やぁ、昨日ぶり
日が当たるのを避けているのか、あのドールたちは薄暗い場所でじっとしている。やはり昨日のことは幻だったかと思うも、やはりあの棚は近づき難い。
今日は2階で過ごすか、と腰をあげた時「おーい」と森の方から声がした。
「あ、昨日の!」
「昨日はよく眠れた?」
男の子は軽い足取りでこちらに向かってくる。昨日はあまりよく見えなかった彼の姿が今は太陽の光を浴びてはっきりわかる。
「.....ジョージ、そう!ジョージよ!!」
「そうだよ、ジョージだ。ねぇそっち行っていい?」
「ええと、多分大丈夫!今玄関開けるから」
「いいよ、こっちの方が早い」
言うが早いか、昨晩のように池に入るとジョージは泳いでこちらにやってきた。よっ、とデッキに上がると「タオルある?」と聞いてくる。文句を言うよりもあっけに取られて「ああ、うん。持ってくる」と思わず言ってしまった。
「はい、タオル。ええと、それから昨日はありがとう。とても助かったわ」
「どういたしまして!」
「でもなんで突然居なくなったりしたの?おかげでほんと怖い目にあったんだから...」
「怖い目って?」
「それは...」
『お家に帰れなくしてあげる』
昨晩のあの言葉は幻だと思っても言やはり言う気にはなれない。
「な、なんでもない」
「ふーん、まいいけどさ」
「ところで昨日の晩どこにいたの?急にいなくなってびっくりしたんだけど?」
ジト目で問い詰めると、ジョージは「いやー、ちょっとね」と明後日の方向に視線をやってはぐらかした。
「それに!今朝叔母さんに聞いたらあなたみたいな年頃の男の子の友達、しかも家の事情まで知っているような人は知り合いにいないって言ってたわよ。どーいうことなのかしら?」
「それはマディーが忘れてるだけだよ!」
「友達を忘れることなんてありえないわ!」
「本当に?僕は忘れてるけどなぁ。学校に上がる前、親友とはいかないまでもそれとなくつるんでいた友達の名前とか、顔は思い出せても名前までは思い出せないし、どんな子だったかっていうのもだいぶあいまいだ。」
「それはジョージの問題でしょ。私は覚えてるもの」
「まだ、ね。きっとそのうち忘れるよ。彼らについての記憶なんて、絵の背景の細部みたいなものだよ。ぼんやりとはわかっても具体的には思い出せない」
「叔母さんにとってあなたは、そんな絵の細部なの?」
「そうなのかもしれない。僕にとってマディーはそれこそ絵のモチーフそのものなのに」
諦観するとはこのことか、はつらつとしているようで寂しさを漂わせる言動にレミは戸惑った。人の第一印象は1秒もしない内に決まるというが、彼には適用されないらしい。
「なんだか重いわね。それに、今日のあなたはなんだか意地悪だわ」
「そうかもね」
「まぁいいわ。ところで今日は何の用事できたの?」
「そりゃもちろん。遊びに来たんだよ」




