子は言った。
「しかも、今日が初めてじゃないな。こんなところまで来るんだ、もうしばらく学校に行ってないんでしょ」
ざっと一か月弱くらい?と男の子は聞いてくる。その言葉にマディーは寄せた眉根をさらに寄せた。
「ここはその界隈では有名な病院だけど、散歩でふらっとよるような場所じゃないから、きっと知らない道を進んできたらいつの間にか来ていたってところかな。そんなことをする不良少女は、きっと学校に居場所がなくて辛いから。当たってる?」
つらつらと続く言葉にマディーの二本の眉が一本へとつながりかける。
「ね、当たってるでしょ?」
ずいっ、とのぞき込まれ、マディーは思わず言い返した。
「違う!違うくないけど、違うわ!私が今日ここに来たのは外の天気がよくて気の向く方へ歩みを進めていただけ!それに学校に居場所がなくて苦しいのは当たってるけど、学校だけじゃなくて家でも苦しいの!」
言ってから、一体何をぶちまけているんだ自分は、とすぐ頭を抱える。男の子は言い返されたことに驚いたようでパチリと大きく目を見開いてマディーを見つめていた。
「あ・・・、ごめんなさい」
おずおずと伺うように謝ると、男の子は再びニコリを笑った。
「こっちこそずけずけ聞いてごめんね。僕の悪い癖なんだ。
ね、さ、僕と友達になってよ。ここはおじいちゃんやおばあちゃんばっかりで同い年位の友達がいないんだ。もしさっきのことで怒ってるなら、本当に誠心誠意謝るよ!ごめん!」
手を取って、ひどくすまなさそうな表情でこちらをうかがっている。そのくせそのあと「だから友達になってよ」とくるものだから、腹を立て続けるのも難しいのだ。半ば言わされた形で、「いいよ」とマディーは返したのだった。




