7ページ ルミネ
「ちょっと! どうしてダメなのよ!?」
街の中心にあるダンジョン。
その中を足早に歩く俺の後ろからシーナの叫ぶ声が聞こえて来る。が、無視だ。
「一緒に行動した方があんたにとっても悪い話じゃ無いはずよ!」
ダンジョンは所々崩れ落ちそうになっているが、観光スポットとして利用するためか修繕されている箇所も多くある。
いつもならダンジョンでしか味わえない独特の雰囲気を楽しむために、ゆっくりと祭壇を目指すが、今は一刻も早く魔法を覚える為に寄り道は無しだ。
ここで『ルミネ』を覚えた後は炎属性の『アルダン』を習得する予定だ。
それさえあればこのローブを燃やすことができる。
そうなれば、後ろからついて来る煩い女ともおさらばだ。
「習得魔法はゼロなんでしょ!? また襲われたらどうするつもりなのよ!?」
「魔法はこれから習得するし、襲われたらその時はその時でなんとかするよ。これまでだって似たようなことならいくらでもあったしな」
振り向きもせずにそれだけ言って俺は先を目指して歩く。
「だからって1人で集める理由なんてないでしょ!? 私がいた方が楽に集められるし、禁じられた魔法を使えば半分以上の魔法は手に入ったようなものじゃない!!」
そんなシーナの言葉に俺のイライラは募るばかりだ。
正直女じゃなかったら殴ってやりたい気分だった。
「それにこんな可愛い女の子と旅が出来るのよ!? 今までの寂しい1人旅よりも華があっていいじゃない!?」
「うるせぇ! 大きなお世話だよ!! だいたい自分で自分を可愛いとかいう女は決まって中身は腹黒いんだよ!! 魔法書も真っ黒だしな!」
「ちょっと!! それはいくらなんでも言い過ぎじゃない!! こう見えて私って結構尽くすタイプなのよ!!」
「自分の命を削ってまで尽くされたいとは思わないね」
「信っじられない!! 人がせっかく治してあげたのにそんな言い方するなんて!!」
シーナが叫ぶ。
しかし俺は無視して先を歩く。
理由はさっき伝えた。
「1人で集めるのがコレクターの醍醐味とか全然わからないんないんだけど!!?」
俺はシーナに向きなおると不満を爆発させるようにして声を荒げた。
「そういうコレクターのことを理解してないのが嫌なんだよ!!」
「してるわよ!!」
「お前が言ってるのは、ダンジョンのクリアに自分の魔法を使えばって言ってるんだろ?」
「それが何よ!?」
「それのどこが楽しいんだよ!? 他人の力を借りて集めた魔法なんて意味無いし、自分1人の力で集めたからこそ価値があるんだよ!」
「全っ然、理解出来ないわね!! それって友達のいないぼっちのただの強がりでしょ!? 仲間と協力して魔法を集めるのだって十分価値があると思うけど? 実際にそういうコレクターの方が多いじゃない!!」
「俺が嫌なんだよ! コレクターにはそれぞれこだわりってもんがあるんだ! それを理解しようとしない奴とは無理だって言ってんだ!! フィーネはダンジョンに入るために協力してもらってただけで、刻印の儀は全部俺1人でやってたんだよ!」
「でもそれで最終魔法のダンジョンで痛い目にあってたじゃない!!」
「う……」
痛い所をつかれて言葉に詰まる。
あの、ぼっち全否定の石板が苦い思い出となって蘇る。
「私がいなかったらこうしてもう一度魔法を集めることもできなかったのよ?それにあんたの魔法集めはこれまでと違って、ただダンジョンに入って発現条件をクリアするだけじゃないのよ?」
「何が違うんだよ」
「光裏教会よ。あんた自分が命狙われてるって自覚ある?」
俺はシーナに言われて思い出した。
フィーネが言っていた。
光裏教会が俺の最終魔法の発現条件を阻止しようとしていること。
そして殺そうとしていることを。
「上の連中はあんたに最終魔法を習得させまいと、なんとしても阻止しようとしてるわ。殺しても構わないって教会メンバーにお達しがあったし」
「マジかよ」
どうやらフィーネの言っていたことは本当のようだ。
「光裏教会の連中は上級魔法を覚えた人間が殆どよ。フィーネのように四大大魔法を覚えた魔法使いだっている。そんな人間を相手に今のあんたにどこまで対抗できるかしら」
シーナの言葉が正論過ぎて俺は何も言い返せなかった。
「ここは一般人も多く訪れるダンジョンだから連中も下手に魔法を使うことは出来ないでしょうけど、深海にあったダンジョンみたいに人っ子1人いないような場所だったら遠慮無しに魔法を使ってくるわよ? それこそフィーネみたいにね」
俺にはある程度魔法が使えればそれに対抗できる自信はある。
しかし、覚えるまで向こうがそれを待ってくれるとは到底考えられない。
いつ襲われてもおかしくは無いだろう。
「禁じられた魔法のダンジョンだってもうフィーネの協力は得られない。でも私の魔法があればそれも可能よ。発現条件のクリアだって、これからは絶対に邪魔が入って来る。そんな時に仲間がいればって思う時が必ず出て来るはずよ」
確かにシーナの言うことも一理ある。
しかし俺には納得できないことが一つあった。
「そもそもどうして魔法を集めるだけで命を狙われなきゃいけないんだよ。最終魔法がフィーネの言ってたように、全ての魔法を消失させるものだとしても、俺はそんな危なっかしい魔法使うつもりはないぞ」
あくまでも俺の目的は魔法のコンプリートであり、敢えて危険な魔法を使うつもりはない。
魔法書に全ての魔法を刻むのが俺の夢なんだから。
しかし現実はそう思い通りにはいかないようだ。
「そんなの簡単よ。あんたの意思なんて関係ない。それを発動できる魔法使いがいるってこと自体が脅威になるのよ。あんたが一言使うぞと脅せば誰もあんたに逆らえなくなる。それが光裏教会からしたら許せないんでしょうね」
俺は盛大に溜め息を吐くと、がっくしとうなだれた。
どうやら自分が思っていた以上に問題は複雑なようだ。
「はあ、取り敢えずお前連れて行くかどうかも含めて一度考え直すよ」
その後、俺とシーナは祭壇で刻印の儀を待つ列に並んで順番を待った。
シーナも『ルミネ』はまだ未習得らしく、ついでに覚えておくつもりのようだ。
禁じられた魔法をコンプリートしているのに、こんな初級魔法を覚えていないシーナに俺は違和感を感じつつも、自分の順番が来たので刻印の儀をさっさと済ませる。
そしてシーナも問題なく刻印を済ませると、俺たちはダンジョンを出た。
今後の方針を考えるためにも一度宿を目指す事にしたのだが、しかし近くまで来て俺は何かがおかしい事に気付いた。
「なあ、この辺てさっきまで観光客で賑わってたと思うんだけど、気のせいかな。不気味なくらい誰もいないんだけど」
大通りからは観光地とは思えない廃墟のような静けさを感じる。
「気のせいじゃないわね。どうやら早速私を仲間にした方がいいことに気付けるんじゃないかしら」
シーナがそっとローブの下にある魔法書に手を伸ばしたのが見えた。
俺は体内の魔力がひりひりする感覚に冷や汗を一つかいた。
こういう時は必ずと言っていいほど、問題が起きるパターンだったから。
そしてその予感は的中する。
「魔法コレクターのラスタだな?」