その晩
ご飯を食べ終え、あっという間に夜が更けた。マディーは朝方のようで、加えて明日も李商事に用事があるからと早々に寝てしまった。
「まだ9時だよ」
中学生、夜更かしを覚える時分である。音を立てないようにそろりと下へ降りると、導かれるようにレミの足は浩宇の元へと向かっていた。
浩宇は作業部屋ではなく、デッキとつながる部屋のソファに腰掛けていた。
「浩宇・・・?」
おそるおそる声をかけてみる。しかし反応はかえって来ない。閉じられた瞼はピクリとも動かず、気配も感じらない。それはまるでレミが良く知っている人形の姿である。
「これは動かないのかしら・・・」
「そんなことないわよぉ」
「ひゃ!」
いつの間に来たのか、No.3がソファーの前のローテーブルに腰かけ、頬杖を突きながら興味深げに浩宇を眺めている。
「浩宇はちゃんと生きているわぁ。ただ心を閉ざしているだけ」
「心を閉ざす・・・?」
「大方、旦那様が亡くなってふさぎ込んだってところでしょうね。大切に扱われてたそうだし、いっそのこと自分も後をおえたならー、とでも思ってるんじゃないかしら。知らないけどぉ」
「そんな・・・」
「あーあ、せっかくお話を聞こうと思ってたのにざんねーん。心ふさぎ込んじゃってたら話しかけても意味ないわぁ」
「お話?外の世界の話なら私でも・・・」
「おバカねぇ、人間の生活の話なんて聞いたって何になるっていうのよ。私が知りたいのは私たちの存在について。外から戻ってきたドールは初めてだから何か知ってるかしらと思ったのであって、あなたの話に興味はないわぁ」
おバカねぇと再び付け加えられる。いったいなぜこうも言われっぱなしなのかと思うが、No.3のゆったりとした口調の中にまぎれた険のあるもの言い、加えて全く崩さない冷徹なほほえみが途中で口を挟むことも、反論することも許さないのである。「さいですか」というので精一杯なのだ。
「今日は疲れたからもう寝るわぁ。頑張って話しかけてごらんなさい、年の近いあなたになら心を開くかもしれないわ」
おやすみなさいと、No.3は棚へと戻っていく。
「そういうものかなぁ」
自分と同じほどの身長の浩宇はその見た目もあるが、どうもただのドールには思えない。何があったのか気になるのはレミも同じである。しかし、今日は向こうも長旅を終えたばかりである。明日また話しかけてみよう、とレミは立ち上がった。
ピクリとも動かないけれど、生きているとNo.3は言った。夏とはいえここは冷える。ブランケットをかけてやり、レミは部屋へと戻った。




