あなたは誰ですか
確か、とカバンの中のメモを引っ張りだす。メモには、アトリエへは森の入り口の看板を目印にすればいいと書いてあった。
足を進め、注意深く看板を探すと植物に覆われ、もはや目印としての役目をはたしていない看板と、そこから続く道とは言い難い、けれど誰かの通った痕跡のある道が森へと続いていた。
さて、夜も更け当たりの恐ろしさは増す一方である。レミは少し逡巡してしゃがみこむと、道の先をにらみつけた。
(ぼんやりと灯が見える、気がする)
もはやそれは願望では、と思いつつもここで立ち止まっていては状況は変わらないとレミは森へと続く道へ踏み出した。
ぼんやりと見えた灯を目指してきたはずが、やはりあれは願望が見せた幻だったか、しばらく歩くもアトリエらしいものは見えてこず、それどころか夜の闇はその深さを増し、レミを迷い込ませる。
ときおり聞こえてくる何か大きな鳥の飛び立つ音や、草むらを駆け抜ける動物の音にレミは精神的に追い詰められてきた。
(街でまって迎えに来てもらうんだった...)
今更、というような案は本当に引き返せない時になってこそ浮かんでくるものである。
ガァーッ、ガァーッ!!!
「ひゃっ!」
カラスの大きな鳴き声に思わずうずくまる。
「うーーーっ」
視界がぼんやりとゆがんで目頭が熱くなる。鼻がツンと痛くて、でもそれ以上にさみしくて心細くて、もう泥棒でもなんでも声をかけてくれるなら何でも構わないから、誰かいないの?!と、ぐしゃぐしゃになった心がうめき声をあげた。
「大丈夫?」
突如かけられた声に反射的に顔を上げると、そこには地元の子と思しき少年がレミに手を差し伸べていた。
「あなた...」
「マディーの姪っ子でしょ。マディーが言ってた。迷子になったの?連れてってあげる」
腕をとり少年はあゆみ始める。その足取りはしっかりとしており、目的地へと迷いなく向かっているようである。
「えっと、あなたは誰?」