心を閉ざした浩宇
翌朝、マディーは早々に仕事に家を出ていた。テーブルの上には「行ってきます。ご飯は冷蔵庫の中」と簡潔な書置きが残されていた。
「おはよう、おねぼうさん。もう昼前だよ」
「おはよう、NO.10。ベッドが寝心地良くて・・・」
冷蔵庫を開けるとサンドウィッチが入っており、取り出す。
「今日の予定は?」
「うーん、どうしようかしらね」
ちらりとソファの上の|浩宇《ハオユーを見た。昨日ブランケットをかけてあげたままの姿勢で一晩越したらしい。太陽が昇り、太陽光に充てられていた。
「人形も紫外線にあたると傷むわよね」
「もちろんそうよ、髪の毛とか繊細なんだから・・・って、どこ行くの?」
窓のカーテンを閉めてやる。しばらく逡巡して、思いついたようにレミは浩宇の両足を抱え、ソファの上に移動させ寝かせてやった。
「心が疲れているときは横になるに限るわ!ゆっくり休んで。さぁ、NO.10、外でゆっくりブランチするわよ」
「私は傷んでも言いていうわけー?!」
「ちゃんと日陰を作ってあげるわよ」
サンドウィッチを口に加え、マグカップに牛乳を注ぎロッジへでる。今日はいい天気だ。さぁて、叔母さんもいないことだしチェアは私のものね、と意気揚々。一度はあこがれた日差しの下でのゆったりとしたブランチの時間。しかしその特等席は一足先に奪われていたのだった。
「おはよう、おねぼうさん」
「ジョージ・・・、あなたいつの間に・・・」
マディーが家を出たころだよ、とケロリと言ってのける。つまりそれは不法侵入ではないかと思うものの、初めて会ったときもそうだったと思い出しレミは注意するのをやめた。
「部屋の彼は昨日やってきたの?」
「浩宇のこと?そうよ、持ち主が亡くなって叔母さんのところに戻ってきたんですって。李商事のオーナーが大事にしていた人形らしいわよ。なんでもいわくつきで、話したりするんですって」
さんざん人形と話して、いびられて何をいまさらであるが、あえて強調してレミは言った。しかし、帰ってきた反応はレミの期待したものとは異なるもので、
「つまり持ち主の死後、二人は離れ離れになったってわけだ、、、可哀そうに」
まるで自身が大切な誰かと引き離されたように、ジョージの面持ちは悲痛なものである。
「心を閉ざしてるみたいなの」
「それはマディーが言ったの?」
「えーっと、私がそう思っただけ」
さすがに人形が~聞いたとは言えずにレミはとっさにごまかした。ジョージは少し神妙な面持ちでレミを見つめたが、すぐに「そうなんだ」と相槌を打った。
「人形の心か。人型をしている分、恨みや悲しみが積もると本当に童話みたいに恐ろしいことが起こったりして・・・。ほら、日本では物に命が宿るっていうだろう?なんだっけ、つき・・なんとか」
「付喪神。・・・神様とおばけを一緒にしないでよ」
「ごめんごめん。でも、くくりとしては一緒だろう?神もおばけも・・・魂だって、証明されていないものだ。それらが実在するとし、死んでも浩宇と持ち主は連れ添うことができたら二人はさぞ幸せだろうね。でも逆も然り、二人を引き離したならその悲しみは形となって現れるんじゃないかな」
知り合って数日たつが、レミはいまいちジョージという少年がどういう人なのかつかみきれないでいる。一見優しく、はつらつとしているように見えて今のように急に語りだす。しかもその時の勢いは口を挟むことを許さないほどである。
「・・・やけにしゃべるじゃない」
語ったあとの反応なんて向こうは気にしないのだ。必然、レミの返事は短くなる。




