街へ出よう
昼下がり、ロッジでぼんやりと池を眺めながら「休暇」を楽しんでいると、外へつながる道から車がこっちに向かってくる音がしてきた。何度か聞いて覚えたマディーの車の音である。
車から降りると、ロッジにいた姪に手を振り「暇?」と尋ねてきた。
「おかえりなさい!暇だけど、どうしたの?」
「街にいかない?」
ここに来て早数日、街は飛行機を降りたとき以来足を運んでいない。それに、あの時は異郷の地で心細さも相まって街を楽しむ余裕などみじんもなく、ただただ早く叔母に会いたいという思いしかなかった。
今日は天気もいいし、マディーの仕事も終わったようだ。ゆっくりできるのならば、とレミは腰をあげて出かける準備をした。
「あなたがこっちにきてから、ろくに案内もしてなかったわね。ごめんなさいね」
「ううん、もとは私がこっちに押し掛けたのもあったから、叔母さんは仕事を優先してよ」
なんてできる姪っ子なの、とマディーは大げさにほめ、レミの頭を掻きまわした。せっかくセットした髪の毛が台無し!と憤慨するも、もともとのくせっ毛もあり、手櫛で軽く押さえつけるとちょうどよいウェーブがかったヘアスタイルになる。
「街って言ってもどこに出かけるの?」
「レミの行きたいところに付き合うけど、あまりここら辺に詳しくないでしょ?だから適当に街散策。気になったところに入ればいいわ。ちなみにお昼は食べたの?」
「ううん、なんだか準備するのがめんどくさくてなにも食べてないの」
ご飯のことを指摘されると、レミのお腹は思い出したと言わんばかりにグゥと「胃の中空っぽなんですが」と不服を訴えてきた。それを聞いてタイミングのいいお腹だこと、とマディーが笑った。
「そしたら決まりね!」
にやりとマディーが笑う。はて、なにが決まりなのだろうと首をかしげる。
「イギリス名物、アフタヌーンティーよ!」
さぁ車にのったのったと、車内に押し込まれ意気揚々にマディーは車にエンジンをかけた。ブォンと荒々しい音を立て、車は再び森を抜ける。
当然、初日に歩いて知ってはいたのだがここには舗装された道路などない。マディーとたまに来る来客が作った道もどきを進んでいくしかないのだが、なにせ立派な樹が生い茂る森なのだ。道もどきに少し根が盛り出ていたってそれは非難できない。
舌を噛む勢いでガタガタと激しく上下に揺れる車体に、発車早々レミはギブアップを訴えそうになる。
「ちょっと道が悪くて、揺れるから気を付けて」
果たしてちょっととは、と青い顔でレミはマディーをじとりとにらみつけるのだった。




